ブランディングの定義
[要旨]
ブランディングコンサルタントの渡部直樹さんによれば、ブランディングの定義は、ブランド側の「こう思われたい」(ブランド・アイデンティティ)と、お客様側の「こう思う」(ブランドイメージ)を一致させるための活動ということです。
[本文]
今回も、ブランディングコンサルタントの渡部直樹さんのご著書、「愛され続ける会社から学ぶ応援ブランディング」を読んで、私が気づいたことについてご説明したいと思います。前回は、渡部さんによれば、食品偽装やデータ改ざんなど、不正をすることによって顧客の期待を裏切れば、その会社のブランドは一気にマイナスに陥るので、経営者の方は、ブランドをプラスの状態にするために、社外への活動に注力するだけでなく、それと並行して、社内をマネジメントすることも重要ということを説明しました。
これに続いて、渡部さんは、渡部さんが定義するブランディングについて述べておられます。「お客様から識別されるだけでなく、先程のようなブランドプラスの状態にするためには、どうすればいいのでしょうか?その答えこそがブランディングです。ということで、ここからは、本書におけるブランディングの定義についてお話させていただきます。(中略)ブランディングに必要なのは、企業が伝えたい独自性のある価値を言葉にした、ブランド・アイデンティティです。
なぜ、独自性のある価値でないといけないのかというと、競合と同じ価値であれば、比較されるのは価格だけになってしまうからです。そのため、競合にはない、自社独自の価値は何なのかを掘り下げ、それを言葉にしていきます。このブランド・アイデンティティを簡単にいうと、私たちのブランドはお客様に『こう思われたい』という意図を言葉にしたものです。一方で、お客様も、そのブランドに対して何らかの心象を抱いています。これをブランドイメージと言います。
ブランドイメージは、簡単に言うと、私はあのブランドのことを『こう思う』です。本書におけるブランディングの定義は、『ブランド側の“こう思われたい”と、お客様側の“こう思う”をイコールにするための活動』です。では、ブランディングが成功すると、どのような状態になるのでしょうか?いくつかの質問を通して、実際に体感していただきたいと思います。例えば、パーソナルトレーニングジム。たったこれだけの情報だと、意図したブランド名を思い浮かべてもらうことはできません。
では、そこに、このような価値が備わるといかがでしょうか?(1)『結果にコミットする』パーソナルトレーニングジムと言えば?次は食べ物です。牛丼にこのような価値が備わると、あなたはどのブランドを思い浮かべますか?(2)『うまい、やすい、はやい』牛丼と言えば?最後はカフェです。次のような価値が備わったカフェというと、あなたはどのブランドを思い浮かべますか?(3)『サードプレイス』のようなカフェと言えば?ちなみに、サードプレイスとは、『自宅(ファーストプレイス)』でもなく、『職場(セカンドプレイス)』でもなく、自分らしさを取り戻せる第三の居場所のことを表す言葉です。
正解は、(1)ライザップ、(2)吉野家、(3)スターバックスコーヒーとなります。すぐにピンときたブランドもあれば、『へ~、そんな意味があったんだ』と、初めて知ったブランドもあったのではないでしょうか?それでいいのです。ここでお伝えしておきたいのは、ブランドが伝えたい価値は全員に響かなくてもいいということ。伝えたい価値をつくるのはブランド側ですが、価値はお客様が感じるもの。自分たちのブランドが提供する価値を、価値として感じていただける人にだけ響けばいいのです」(81ページ)
厳密には異なりますが、渡部さんの言うブランド・アイデンティティは、USPに似ています。USPは、Unique Selling Propositionの略語で、「独自の売りの提案」という意味です。USPの具体的な例は、ドミノピザの「30分以内に届かなければ無料」というものです。このUSPによって、ドミノピザは、ピザが熱いうちに配達するという提案を行い、多くの方から支持を得ました。本旨からそれますが、USPが自社の強みという意味で使われることがあります。
確かに、USPを打ち出すためには、それを遂行するための強みが必要になりますが、USPそのものは強みを指すものではなく、その強みを活かした提案であるという点で、強みとはまったく異なるという点に注意が必要です。話を戻すと、USPと同様に、ブランド・アイデンティティは、会社自身で考えなければなりません。単に、多くの人に認知されたいとか、高い評価を得たいと考えているだけでは、ブランド・アイデンティティをつくることはできません。自社の強みを活かして、顧客からどのように評価されたいのかを明確にしなければなりません。
ちなみに、これも本題からそれますが、私の経験から感じることは、よく、「地域密着」や、「伝統の技術」といった言葉を使おうとする会社がありますが、これらや、これに類似する言葉は、多くの会社が使っているので、あまり効果がないと感じます。確かに、地域密着や伝統の技術は独自性はあるものの、抽象的であり、顧客に伝わりにくいという面があります。したがって、どのような強みがあるのかというよりも、顧客にどのようなベネフィットがあるのかを伝える方が望ましいと、私は考えています。その点で、吉野家のブランド・アイデンティティは、「うまい、やすい、はやい」というベネフィットが明確になっていて優れていると、私は考えています。
話を戻すと、もうひとつのポイントとして、ブランドイメージは、顧客が感じるものなので、すべての人が自社のブランド・アイデンティティに共感してもらえるわけではないということです。吉野家の例でいえば、「うまい、やすい、はやい」というベネフィットは、男性のビジネスパーソンには受け入れやすいものですが、依然として、若い女性の多くは、牛丼店で牛丼を食べようと考えていないので、このベネフィットは受け入れてもらえないでしょう。
ここで再び話がそれますが、若い女性のビジネスパーソンの多くは、「世の中の体温をあげる」というブランド・アイデンティティを掲げている、スープストックトーキョーを支持しています。話を戻すと、ブランド・アイデンティティは、すべての顧客に受け入れられるものではないものですが、だからといって、標的とする顧客には確実に伝わらなければなりません。したがって、適宜、ブランド・アイデンティティの効果を検証し、想定した効果が得られない場合は、改善を加えるという活動も続けることが欠かせません。
2024/7/5 No.2760