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健全経営とは利益の範囲で投資すること

[要旨]

八天堂では、自己資本比率70%を目標としています。これは、新たな投資は、得られた利益の範囲内で行うこと、すなわち、無借金経営により、会社の健全性を維持しようとする考え方によるものです。自己資本比率が高いことは、必ずしもよいとは限りませんが、会社を堅実に発展するためには、よい方法と言えます。

[本文]

今回も、八天堂の社長、森光孝雅さんのご著書、「人生、今日が始まり『良い品、良い人、良い会社つくり』への挑戦」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。同社は、2001年には倒産寸前になり、森光さんは銀行から「ショック療法」を受けることになりましたが、その後、森光さんは業績をV字回復させ、この本を書いた時点(2017年)には、同社は実質無借金になっていたようです。

「自己資本比率とは、いうまでもなく、会社の総資本に占める自己資本の割合のことです。借入金など、他人資本は返さなくてはいけませんが、自己資本は返済する必要がないため、この比率が高ければ高いほど、経営は安定していることになります。何パーセント以上が安定していて、それ以下は不安定であるという、決まった数値があるわけではありませんが、当社は、かつて、75%まで自己資本比率を上げたことがあります。

大きな投資をして間もない時期に、約60%に下がったこともありますが、最近では70%前後で推移しており、この水準を目標として掲げています。自己資本で経営するということは、実質的に無借金で事業を運営していくということです。そもそも、最も健全な経営とは、事業を通して適切な利益を得て、その利益の金額の範囲で、投資と回収を行う状態だと言えます。無理な借金をせず、自分たちの『身の丈』で経営するとは、そういうことです。経営者は、最も健全な経営状態を目指す気持ちを常に持ちながら、日々の数字をシビアに見て行かなければならないと考えています」

事業運営をしていると、短期間に解消するとはいえ、どうしても、買掛金や未払金が発生するので、自己資本比率を100%にするということは、ほぼ、不可能です。したがって、私は八天堂の財務諸表は見ていないのですが、同社の自己資本比率が70%以上というのは、どうしても発生してしまう買掛金以外は、ほぼ借り入れがないということでしょう。

十数年前は、債務超過で倒産の一歩手前だったということを考えれば、すばらしい業績回復だと思います。ただ、私は、自己資本比率は高すぎてもよくないと考えています。詳しい説明は割愛しますが、自己資本比率が高くなると、レバレッジ効果が低くなるからです。逆に、自己資本比率が低くなると、レバレッジ効果は高くなるのですが、自己資本比率が低すぎると、今度は、経営が不安定になるので、ある程度の純資産(自己資本)は必要です。

では、どれくらいの自己資本比率が望ましいのかというと、森光さんも述べておられる通り、決まった数値はないのですが、私は、中小企業であれば、50%あれば、優良な会社と言えると思います。ただし、森光さんは、「身の丈」にあった経営をしたいという考え方を持っているようです。これは、かつて、森光さんが積極的な展開をして、事業が失敗してしまったことへの反省なのではないかと思います。

業績のよい会社は、自己資本比率が低くなりすぎない程度に融資を受けて、積極的な事業展開をしないともったいないと思っています。でも、森光さんは、「最も健全な経営とは、事業を通して適切な利益を得て、その利益の金額の範囲で、投資と回収を行う状態」と述べておられように、利益が得られた範囲内でしか、新たな投資はしないようにしようと考えているのでしょう。利益が出た範囲での投資をするという歯止めを持つことは、会社を確実に発展させていこうという視点からは、よい方法だと思います。

2022/10/20 No.2136

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