受取手形と商業手形割引
[要旨]
商行手形割引は、受取手形を銀行に買い取ってもらうことで、手形を現金化する方法ですが、これは実質的な融資取引です。そこで、銀行が融資審査をするときは、割引手形の残高を、受取手形の残高に加え、また、同額を「商業手形」勘定として、負債の部に加えるという修正を行います。
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今回も、早稲田大学ビジネススクールの西山茂教授のご著書、「『専門家』以外の人のための決算書&ファイナンスの教科書」から、私が気づいた点について述べたいと思います。前回は、リース会計基準によれば、リースを利用した場合、リース料総額の現在価値をリース資産という勘定科目で資産計上することになっているものの、中小企業等では、リース会計基準を義務付けられていないので、リースを利用してもリース資産を計上していない場合があるということを説明しました。
今回は、西山教授は、直接的に言及はしていませんが、貸借対照表に関する注意点として、商業手形割引について説明します。会社の資金調達方法のひとつに、商業手形割引というものがあります。これは、会社が、商品の販売代金を、約束手形(または、為替手形)で受け取ったとき(貸借対照表には、受取手形という勘定科目で計上されます)、手形の期日までは現金化できないため、銀行に買い取ってもらい、現金化する方法です。もちろん、買取してもらうときは、その日から手形期日までの利息相当額を、手形割引料として銀行に支払います。
また、商業手形割引は、法律上は手形の売買ですが、実質的には融資取引なので、会社が商業手形割引を銀行に依頼したときは、銀行は融資審査を行います。その際、申し込んできた会社の業績が悪かったり、手形の支払人の業績が悪かったりする場合は、申し込みを断られることもあります。ちなみに、「商業手形」とは、「商取引で発生する手形」という意味で、これの対義語は、「融通手形(金融手形)」です。融通手形は、商取引の裏付けがなく、単に、資金の融通を受けるために発行された手形を指します。
話を戻して、会社が銀行に商業手形割引をしてもらった場合、一般的な仕訳では、その手形の金額を、貸借対照表から減額します。例えば、100万円の受取手形を割引してもらい、その買取代金を普通預金に入金してもらった場合、(借方)普通預金100万円/(貸方)受取手形100万円という仕訳をします。(もちろん、これに加えて、手形割引料を普通預金から差し引く仕訳も行います)ただし、貸借対照表の欄外には、会計期間の末日時点で割引してもらっている手形の金額の合計額を、貸借対照表とともに作成される個別注記表に、「受取手形割引高」として記載します。
ところで、前述のとおり、商業手形割引は、実質的には融資取引なので、銀行は、融資審査のときに、貸借対照表を修正します。具体的には、個別注記表に記載されている手形割引額を受取手形の金額に加え、それと同時に、流動負債の部に、「商業手形」という勘定科目で手形割引額を加えます。この修正した貸借対照表の方が、融資審査の観点からは、実態を示している貸借対照表であると、銀行は考えているのです。
だからといって、修正前の貸借対照表が誤りということではありません。どちらにしても、貸借対照表を見る側は、受取手形割引高の情報は得られるので、貸借対照表に書かれているのか、個別注記表に書かれているかの違いです。ただ、受取手形割引高をどこに記載するのかという考え方によって、貸借対照表の金額が変わってくるということに注意が必要です。なお、政府の働きかけによって、約束手形の取り扱いは、2026年までに廃止される見込みのようです。この、約束手形に代わる決済手段である電子記録債権も、商業手形割引と同様に「割引」をした場合は、会計期間の末日の割引額の残高を、個別注記表に記載することが妥当とされているようです。
2022/4/23 No.1956