セラミック石ころ論
[要旨]
在庫の中には、売れる見込みがないものが、どうしても発生してしまうことから、そのような在庫は、直ちに廃棄することが大切です。ただし、在庫を廃棄することは損失が発生することになるため、現場の従業員は、廃棄に躊躇してしまいがちです。しかし、正しい評価をしなければ、会社の実態を把握できなくなるので、正しい評価が実践されるようにするために、経営者が自ら在庫の評価を行うことが大切です。
[本文]
今回も、前回に引き続き、稲盛和夫さんのご著書、「稲盛和夫の実学-経営と会計」を読んで、私が気づいたことについて述べます。稲盛さんは、「値決めは経営」という言葉で、値決めをすることは、経営者が行うべき重要なことがらであるとご指摘しておられますが、これと同様に、「セラミック石ころ論」という言葉で、棚卸資産の評価についても、経営者が行うべき重要なことがらであるとと指摘しておられます。
「メーカーの在庫販売や、一般の流通業の場合でも、どうしても仕入れたものの中には、売れ残るものが、多かれ少なかれ出てくる。このようなものを含めて、在庫は仕入れた値段で棚卸されているのが普通である。また、実際の棚卸は、経営者が自ら行っているのではなく、担当者が、もののあるなしだけで、通常、実施している。そうしていると、必ず、長期間にわたり、まったく売れていない品物が、今後も売れる見込みもないのに、倉庫でほこりをかぶり、何度も棚卸されているケースが出てくる。すなわち、すでに価値のないものが、財産として置いてあり、資産となっているのである。
こうして、結果としては、利益が見かけ上増えて、不必要な税金を払っているという場合が出てくるのである。その意味で棚卸は人任せずにせず、本来、経営者が自分の目で見て、自分の手で触れて行うべきものである。自分も一緒になって倉庫で検品をして、『これは3年前から一向に売れていないではないか、これはもう捨てなさい』と言って、こまめに見て回るようにすべきものである。このように、こまめに気を配って、会社の資産をスリムにしなければならないというのが、『セラミック石ころ論』の真意なのである」(85ページ)
稲盛さんのいう「セラミック石ころ論」とは、在庫のセラミックは、売れる見込みがなければ、石ころと同じ無価値になるということを示しています。そして、いったん、棚卸資産として計上した製品を、売れる見込みがないものとして廃棄すれば、その棚卸資産として計上していた価額は損失となります。そのことは、その分だけ、業績が下がることになるため、現場の担当者は、在庫品を無価値にすることを躊躇します。しかし、稲盛さんは、そのようなことが会社で起きていれば、業績を正しく示すことができなくなるだけでなく、不必要な税金を払うことになると指摘しておられます。
そこで、棚卸資産の評価は、経営者が責任をもって行うことが必要だということを、稲盛さんは強調しておられるのでしょう。ただし、実際の棚卸資産の評価は、会社の実情に合わせて適切に行う必要があることから、私は、まず、経営者と、税理士やコンサルタントなどの外部専門家との間で、十分に相談をしながら、経理規定、または、在庫管理規定を作成することをお薦めします。そして、経営者は、毎期、その規定通りに在庫評価が行われているかどうかを検証し、定着していくことを目指すとよいと思います。
さらに、もうひとつ大切なことは、このような、会社の状況を正確に把握できるような仕組みづくりは、経営者の方が先頭に立って進めないと、なかなか実現できないということです。このような活動は、直接的に利益を得るための活動でないため、経営者によっては、あまり関心を示さないこともあります。しかし、稲盛さんもご指摘しておられるように、無価値な資産をずっとそのまま放置するようない、管理活動が行き届いていない会社は、事業活動に無駄が多くなり、競争力が低くなります。したがって、管理活動を精緻なものにすることも、利益を得るための活動と同じくらい重要だと認識することが大切だと、私は考えています。
2022/12/12 No.2189