会社の実力は入社後の『社員教育の量』
[要旨]
変圧器メーカーのNISSYOの社長の久保寛一さんは、会社の実力は、社員の学歴ではなく、入社後の社員教育の量で決まると考えているそうです。そこで、同社では、従業員1人当たりの教育費を、平均的な会社の約13倍の50万円をかけ、特に価値観の共有に、その7割を充てているそうです。
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今回も、前回に引き続き、NISSYOの社長、久保寛一さんのご著書、「ありえない! 町工場-20年で売上10倍! 見学希望者殺到!」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、久保さんは、社員が会社を辞める理由は、(1)『仕事』が嫌で辞める、(2)『上司』が嫌で辞める、(3)『会社』が嫌で辞めるの3つに大別できると考えており、適性に合わせた配置転換、社内コミュニケーションの活発化、価値観教育の実施などを行い、人材流出を防いでいるということについて説明しました。
これに続いて、久保さんは、社員教育に時間とお金をかけることが重要ということについて述べておられます。「産労総合研究所が発表した、『2018年度(第42回)教育研修費用の実態調査』によると、従業員1人当たりの2017年度実績額(教育研修費用)は、年間で38,752円でした。では、当社の社員1人当たりの年間教育費はいくらかというと、2019年度は、約50万円でした。一般的な企業の約13倍も教育研修費用を使っているのは、『人の成長なくして、会社の成長はない』と考えているからです。会社の実力は、社員の学歴で決まるわけではありません。会社の実力を決めるのは、入社後の『社員教育の量』です。
『社員教育には時間とお金をかける』のが当社の方針です。(中略)社員教育の目的は、『スキルアップ』と『価値観の共有』の2つですが、NISSYOでは、『価値観の共有』に力を入れています。教育研修費用のうち、スキルアップ教育にかけているのは、約3割。残りの7割は価値観の共有に費やしています。組織づくりにおいて重要なのは、当社の考えや、価値観、風土に共感でき、行動を共にできるかどうか。そのためには、価値観教育に力を入れて、全従業員が共通の言葉と共通の認識を理解することが大切です」
従業員教育に力を入れた方がよいということは、ほとんどの方が賛同されると思います。ただ、従業員教育にかけた費用は、どれだけ収益に貢献するのかが見えにくい面もあり、教育費の増加に躊躇する経営者の方も多いと思います。ただ、これからの時代は、事業活動のどこに力を入れるべきかというと、情報化武装と従業員育成しか残されていないと、私は考えています。これを言い換えれば、会社の競争力を高めるには、情報化武装と従業員育成以外の方法はないのではないかと思います。
そうであれば、教育費がどれだけ収益に貢献しているかが見えにくいとしても、教育費を増やすことには、あまり、躊躇しない方がよいと言えると思います。また、社長が従業員の教育に力を入れているという姿勢は、社長が従業員に期待しているということを示すことになり、従業員の士気を高めることになると思います。また、会社の後押しによってスキルを高めていけば、従業員は自分の成長を実感し、さらに学んでスキルを高めようという意欲を強めるでしょう。このように、直接的な因果関係を示すことは難しいものの、従業員教育に注力することは、これからは、会社の競争力を高めるためには、ますます、重用になっていると言えます。
2024/2/21 No.2625