中小企業支援には採算性が必要
[要旨]
地域金融機関の融資の70%が、金利1%未満となっており、単に、合理化だけでは収益を安定させることがむずかしい状況になっていることから、政府系金融機関の低利融資を限定的にするなど、金利の過当競争を排除することが必要です。
[本文]
先日、東洋経済特約記者のリチャード・カッツ氏が、東洋経済オンラインに、「菅政権の『勘違い』が地銀を殺しかねない理由」という論文を寄稿していました。(ご参考→ https://bit.ly/2HtlKUv )記事の主旨は、「日本銀行のマイナス金利政策が、日本の銀行の収益性低下に大きく影響しているにもかかわらず、菅総理大臣は、ロイター通信からの質問に、『(地方銀行の収益性低下の最大の問題は)地方銀行の数が多すぎること』と回答した。
しかし、実際には、現在の、銀行融資の20%の金利は0.25%未満であり、37%が0.50%未満、70%が1.00%未満である。いっぽう、20年前は、0.50%未満どころか、1.00%未満の融資は、ほとんどなかった」というものです。私も、カッツ氏の意見に賛成です。確かに、マイナス金利政策が実施されているときは、中小企業もその恩恵を受けるべきです。
しかし、マイナス金利か、金利0.00%で融資を受けることができる会社は、信用リスクがない(倒産することがない)という前提であり、金額も10億円単位の場合です。信用度もそれほど高くなく、また、小口融資(10円未満)しか利用しない中小企業は、信用コスト(貸倒に備えるコスト)や事務コストも考慮された金利でなければ、融資をする側である銀行は、十分な採算を得ることができません。私は、具体的には、地域金融機関の中小企業向融資は、1.00%以上が妥当と考えています。
しかし、地域金融機関が金利競争に巻き込まれている理由の、最も大きなものは、政府系金融機関の低利融資でしょう。政府とすれば、中小企業に低利融資をすることが、中小企業を助けるという考え方をしているでしょう。しかし、そのような支援は、あくまで民間金融機関の補完とするべきであり、民間金融機関の収益基盤を弱めることに影響しているとすれば、最終的に困るのは、民間金融機関を最も頼りにしている、中小企業です。
だからといって、私は、地域金融機関同士に競争をさせてはならないとか、地域金融機関の合理化が十分であるという主張をするつもりはありません。ただ、現在の、金利水準は、行き過ぎであると思っています。すでに、地域金融機関は、地域の中小企業を支援するという使命をもって活動していることは事実だと思います。そうであれば、適切な利益を得られる状況にしなければ、仮に、地域金融機関が合併し、数が減ったとしても、本当の課題は解決しないと、私は考えています。