市民文庫書評『フェミニズムはみんなのものーーーーー情熱の政治学』 ベル・フックス著 堀田碧訳
『フェミニズムはみんなのものーーーーー情熱の政治学』 ベル・フックス著 堀田碧訳 新水社 定価1600円(税別)
評者 白崎一裕 (那須里山舎)
(「月刊ボランティア情報VOL156 2008年11月号」掲載)
欧米では、フェミニズムはもう終わったといわれているようだ。そして、日本でもフェミニズム運動が高まったかどうかもわからないうちに、アカデミズムで「女性学」や「ジェンダー研究」などという小難しい理屈が出回るようになっている。しかし、本当にフェミニズムは終わったのだろうか?そして、そもそもフェミニズムって何?という方もいるだろう。
フェミニズムなんて女と男の区別をなくす、男性糾弾のキャリアウーマン思想のことだ、と考えている方もいるに違いない。ベル・フックスはそういう疑問や批判をもつ人たちへ向けてこの本を書いたのだ。ベル・フックスのフェミニズムの定義は明晰で力強い。「フェミニズムとは、性にもとづく差別や搾取や抑圧をなくす運動のこと」すなわち、問題は「性差別」ということなのだ。こう定義してみえてくるのは、女も男も生まれてきてから、ずっと「性差別的」な考えや行動を受け入れるように社会化されてきているという現実だ。だから、男は敵だ!というようなことではない。女も男と同じように性差別的でありうるし、性差別と闘う男は、フェミニズムの共感者ということになる。もちろん、同性愛者やトランスジェンダー・トランスセクシャル・性同一障がいの人々などすべての性差別と向き合う人々もそうだ。
ベル・フックスは、アフリカ系アメリカ人のフェミニスト(ブラック・フェミニスト)として、白人で経済的に豊かな異性愛中産階級中心のフェミニズムの欠点を指摘しながら自らの思想を展開してきた。だから、白人中産階級の女たちが、男並みの権力を要求するということにのみ、運動を矮小化させてきたことを彼女は批判する。そして、その地平からは見えない問題をベル・フックスはどんどん提出してくる。たとえば、働くこととフェミニズムの関係について、彼女は「外で働くことのみを強調することが女の解放にはつながらない。女は常に低賃金で断片的で分断的な労働に従事させられてきた」という。ここには、男性問題として注目されているワーキングプアや「格差」の問題がすでに、そして、いまも女たちの切実な問題としてあった(ある)のだ、という視点がある。フェミニズムは、こういう労働現場・階級・格差の問題とも向き合い・闘う必要があるというのだ。
また、「女らしさ」の呪縛をフェミニズムは批判してきたが、フェミニズムは、それに代わる「外面の美や内面の美」を提案してきただろうか?ともいい、フェミニズムは、既成の男らしさにとらわれて苦しんでいる男たちの「男らしさ」も再定義しなければならない、ともいう。評者が最初にフェミニズムに衝撃をうけたのは「個人的なことは、政治的なこと」というテーゼだった。ベル・フックスはそれを創造的にひろげ、育児、教育、結婚、性、愛、働くこと、等々の暮らしへむけてのフェミニズムからの提言を展開する。 自由であるがままの自分になりたいすべての人に贈る「超!元気な」おすすめの一冊だ。