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[要旨]

会計の論理では、貸手責任より株主責任は重いものなのですが、それを理解する方は意外と少なく、それが劣後ローンへの評価の妨げとなっているようです。


[本文]

最近、劣後ローンの話題が多くなってきているように感じます。私は、劣後ローンの活用に否定的ではないのですが、少し気になることがあります。それは、貸手責任と株主責任を理解しない人も少なくないということです。とはいえ、明確な根拠を持っているわけではないのですが、私は、貸手責任と株主責任に関し、ある出来事を思い浮かべます。それは、東日本大震災の後、発電所の事故を起こした電力会社に対する銀行からの融資について、当時の内閣官房長官が、いったん、債権放棄を求めることを示唆したものの、後に、それを撤回したことです。(ご参考→ https://bit.ly/3eJTSqs

同長官が、銀行に債権放棄を求めることを示唆したことについては、同長官なりの考えがあったとはいえ、もし、同長官に、貸手責任より株主責任が軽いという理解があれば、そのような示唆はしなかったと、私は考えています。同長官としては、単に、電力会社に融資をしていた銀行に、債権放棄による支援を求めようとしていただけのことと思われますが、それは、金融関係者や投資家には、貸手責任のある銀行が債権放棄をさせられるのだから、貸手責任よりも重い責任がある株主は、当然に株主としての責任を負う、すなわち、出資金が返還されなくなると理解されたため、同長官に対して多くの批判が行われました。そこで、同長官も、後になって、銀行への債権放棄は求めていないという発言をすることになったのでしょう。

とはいえ、今回は、同長官への批判が主旨ではありません。株主責任は理解されにくいものであるということをお伝えしたかったので、約9年前の出来事を引き合いに出しました。話を劣後ローンに戻すと、劣後ローンは、銀行が融資相手に対して、実質的に株主と同様の責任を負うという契約です。それは、一般の融資では、単なる貸手責任しか追わない契約であるものの、劣後ローンの契約では、貸手責任よりも重い、株主責任を負うということです。ただ、株主責任が貸手責任より重いということを理解されていないと、劣後ローンにどのようなメリットがあるのかということも理解されません。

もちろん、株主責任を理解している経営者の方もたくさんいますが、中には、会計そのものからして理解できないという経営者の方もいます。このような現状に対して、どうすればよいのかという結論を、私も直ちには示すことはできないのですが、会計に詳しい経営者の方が、より、的確な事業運営を行うことができるということに間違いはないでしょう。会計は理解できなくても、事業はうまく運営できると考える経営者の方も少なくないと思いますが、これからは、事業運営の巧緻の比重は管理業務に移っていくと考えられますので、できれば、多くの経営者の方に、会計にも関心をもっていただきたいと思っています。

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