銀行の業績が下がる要因
[要旨]
経済環境が厳しい期間は、銀行は、融資を増やせば与信コストが増加し、銀行の業績が悪化しますが、そのことに対して銀行を批判することは、逆に、社会全体の経済活動の回復を遅らせることにつながります。
[本文]
経済評論家の塚崎公義さんが、ダイヤモンドオンラインに寄稿した、銀行の貸し渋りに関する記事を読みました。記事の要旨は、銀行には自己資本比率規制があり、自己資本の12.5倍の金額が、融資額の上限になっているので、それ以上は、銀行が融資を増やしたくても増やすことができない。そこで、コロナの影響を受けた会社が、十分に融資を受けらるようにするために、銀行に公的資金を投入し、銀行の自己資本を増やせば、銀行も融資を増やすことができるようになる。
ところが、政府がそのようなことをしようとすると、その意図をよく理解しない人たちから、「政府は銀行だけを助けようとする」と批判が行われる。しかし、童話にある「手と口のけんか」のように、社会全体の仕組みを理解しない批判をしてしまうと、自らの首を絞めることになってしまうので、注意が必要だ、というものです。これについては、私も、塚崎さんのいう通りであると思います。そして、この記事を読んで、今後、銀行の業績が下がったときも、早計に銀行を批判することは避けなければならないと、私は考えています。
銀行の業績は、融資相手から受け取る融資利息と、預金者に支払う預金利息の差額である利鞘が主要な要因ですが、その他に、融資した相手から返済されなかった融資金と、その見積額の合計額(=与信コスト)がどれくらいあるかということも、業績に大きく影響します。当然、今後、銀行が、コロナの影響を受けた会社に対して融資を増やせば、与信コストが増加します。では、銀行が、与信コストを増やさないようにするためにはどうすればよいかというと、業績がよくない会社への融資を控えるようにすればよいのですが、そのようなことをすると、今度は、「銀行は貸し渋りをしている」と批判されてしまいます。
そこで、銀行の経営者は、貸し渋りをしてはいけないし、かといって、銀行の収益を減らしてもいけないという、とても難しい二律背反の中で決断をしながら経営をすることになります。そして、どこでそのバランスをとるのかということは、簡単には示すことはできないのですが、銀行は融資を増やしても、融資を減らしても、どちらにしても批判を受けやすいわけです。そして、銀行の経営者もそのことを理解した上で、どれくらい融資を増やそうかという決断をしているので、銀行の利用者は、その仕組みをよく理解した上で金融行政を見ていくことが、社会全体にとって大切であると、私は考えています。