Human Frontier Science Program (HFSP) 留学プログラムについて探る - 続編
こんばんは。ロジーです。
今年は資格試験を受けまくっていますが、何回か壁にぶち当たったものの何とか国家資格も含め複数取得できそうです。無難に、個人的な朗報でした。
今回の記事は、以前に書いたHFSPのフェローシップに関しての記事(以下)で、採択基準や(日本人の)採択者数の少なさに関して、少し中途半端な調査と考察で終わってしまっていたので、この度その続編とした位置づけとして、もう少し深く行きたいと思いまして作成しました。なお、HFSPに関する概要や制度の詳細、近年の採択者の業績の簡単な紹介に関しては既に当該記事で載せているので、お読み頂ければと思います。
調査方法
このページの採択者名簿に関しては、ちょうどAMEDが日本人採択者を2002年まで遡って纏めているページがあったので、そちらを参考に進めます(下記)。なおHFSP本部サイトの採択者アーカイブと比較すると若干抜けがある年もあったのですが、それが何に起因しているのかは不明です。実はAMEDで手作業で作っているのでしょうか?
また、論文業績調査は主にPubMed (nih.gov)で行いましたが、特に古い年の採択者の方を調査する際はPubmedに収録されていない雑誌が多いため、Google Scholarやresearchmap、または研究者個人のページの見つかった方に関してはそちらも参考にしています。またPubmedだけですと同姓同名の他人と見分けがつかなくなって訳が分からなくなることも多々あったので、個人ページの情報を優先しています。ここまでやりましたが、何しろ数も多かったので漏れが無いとは決して言い切れません。あくまで参考として捉えて頂ければと思います。
さて。フェローシップやグラント、研究にまつわるお金は多々ありますが、それに際して選考が行われる場合は、その獲得・採択には大きく分けて「研究計画」及び「業績」の2つが柱になるという事は、これまでの私の記事や、他の科研費やグラント獲得にまつわる指南書等で述べられている通りです。いわば、「研究計画」がこれからの未来について述べるのに対して、「業績」はこれまで行ってきた研究活動についての成果、過去について述べます。要するに申請者の未来と過去を総合的に評価するよという事です。
採択者と面識がある場合は親切に申請書を見せてもらえる機会もあるかとは思いますが(コネも大事です)、それ以外の状況の場合、なかなか他人の申請書、特に採択をゲットした申請書というのは拝めないものです。特に、コロナ禍以降は学外の方とも学会で知り合って懇意になって・・・という機会も消滅してしまって久しいと思います。
なお自分自身のものならまだしも、他人から頂いた書類をネットにアップするのもどうかと思うので、そういった動きは難しいですよね。もちろんそういった許可を取れば良いのでしょうけど・・・フリー素材としていつまでも、ある意味で自分の個人情報がネットを海を彷徨うというのは何とも気持ち悪いものです。
また、研究領域・細目や先行研究の進行具合によって研究計画の書き方というのはガラッと変わりますから、ある時点では大正解な書き方でも、翌年には全く見当違いな内容になってしまう・・・という事も多々あるのが研究というものです。という事で、2つの柱のうち研究計画に関しては明確な正解というのはありません、時と共に変化していく流動的なもの、そして審査員にそれが理解されてもらえるかは、ある意味で「運」、そういったものと捉えて良いかと思います。
よって本記事では2つの柱のうち「業績」のみに着目します。
宜しいでしょうか。
調査結果1:採択者数について
まず、上記のAMEDのページを参考に(日本人の)HFSP-LTF採択者のリストを作成し、人数についてまとめました。なお、海外留学者総数はHFSPだけではよく分からないと思ったので、おそらく国内で最もメジャーな海外留学助成である海外学振の申請者/採択者数(申請・採用状況 | 海外特別研究員|日本学術振興会 (jsps.go.jp))を参考値(バイオ系以外も含んだ総計値です)として一緒にグラフにしてみる事にしました。
縦軸2種を使って作成されており、縦軸の桁が左右で違うのに注意して下さい。左の縦軸および赤線がHFSP-LTFの日本人採択者数、右の縦軸および青線が海外学振の申請者/採択者数です。なお、日本学術振興会のページに2007年度分までしかデータがなかったので、それ以前のHFSP-LTF日本人採択者数は省略されていますが、具体的な数字としては以下です。
