貸借対照表の右側はお金の出どころ
[要旨]
複式簿記では、貸借対照表の右側には「お金の出どころ」、左側には「そのお金が形を変えたもの」が入ります。例えば、会社を設立した時に出資したお金は純資産の部に、融資を受けたお金は負債の部に、そのお金で買った機械の価額は資産の部に記載されます。
[本文]
今回も、前回に引き続き、嘉悦大学教授の高橋洋一さんのご著書、「明解会計学入門」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、複式簿記を学ぶときの最初の壁は、貸方と借方の意味をどう理解するのかということですが、貸方と借方という言葉そのものには深い意味はないので、言葉の意味を探ることよりも、勘定科目が右側と左側のどちらの科目なのかを丸暗記することの方が、早く簿記を習得できるようだということについて説明しました。
これに続いて、高橋さんは、複式簿記を自社の事業にあてはめて考えると理解が進むということについて述べておられます。「複式簿記では、(貸借対照表の)右側には『お金の出どころ』、左側には『そのお金が形を変えたもの』が入る。今度は、これを『自分で会社を始める』という場合に当てはめて考えてみよう。まず、右側の『負債と資本』は、どうなるか。『負債』とは、例えば、事業を始めるために借りたお金だ。買掛金(代金後払いの仕入れ費など、ツケになっているお金)なども負債に入る。
一方、『資本』には、事業のために出資されたお金や、事業によって儲けたお金が入る。『お金の出どころ』だから右側に入るのだが、『負債』とは性質が異なる。負債は、『いずれ必ず返さなくてはいけないお金』であることに対し、資本は、『返す必要のないお金』といえる。厳密にいうと、やや違うところもあるが、初めのうちはこれでもいいだだろう。
例えば、銀行からお金を借りたら右側に入る。その他、社債を売って得たお金も借金だから、右側だ。自分で用意した『資本金』や、株を売って得た『出資金』も右側だ。また、事業を行った結果、『利益』が出たら、これも右側に入る。では、左側には、何が入るか。例えば、銀行からお金を借りて、製品を作る機械を買ったなら、右側の『負債』に借りた金額、左側に機械の金額が入る。
右から左へと、お金が流れている、変化していると考えればいい。このように、『何らかの方法でお金を得て、それを何かに変える』という企業活動は、一つひとつ、複式簿記で記していくことができる。事務所で使う鉛筆1箱、机1台を現金で買ったなら、右側に『現金いくら』、左側に『鉛筆1箱』、『机1台』となる。こうしたお金とモノの取引を、日々、複式語気で管理するのが、会社の経理部の主な仕事だ」(45ページ)
高橋さんのご説明からわかるように、貸借対照表の「右側には『お金の出どころ』、左側には『そのお金が形を変えたもの』」が記載されます。そして、右側のお金の出どころのうち、出資者(株式会社の場合は、株主)が出資したお金と、過去の利益の積み重ねは純資産の部に記載されます。この純資産の部に記載されているお金の特徴は、高橋さんが述べておられるように、「返す必要のないお金」です。
一方、純資産の部に属さないお金は負債の部に記載され、これらのお金は、「いずれ必ず返さなくてはいけないお金」という点で、純資産の部と異なります。これら、純資産の部と負債の部に記載されたお金は、両者の合計額と等しい額の資産として使われます。資産の部は、現金、売掛金、棚卸資産、設備などが記載されます。繰り返しになりますが、貸借対照表に関しては、「右側には『お金の出どころ』、左側には『そのお金が形を変えたもの』」と理解すれば、貸方・借方の意味の理解が進むと思います。
なお、高橋さんは言及しておられませんが、貸借対照表は、会計期間の末日時点の資産、負債、純資産の金額が記載されている点が特徴です。これは、損益計算書の各科目は、会計期間の初日から末日までに発生した金額の合計額が記載されているという点と大きく異なります。すなわち、会計期間中に売上を得れば、それは、その期の損益計算書に反映される一方で、資産や負債は、会計期間中に増減があっても、末日の金額が貸借対照表に反映されるということです。
2024/6/12 No.2737