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経営戦略に定型的な答えなどない

[要旨]

会社の経営環境は、個々の会社ごとに異なるので、それぞれに適した経営戦略も異なります。そこで、効果の高い経営戦略を策定するには、まず、SWOT分析や5フォース分析などの手法をつかって、外部経営環境や内部環境分析を行わなければなりません。

[本文]

今回も、前回に引き続き、KIT虎ノ門大学院教授の、三谷宏治さんのご著書、「経営戦略全史」を読んで、私が気づいたことについてお伝えします。三谷さんは、前回の、チャンドラーとアンゾフに引き続き、別の2人の経営学者の架空の会話をご著書に書いておられます。そのひとりは、米国の経営学者のアンドルーズで、SWOT分析を広めた人です。もうひとりも米国の経営学者で、3つの基本戦略、5フォース分析、バリューチェーン分析などを提唱した、ポーターです。

「[アンドルーズ]企業は、ひとつひとつ違うので、経営戦略に定型的な答えなどなく、あるのは、ただ、分析や計画の手順だけだ。だから、ケースの徹底的な議論を通じて、その力を磨く、それが、このビジネスポリシーという授業の本質なのだ。[ポーター]本当に、あの授業には感銘を受けました。(中略)[ア]そうなんだが、SWOT分析も、ずいぶん誤解されてしまった。本当は、あれは『分析』ではなく、あれをやったから、すぐ結論が出るようなものではなくて、外部環境と自分の競合上の強み・弱みを冷静に整理するための枠組みに過ぎない。

ずいぶん後に、ワイリック君が、それらを組み合わせて、戦略オプションを出す、TOWS分析(クロスSWOT分析)をつくってくれた。それですら、オプションを出すツールに過ぎず、結論が自動的に出るものじゃない。[ポ]『経営戦略とは総合芸術である』がビジネスポリシーのスタンスですよね。でも、少なくとも、ビジネスの外部環境の分析はもっと緻密にできると思うんです。そもそも、誰も儲からない市場で、いくら頑張っても無駄なので、そうなのかそうでないのかを分析したくて、5フォース分析を考え出したのです。(中略)

しかも、経営戦略っていったって、儲けられる在り方は、結局、3種類しかないんです。敵より安くつくれるか(コストリーダーシップ)、敵より付加価値が高いか(差別化)、敵より土俵を絞り込むか(集中)、この3つだけです。[ア]ずいぶん思い切って単純化したね。[ポ]人間関係論もいいんですけど、企業は価値を生み出すためのシステムです。バリューチェーンという名のプロセスなんです。それが、儲かる市場を選んで、敵に対して優位な場所を占めることで、初めて利益を生み出せるんです。そういった、『ポジショニング』が、経営戦略のすべてなんです」

この会話に登場した、SWOT分析と、5フォース分析は、いずれも外部経営環境と内部経営環境を分析するための手法です。そして、3つの基本戦略は、経営環境分析の結果に基づいて、そこから導かれる妥当な戦略は、3つに分類されるという考え方です。これらの分析方法や考え方から分かることは、それぞれの会社がとるべき戦略は、会社ごとに異なるということです。したがって、経営環境分析が重要であるということがわかります。

このことは当然のことなのですが、私のコンサルティングの経験から感じることは、自社の環境分析を行わずに、妥当な経営戦略を考えようとする経営者の方は少なくないようです。例えば、他社が成功している戦略を、自社でもそのまま実践しようとすることは珍しくないように思われますが、他社が成功する戦略が、必ずしも、自社で成功するとは限りません。また、多くの会社で成功する戦略は、言い換えれば、差別化は行いにくいものということでもあります。だからこそ、経営環境分析を行ってから、自社に適した戦略を策定するという手順を踏むことが重要です。

2022/10/14 No.2130

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