[要旨]
子会社のうち、その会社の発行済株式のすべてを所有している会社は、親会社から見て完全子会社といいますが、完全子会社ではない子会社は、親会社以外の株主などから協力が得られるというメリットがある一方で、完全子会社は親会社の意思を迅速に反映できるというメリットがあります。
[本文]
前回は、事業持株会社と純粋持株会社について説明しましたが、今回は、完全子会社について説明します。端的に述べれば、子会社のうち、その会社の発行済株式のすべてを所有している会社は、親会社から見て完全子会社ということになります。逆に、完全子会社の親会社は、子会社から見て完全親会社ということになります。
前回の記事で例示したソニーの子会社の中には、金融事業を営んでいる、ソニーフィナンシャルホールディングス(SFH)がありますが、来年、ソニーが純粋持株会社になるにあたり、同社は、株式公開買付(TOB)によってSFHのすべての株式を取得し、完全子会社化するようです。このことにより、SFHの事業については、純粋持株会社であり、完全親会社の、ソニー(純粋持株会社になったときの商号は、ソニーグループ)の方針が、直ちに反映されるようになります。
完全子会社でなくても、子会社は、親会社に支配されてはいるものの、株主が親会社単独である完全子会社は、株主が複数いる子会社よりも、親会社の意思を迅速に反映しやすいということは、直感的にご理解いただけるでしょう。では、持株会社が、子会社を完全子会社としていない、すなわち、子会社に親会社以外の会社や投資家に株式を所有させることがあるのは、どのような理由があるのでしょうか?
これにもさまざまな理由があると思いますが、子会社の株式をほかの会社に所有してもらう代わりに、その会社から協力を得よとしたり、子会社を上場させることで、子会社に単独で証券市場から資金を調達させようとするなどの狙いがあると思います。したがって、親会社が子会社を完全子会社にするか、株式の一部をほかの会社や投資家に所有してもらうかは、それぞれ一長一短があり、ケースバイケースで判断することになると思います。
ちなみに、NTTがNTTドコモを完全子会社にした理由ですが、NTTドコモは、NTTによる同社株式の公開買付について発表した資料の中で、「公開買付者(NTT)は、本取引(TOB)を通じて、当社(NTTドコモ)を完全子会社化し、親子上場にともなう親会社と少数株主の潜在的な利益相反関係を解消して、公開買付者グループと当社グループの利害を完全に一致させると同時に、当社の機動的な意思決定を可能にすることで、当社と公開買付者グループの中長期的な視点に立脚した成長を進することができると考えた」と、説明しています。
これだけではやや抽象的ですが、私の想像では、これからNTTドコモが、通話料金などの値下げをしなければならなくなると見込まれることから、その決定をなるべく円滑に行いたいという意図があるからだと思っています。もちろん、NTTドコモの完全親会社になる予定のNTTにも、一般株主がいるので、同社の株主総会で、完全子会社のNTTドコモの事業に関する意見が出されるとは思いますが、直接、NTTドコモの株式を持っている株主から意見を出されるよりも、値下げの意思決定をしやすくなると予想できます。
したがって、NTTがNTTドコモを完全子会社にする理由としては、NTTドコモの株式を上場させておくメリットよりも、重要な課題に対する意思決定の迅速化を選んだということになると思います。(この記事は、理解しやすさを優先するために、一部、正確でない記述がありますので、あらかじめご了承ください)
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