8割が落第しそうな勢い
[要旨]
事業再構築補助金の第1回公募に関し、経済産業省は、事業計画書の説得力が不足する例が多いと評価しています。中小企業の多くは、事業計画書の作成に不慣れであることから、そのような例が多いということが実態であるとはいえ、今後、競争力を高めていくには、成行ではなく、実現可能性の高い事業計画を作成して遂行することが望ましいと言えます。
[本文]
「1次申請の申請書には共通した特徴があり、顧客規模の想定の積算根拠が甘い、なぜ、それだけの顧客を獲得できるのかというところを厳しく見ると、8割が落第しそうな勢いだ」これは、5月31日に行われた、令和3年度行政事業レビューで、経済産業省の官僚の方が、事業再構築補助金について述べた言葉です。この行政事業レビューの様子は、Youtubeの動画で公開されており、前述の説明は、開始後、約43分のところで聴くことができます。(ちなみに、事業再構築補助金の通常枠の第1回公募の応募数は、16,968者、うち、申請要件を満たした者は14,843者、採択数は5,104者で、応募数に対する採択数の割合は、30.1%でした)
私は、これを聴いたとき、中小企業の実態から鑑みると、それほど不思議とは感じませんでした。経済産業省の方から見れば、新たな事業を展開するときは、見込のある新市場を設定し、そこに向けて競争力の高い商品を投入するという、セオリーに従った事業計画書が提出されることを期待していたのだと思います。私も、それが望ましいことは理解できるのですが、現実的には、残念ながら、中小企業の多くは、それを実践することは、なかなか容易ではありません。
その最大の理由は、経営資源が比較的少ないため、展開できる事業の選択肢も、それほど多く持つことができないということです。すなわち、現在の事業を深堀りするか、それを少し応用することで精一杯という場合が多いと感じています。さらに、そのような状況から、新たな事業展開のための計画策定は、あまり行われていないことから、補助金に応募するために事業計画書を策定しようとしても、それに不慣れであり、結果として、経済産業省の方が期待していたような水準を満たす事業計画書を作成できた会社は少なかったのでしょう。
その一方で、経済産業省は、5月12日に全国銀行協会などに対して行った、「緊急事態宣言の延長等を踏まえた資金繰り支援等について」( https://bit.ly/3Ammulh )と題する要請の中で、「今般の協力金も含めた各種支援策の支給までの間に必要となる資金等について、柔軟かつきめ細やかな対応を行うこと、貸し渋り・貸し剥がしを行わないことはもちろんのこと、そのような誤解が生じることのないよう、事業者の立場に立った最大限柔軟な資金繰り支援を行うこと」と述べていますが、その割には、同省は中小企業の実態を把握できていないと、私は感じています。
だからといって、中小企業が現状のままでよいということにはなりません。中小企業が自ら展開する事業に関し、単に、成行で実施しているということではなく、実現可能性を探り、きちんとした根拠をもって展開していると説明できることは、補助金だけでなく、銀行からの融資を受けるにあたっても望ましいことは、いうまでもありません。