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[要旨]

事業活動で、ものやお金が動いたときは、必ず、伝票を起票して、直ちに会計取引を記録しなければなりません。会社によっては、伝票だけを先に起票し、後からものが動いたり、また、その逆のことをしたりして、会計データを偽ったものとすることが行われますが、そのようなことは行ってはいけません。

[本文]

今回も、前回に引き続き、稲盛和夫さんのご著書、「稲盛和夫の実学-経営と会計」を読んで、私が気づいたことについて述べます。「経営活動においては、必ず、ものとお金が動く、そのときには、もの、または、お金と伝票が、必ず、1対1の対応を保たなければならない。この原則、『一対一対応の原則』と、私は呼んでいる。これは、一見すると当たり前であるが、実際には、さまざまな理由で守られていないことが現実である。

例えば、伝票だけが先に処理されて品物は後で届けられる、これとは逆に、ものはとりあえず届けられたが、伝票は、翌日、発行されるといったことが、一流企業と言われる会社でも、頻繁に行われている。このような『伝票操作』、ないし、『簿外処理』が少しでも許されるということは、数字が便法によって、いくらでも変えられるということを意味しており、極端に言えば、企業の決算などは、信用するに値しないということになる」(64ページ)

稲盛さんのこのご指摘を読むと、7年ほど前に、日本を代表する家電メーカーが、8年にわたって粉飾決算をしていたり、2年ほど前に明らかになった、大手生命保険会社が、高齢者の方に、18万件の不適切な保険契約を行ったりした事件などが思い出され、改めて、まったくその通りだと思えてきます。そして、これは、会計の問題ではなく、そもそも、事業に誠実に取り組もうとする姿勢が欠けていたという問題なので、あまり深い議論をする必要はないでしょう。

ただ、私が、中小企業の実態を見てきた経験から感じることは、この「一対一対応の原則」が守られていないことが珍しくないようです。そういうことが起きてしまうのは、事業活動は、伝票を起票しなくても行うことができるからです。例えば、本当は、商品を販売相手に届けたときに、伝票を書いて売上を計上しなければならないのに、それをしないまま、売上金が銀行口座に入金になってから、売上を計上するということが行われることがあります。

また、材料の仕入れについても同様で、会社に材料が届いた時点で、本当は、伝票を書いて仕入を計上しなければならないのに、仕入相手から請求書が届いて、それに基づいて仕入代金を支払う時に仕入を計上するということが行われたりすることがあります。このような状態では、自社の収益の状況を、正確、かつ、迅速に把握できなくなります。さらに、銀行から融資を受けようとするときも、経理処理が不正確なままでは、銀行からの信頼を得ることが難しくなります。したがって、ものやお金が動くときは、伝票も起こさなければならないという、稲盛さんの原則を、起業した時から実践することが重要です。

2022/12/11 No.2188

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