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財務面のデューデリジェンス

[要旨]

財務面のデューデリジェンスは、資産が実際の価格より多く貸借対照表に計上されていないか、負債が実際の価格より少なく計上されていないかを確認します。ただし、会計処理を正しく行っても、貸借対照表の資産の価額と実際の価格にはずれが生じます。その乖離を確認することが、デューデリジェンスの主な目的とも言えます。

[本文]

今回も、早稲田大学ビジネススクールの西山茂教授のご著書、「『専門家』以外の人のための決算書&ファイナンスの教科書」から、私が気づいた点について述べたいと思います。前回は、デューデリジェンスは、法務、会計・税務、ビジネス、システム、環境を対象に行なわれ、このうち、ビジネスについては、ポテンシャルについて確認が行われるので、業績が向上しているときは、それが大きく評価されるということを説明しました。

今回は、財務面のデューデリジェンスは、どのようなことを行うのかということについて説明します。西山教授によれば、財務面のデューデリジェンスは、実際の資産の価額が、貸借対照表に計上されている金額より少なくないか、実際の負債の額は、貸借対照表に計上されている金額より多くないかを確認することが中心になっているそうです。

このようなデューデリジェンスによって、買収する側の会社が、M&Aに際し、買収される側の会社の実際の価値より、大きな金額を支払わないですむようにするそうです。具体的には、まず、売掛金や受取手形の中に、回収が困難なものが含まれていないかを確認します。つぎに、棚卸資産の中に、時価より高く計上されているものが含まれていないを確認します。

さらに、有形固定資産、無形固定資産についても、適切が価額で計上されているかを確認します。場合によっては、有形固定資産や無形固定資産は、減損処理を検討する必要があるそうです。また、これは、西山教授は言及していませんが、有形固定資産の中には、時価の方が高い場合もあるので、それについては、いわゆる含み益を確認することが妥当でしょう。

また、負債については、過失、または、故意に計上されていないものがないかを確認します。具体的には、退職給与引当金などの負債性引当金が、適切な額が計上されているかを確認します。また、西山教授は言及していませんが、完全に確認することは難しいものの、保証債務の有無、そして、それがある場合は、支払承諾勘定に計上しているかも確認することになると思われます。

ところで、買収される側の会社が、仮に、企業会計原則に完全に従って会計処理を行っていたとしても、貸借対照表の金額が、その会社の価値を正しく表すことにはなりません。したがって、デューデリジェンスは、買収される側の会社が、適切に会計処理を行っているかどうかだけではなく、会計手続きだけでは反映されない、実際の資産の価格がどれくらいあるかということを、確認することにもなります。

だからといって、会計処理は不正確でもよいということにはなりません。買収される側の会社が、適切に評価してもらえるようになるには、まず、日常の会計処理を適切に行うことが大切です。そのような会社は、経営上の判断も適切に行なえるようになるし、買収される会社からの信用も高まり、高く評価してもらえる要因になるでしょう。

2022/5/5 No.1968

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