【読書感想文】近藤史恵/タルト・タタンの夢
死なないミステリー。ビブリア堂や万能鑑定士Qなどに続いて 読んでみた。
このシリーズは「シェフは名探偵」という名で昨年ドラマ化もされた。
三舟シェフが主人公のようだが、語り手はギャルソン(ホールスタッフ)の高築。
常連客が少しおかしな動きをする時、三舟シェフはよく気づく。両親が営むパン屋の近くに同じくパン屋をオープンする女性であったり、友人にお金を払わせようとする女子大生であったり。三舟シェフはその人たちの動きを見るとともに、時には話しに割り込んできて不快な言葉を放つこともある。
料理自体には美味しそうな描写もあるのでそれを読むだけでも楽しむことが出来るし、人間観察ドラマとしても成立している。
一方、短編集だからなのか、真相発覚後は結構あっさりとしている描写が多い。(ドラマでは、この小説ではドライな演出に加えて登場人物同士の関係が円満に物語が終わる演出も用意されている。)
このシリーズは続編の「ヴァン・ショーをあなたに」「マカロンはマカロン」に入っているエピソードも面白いが、この「タルト・タタンの夢」2番目のエピソードである愛人の話「ロニョン・ド・ヴォーの決意」が結構印象的だった。
--------------------以下ネタバレ--------------------
三舟シェフがお客さん(偏食の粕屋氏)に対して偏食家でも食べることが出来る料理を準備し、それに満足する。それを見た愛人が、愛情のある料理を食べさせてあげたいと主張する。粕屋氏の妻の料理が血抜きのされてないレバーであったり、皮が剥き切れていない長芋であったりする。
それに対して愛人は愛情のこもっていない料理と思っていたが、三舟氏はそう思わない旨の発言をした。
あとで分かることだが、粕屋氏は妻を愛しており、美味しくなさそうな料理を不満も言わずに食べていた。
「食事は美味しいと思うだけでなく、生きるための栄養という側面もある」ということを三舟氏はわかっていたのだ。レストランという非日常と毎日の食事という日常の違いを考えさせられる場面だった。
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こんな感じでほとんどが一つのレストランの中での話となるが、友人や家族、恋人との関係などに結構切り込んでいくし一つのエピソードが30分ぐらいで読み終わるので、大作と違い気軽に読むことができる。(通勤時間などにはちょうどいい。)
続編でいうと「氷姫」や「ムッシュ・パピヨンに伝言を」「タルタルステーキの罠」なども印象的なエピソードだった。これはまた機会があれば感想を書きたい。