Captionとして、海外学振の2011年度採択分に関しては、例年になく追加募集があったので(予算が余った?)、その分も足した結果、ピークのようになっています。また2012年度のHFSPに関してもピークがありますが、これに関してはよく原因が分からないです。震災直後ですから、国外で研究したい、と考える方が増えたのでしょうか?ただ、2002-2006のデータも考慮に入れて考えると、2012をピークと呼ぶよりは、採択者数が「回復した」という表現の方が相応しい気がします。
このグラフから良く分かることは何点かあります。まず、2014-2015年度分を境にHFSP日本人採択者は減少し始めています。それに遅れて、2017年度分に海外学振の申請者がガタッと落ち、しばらく800人弱を推移していましたが、新型コロナウイルスの影響も本格的に出てきた2022年度分からは更にもう1段落ちています。これは制度維持の観点でもかなりマズい状況のようにも思えます。加えて、2023年度分の海外学振申請者数は510人で、更に更にもう1段落ちています。なお海外学振採択者数にはグラフの期間を通してあまり変動がありません。
個人的には、海外学振の申請者数とHFSP-LTFの日本人採択者数はもう少しリンクしているのかと思っていましたが、どうやらそんなそんなこともないようです、いずれにしても近年減少傾向なのは間違いないですが。
HFSPに関して言えば、2015年に何かしらの審査制度の見直しがあり、日本人採択者の減少に繋がった可能性が考えられます。直近の2-3人のみというのは実は制度史上でもかなり寂しい状態だったのですね。勿論、「日本人の申請者数の減少がクリティカルに効いているのかな?」という仮説でグラフを作成したのですが、海外学振と比して減少のタイミングがややズレているので、直接的な影響である可能性としては低い気がします。断定はできませんのでそれも依然として仮説の域を出ませんが。なぜなら、HFSPの公開データの中に「日本人の申請者数」という項目が無いからです。データ不足で明確な結論を導けないという結論です。なお海外学振の申請者/採択者をバイオ系のみに絞ってHFSPと比べてみたデータもpreliminaryに作成してみましたが、やはり減少のタイミングのズレは見受けられました。というより海外学振に関しては調査分野を絞るとそれ自体のブレが激しくなるので、参考値としても如何なものかと思いました。
従って、事実として断定形で述べられるのは、
・直近数年では日本人のHFSP-LTF採択者が過去にないくらい減少し、2-3人となってしまっていること
・海外学振の申請者も近年減少に歯止めがかかっていないこと、しかしながら採択者数にはそこまでの変動は見られないこと
の2点でしょうか。
調査結果2:採択者の業績について
次に、採択者の業績の調査に関してですが、少し言い訳をしますとPubMedが本名(+first name)での検索に対応したのは2002年以降段階的に、なので2002年以前の業績に関しては、特に被りの多い苗字では検索が困難になっています。また、今となってはPubMedはバイオ系のほぼ全てのジャーナルを網羅していますが、少し前ですと収録率はそうでもないので(学会誌などが抜けていることが多い)、直近の論文ならともかく古いものに関してはあまり万能ではない、というのが正直なところです。各採択者に関しても、偉くなられて主宰研究室のHPや、はたまたresearchmapやResearchGate等に業績が纏めてある場合は別ですが・・・そういった意味で、調査対象としては2008年度分以降の方としました。やる気が続けばもっと古い年のものを随時掘っていく予定です。個人ページのある方は分かりやすかったですが、各人の進路などの都合上、必ずしもそういう訳では無いようです。
なお、例によって業績としてカウントするのは採用年度の前年8月(申請〆切)までの論文とします。また、国際グラントであるHFSPにおいて和文業績はそもそも載せる箇所が無いので、あくまで英文論文業績のみを対象としました。
字が小さすぎ&主著論文の多い方は右側に見切れてると思うので、先ほどの申請者数の統計データも載せたエクセルファイルもアップしておきます。
ということで調査結果を大まかに纏めると、CNS本誌、姉妹紙、およびIF10以上のジャーナルを持っていない採択者は極めて稀という事になります。以下、参考として採択可否の分水嶺となっているであろうジャーナルリストを載せます。Pubmedで表示される略称名になっているのに注意して下さい。
