成城石井の強みはマーチャンダイジング
[要旨]
成城石井は、販売活動より購買活動に注力することで競争力を高めていいますが、小売業の競争力は、必ずしも販売活動だけに注力すればよいとは限らないので、価値連鎖分析によって、自社の独自性を活かせる戦略を編み出すことをお薦めします。
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上阪徹さんのご著書、「成城石井世界の果てまで、買い付けに。」を拝読しました。多くの方がご存知の通り、成城石井は売られている商品の魅力が高く、多くの方に支持されているスーパーマーケットです。そして、同書では、成城石井の魅力的な商品が、どうやって店頭に並ぶに至ったかという事例が、たくさん紹介されています。
例えば、同社の看板商品のひとつである、イタリアのフェラリーニ社のチーズ、パルミジャーノ・レジャーのは、同社の原昭彦社長が、バイヤー時代の20年前、ヨーロッパの展示会で見つけた商品で、それを卸してもらうために、あしかけ3年をかけてフェラリーニ社と交渉したそうです。
そのような、同社の優れた購買活動の詳細は、同書をお読みいただきたいのですが、成城石井は、業種としては、スーパーマーケットでありながら、実態は、日本の消費者にとって、本当においしい食べものを仕入れてくれる、ありがたいエージェント的な存在だということを感じました。一方、決して批判するわけではありませんが、日本のスーパーマーケットの多くは、販売することに最も注力している会社が多いと思います。
でも、成城石井では、マーチャンダイジング(品揃え)に最も注力しています。そして、このことも、私が述べるまでもなく、多くの方が理解しています。ところが、成城石井のように、マーチャンダイジングに注力するお店は、なかなか増えていないように感じます。というのも、マーチャンダイジングに力を入れるというのは、部外者が考えるほど容易なことではないからなのでしょう。
かといって、やはり、ほかのお店と同じようなことをしていても、いつまでも競争から抜け出すこともできないので、そのような面で打開策を検討している会社に対しては、私は、価値連鎖分析をすることをお薦めしています。価値連鎖分析とは、事業活動は価値の連鎖であるという前提で、自社の産出する製品(販売する商品、提供するサービス)は、どの活動でどれらいの価値を産み出しているのかということを分析する手法です。
これは、米国の経営学者のポーターが提唱したものですが、事業活動を、購買物流、製造、出荷物流、販売・マーケティング、サービス、全般管理、人事・労務管理、技術開発、調達購買物流の9に分類し、自社の製品の価値の大きな部分を占める活動の強みを発揮できるような戦略を打ち出すべきであると主張しています。
やはり、小売業というと、販売活動がメインと考えられがちですが、競争力を高める方法は、必ずしも販売活動に注力する方法だけとは限りません。そこで、繰り返しになりますが、自社の競争力を強化したいと考えている経営者の方には、前述の価値連鎖分析を行い、新たな戦略を生み出すヒントをつかんでいただければと思っています。