在庫と機会原価
[要旨]
収益機会を逃すことは、財務会計の観点では、収益も損失も発生したことにはなりませんが、管理会計の観点では、損失、すなわち、機会原価が発生した認識するので、経営者は全体最適を目指して、機会原価が発生しないような判断をすることが大切です。
[本文]
以前、在庫を持つことは収益機会を増やすことになるとお伝えしましたが、今回は、それについて、もう少し深い説明をしたいと思います。もし、顧客から注文があったとき、その商品が欠品になっていれば、受注を断ることになってしまいます。このことは、すなわち、収益機会を逃したということになりますが、会計上は、会計取引が発生していないので、利益を得ることになっていないだけでなく、損失が発生したことにもなりません。
ただし、このような考え方は、財務会計の考え方であり、管理会計の考え方からは、収益機会を逃した場合、その逃した収益の分だけ、費用が発生したと考えます。この費用を、機会原価といいます。繰り返しになりますが、機会原価は、管理会計の考え方なので、財務会計に基づいて作成される損益計算書上の費用として計上されることはありません。
しかし、収益を極大化すべきという経営的な観点からは、収益機会を逃すことは、費用の発生と同じと考えており、そのような考え方から、管理会計では、収益機会を逃すことを、費用の発生と同じことと考えています。例えば、売れ筋商品の需要予測が100個であったとき、倉庫の容量の都合で、80個しか仕入れることができな場合、どういうことになるでしょうか?商品1個あたりの利益が1万円であるとすれば、仕入れることができなかった20個分の商品から得られる利益である、20万円の収益機会を逃したことになります。
ところが、その商品20個分を、10万円の賃料を支払って貸倉庫に保管することができるとすれば、賃料10万円の支出で、機会原価20万円の発生を防ぐことができるので、10万円の賃料の支出を避けるために倉庫を借りないと判断するより、倉庫を借りると判断することの方が得策ということになります。今回は、単純な例で示しましたが、在庫量をどれくらいにするかという判断は、財務会計の考え方だけでなく、管理会計の考え方に基づいて、より幅広い観点から判断することが賢明です。
なお、在庫管理部門(購買部門)は、新たな費用の支出を抑えようという考え方をしがちなので、倉庫の容量を超える在庫を持つことには消極的になるかもしれません。このような考え方は、自部門の最適化を目指す考え方であることから、部分最適といいます。一方で、倉庫を借りることによって、新たな支出が増えるものの、事業全体でみれば利益を増やすことになるという考え方は、全体最適といいます。
経営者の方は、当然、全体最適の考え方で経営判断を行いますが、事業の現場にいる方も、部分最適に偏らず、全体最適の考え方をもって事業に臨むことで、より、効率的な事業活動が実現します。したがって、経営者の方は、全体最適の考え方を従業員の方にも持ってもらえるよう、適宜、働きかけていくことが、足腰の強い組織作りのために、とても重要です。
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