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『ゾンビ』ダリオ・アルジェント監修版について【1】

さて、今回はダリオ・アルジェント監修版(以下DA版)について。
これはどういうバージョンかと申しますと…知ってる方にはイマサラでしょうが知らない方の為に簡単な経緯など記しておきます。特に新しい情報は無いので、知ってる方は以下の※印でくくった文章を読み飛ばして下さいませ。

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『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』に続くゾンビ・サーガの第二作を企画し、出資者を募っていたロメロでしたが、その最中に公開された新作『マーティン』が全米でかなり派手なコケ方をした為、信用を一気に落として資金難に見舞われます。
米国内で八方塞がりになったロメロは、海外資本に活路を見出そうと、未完成のシナリオを様々な言語に翻訳して、世界中にバラまきます。

そのシナリオに目を留めたのが、『サスペリア』などでイタリアのホラーの帝王としてブイブイ言わせていたダリオ・アルジェント監督
アルジェントはロメロの原案の素晴らしさ、斬新さに感激。資金集めなどを含めた、全面的なバックアップを申し出るのです。
ロメロとの共同執筆でシナリオを完成に導き、音楽方面でも自らの肝入りのプログレッシヴ・バンド、ゴブリンを担ぎ出し、企画の実現に向けて八面六臂の大活躍!
やがて撮影完了後、英語圏以外での配給、バージョン製作に関する全権を手に入れます。

つまりこの時点で、ロメロが編集する全米公開版(以下US版)と、ダリオが編集する海外配給版への分裂は運命づけられていたのですね。
もちろん、非英語圏である日本で初公開されたバージョンは、ダリオの編集したバージョンだったのです。日本では独自に更なる修正が加えられたのですが、これについては頁を改めます。

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さて自分、このバージョンについては大きなコンプレックスを持っています。
日本で初公開されたのは前述の通りDA版なワケですが、公開当時はとにかく恐ろしくて、映画館まで観に行くなどトンデモなく、高校生の頃にビクターよりUS版が発売された時に初めて鑑賞&感激。ようやく熱狂的なファンになったワケでして。

『ゾンビ』のバージョンの好みは、初めて観た物によってほぼ決まる傾向にありますが、コアな信者の間では「ダリオ版こそがオンリー1!US版をホメるのは、遅れて来たモグリ」みたいな風潮が、根強く存在するんですよ。
全米公開版で刷り込みを受けた自分など、このファンの世代別ヒエラルキーみたいな物には、今も複雑な思いが有りますねえ。あぁ、自分なんかどんだけ頑張ってもリアルタイムで『ゾンビ』を観てる層には勝てないんだよな。何故、あの頃に劇場で観ておかなかったんだろう…という感じで。
もっとも、あの頃にタイムスリップして小学生の自分に「将来ぜったい後悔するから、今のうちに観ておけよ!」とドヤしつけた所で、きっとあの頃の自分は、本気でビイビイ泣き叫んで嫌がるでしょうけれど。

私がこのバージョンを初めて観たのは、今から丸10年前、バンダイよりDA/DC版(なんかAC/DCみたい?)がツインパックになったLDが発売された時です。
このリリースは、日本の『ゾンビ』ファンにとっては本当に大騒ぎでしたねえ。ディレクターズ・カット版(以下DC版)の発売だけでも大事件なのに、日本初公開いらい幻の存在となっていたDA版も同時に出たわけですから、それこそ盆と正月が一緒に来たようなお祭り騒ぎ。
20000円という、ファンの足元を見まくりなバンダイ商売ではありましたが、発売日に速攻で買い求めましたとも。いやー、あの日のワクワク感は、一生忘れないでしょう。LD発売に先立った渋谷パンテオンでの上映祭にも、地方在住の哀しさで参加できなかった私としては、まさに一人ゾンビ祭りな夜でした。

自分にとってDC版との初対面以上に重要だったのは、永年に渡ってコンプレックスの対象だったDA版に、遂にお目に掛かれる!これで、ようやくリアルタイム世代に追い付ける!という嬉しさでした。
今から思えば、価格に見合うほどのハイ・クォリティとは決して言えない製品ではありましたが、自分にとっては捨て切れない宝物ですねえ。DC版のコテッと濃すぎる画質も、DA版の青みがかった画質も、いずれも忘れ難い思い出と、味が有ります。

さて、このDA版。118分という比較的コンパクトな上映時間のせいで、ロメロ版を単純に短縮した物だと未だに思われておるようですが、さにあらず。何と、オフィシャル版としては現時点で最長の上映時間を誇るDC版にすら存在しない、15分近いオリジナルのシーンが収録されていたりするのです。

恐らく編集素材としてダリオの手に渡ったのは、すでにロメロが編集済みの完パケではなく、膨大な量のラフカット(粗編集素材)だったのでしょう。
このラフカットの段階から、ロメロとダリオがそれぞれの感性で、これは使えるというシーンを取捨選択し、独自のバージョンを紡いで行ったのですね。
それ故、たとえ最長のDC版を観ても『ゾンビ』の全体像は見渡せないワケでして、どんなに遅れて来たファンでも、決して無視できない、ワン&オンリーなバージョンとして自己主張しておるのでございます。

そしてこのDA版、ロメロ版とどの辺りが違うかと言いますと…。それはもう、ちょっとやそっとの違いではありません。とある事情が有り、全バージョンを2台のモニターを並べて徹底的に検証したことのある私が言うのですから間違いないですが、単純にシーンの有無だけでも、軽く100箇所は超えるほど違います。
ハッキリ分かるような大きなシーンも有り、言われないと絶対分からないような細かいシーンも有りで、これを全部語ってると、日が暮れて夜が明けます。

さらに、音楽の違いも見逃せません。DA版では例のゴブリンの楽曲が全面的に採用され、アクションを強調してギンギンに突っ走るようなノリに仕上げています。
ロメロは、どうやらこの方向性がお気に召さなかったようで、自分の編集版ではゴブリンの楽曲を必要最低限に削り、古い映画の版権切れライブラリ・トラックから、各シーンに合った曲を選んでハメ込んでおります。
この音楽の違いによって映画全体の印象は各バージョンで驚くほど変わっており、初めて観たバージョンによってファン毎の好みの差が大きく出るのも、音楽の影響が非常に大きいようです。

DA版をめぐる経緯を紹介するだけでこの長さですか。まっこと、『ゾンビ』のバージョン違いの話は汲めども尽きぬ底無し沼でございまして。これから一週間ほどを予定して、できる限り詳しく語って行くつもりでおりまする。明日の予定は、DA版の音楽について。ゴブリン・ファンの方はお楽しみに!ただ…自分の主観で結構カラい事も言いますので、なにとぞ寛容な気持ちで読み流して下さいませ。

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