PNAS (Proc Natl Acad Sci U S A)やJACS (J Am Chem Soc)はPubmedの略称よりもイニシャル名のほうが有名だと思うのでこちらで統一しました(ついでに下のリストにはありませんが、BBRC (Biochem Biophys Res Commun)も)。
HFSPの応募要件として「国際誌に主著1報以上」というのがあったと思いますが、当初の想定以上に?上記のジャーナル条件を満たしつつ「主著1 共著0」の日本人採択者が多かったようにも思います。比較対象として例えば日本の学振特別研究員(海外学振含む)や科研費(基盤Bくらいまで?)や助教~講師公募くらいまででは、小~中堅ジャーナルの主著を積み重ねて、または幅広い共同研究で共著数を増やして、などの戦略で採択・採用を勝ち取る方も多数いらっしゃるかとは思いますが、HFSP-LTFに関して言えば、はっきり申し上げればそういった風潮はほぼなく、主著に上記のジャーナルが有るか無いか、にfocusしているようです。どちらかと言うと、ポスドク候補をシンプルに支援するというよりは欧米のポスドク→PIの昇進審査に近いような基準を持っているなと感じました。あくまで、既にPIになれそうな業績を挙げている超有望株ポスドクだけを支援したい、そういった財団の思惑が裏打ちされているような印象です。特に近年は日本人採択者自体が減っている影響もあるかとは思いますが、上記例の採択者以外は限りなく少なくなってしまっています。
前回のHFSPの記事でも書きましたが、昨年度(2021年度申請分)からは経歴調書、研究タイトル、研究計画概要(3000 character limit including space)、論文業績一覧(国際誌のみ、論文ごとにfirst/co-firstか、またはそれ以外の単なる共著かどうかチェックする項があります)のみを5月に提出しそこでまずinitial screeningが行われ、そこで7-8割の申請者は蹴られ、通った申請者(全体の採択率を考えるとこの時点でほぼ採択当確でしょう)のみに9月にfull application(具体的な研究計画や推薦書なども提出)をさせる、というシステムに変更になっています。財団内部の事情は分かりませんが、文量なども考えるとA4 1枚にも満たない研究計画概要のウエイトはかなり低いと考えるのが自然です。図も入れられませんから、ビジュアル的にアピールするのも無理です。文量のイメージとしては学会の要旨に毛が生えた程度です。また、それまでは全員が9月頭のfull applicationにまで行けていた事も踏まえると、上述の「IF10以上の主著をほぼ必要条件とする傾向」は直近年ではより高まっていると考えられます。もっと具体的に言えば、日本含め先進主要国国籍の申請者はIF10以上の主著が無い時点でinitial screeningで落とすのでしょう。ある意味すごく明快だとは思います。2021年以降の採択者に関しては前年の5月頭までの業績を見た方が、initial screeningで蹴られなかったかを見る上でも分かりやすいのかもしれませんね。
なお、不採択者の情報は公開されていないので、「上述のジャーナルに筆頭論文があることが(ほぼ)必要条件であること」は分かったものの、十分条件であるか?については例によってデータ不足で結論を導けません。過去にそういった例(IF10以上の主著があったのに不採択)は無かったと言い切る方が真理から遠ざかっている気がします。ただ直近年に関して言えばinitial screeningで引っかからないためには採用年前年の5月頭の時点でIF10以上の主著が無いと箸にも棒にもかからない(可能性が極めて高い)、という分かりやすい事実があります。
ここからは完全に主観ですが、主著1共著0の採択者がままいることを考えると、HFSP-LTFに関して言えば、あまり論文数稼ぎ共著稼ぎのようなことをしても意味が薄く、申請までの期間に上述のジャーナルに主著論文を通すことに集中する、つまりビッグな研究に全集中することが採択のカギでしょう。initial screeningで蹴られない業績、この大前提が無いと申請が徒労に終わる可能性が非常に高いです。
いかがでしたでしょうか。調査で結構労力を使ったので、この記事はここまでにします。読了ありがとうございました。
ロジー 拝
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