マフラー

マサミは東小学校の4 年生です。
マサミは憂鬱でした。マフラーのせいです。
寒くなって友達はマフラーをして登校してきます。
マサミもマフラーは持っていますが、
茶色の地味なマフラーです。
もとはお母さんのお下がりなのです。

新しいマフラーがほしいのですが、マサミはお母さんに買って、といえませんでした。
お父さんが病気で入院しているからです。
来月手術をすることになり、お金が必要です。
そのためにお母さんが節約していることをマサミは知っていました。
お母さんもマサミにあたらしいマフラーを買ってあげたいと思います。
でもお父さんの手術で、お金がいくらあっても足りないのです。
仕方なくお古のマフラーをマサミにさせています。
茶色が恥ずかしいとはおもいません。
が、クラスのアキラとタカユキたちが「男みたいな色だ」とはやしたてます。
お父さんが病気でうちにはお金がないの、ということもできず、ぐっと我慢していました。
そんなときマサミの目には涙が浮かんでいます。
ある日ユウコがマサミの涙に気づきました。
「どうしたの? 」
マサミはユウコに父の話をしました。
友達のユウコにも初めてする話です。
ユウコはしばらく考えてからこう言いました。
じゃあ自分で編んだらどうだろう?
え? 編むの? できないよ。
だいじょうぶよ。もともとマフラーは毛糸を編んで作るんだよ。
うちのお母さんが編み物が得意だから、教えてくれるよ。
私も今編んでるんだ。
いいなあ、私もやってみたい。
じゃ、うちで一緒にやらない?
ほんと?

 
でも毛糸を買わなくてはいけません。
編み針もいります。どうしようか?
考えこんでいるマサミを、ユウコは家へ引っ張っていきました。

ユウコの話を聞いたお母さんが言いました。
「マサミちゃん、うちに毛糸の余ったのがたくさんあるから、あげるわよ。
少しづつのこった糸だから、
つなげばいろいろな色のきれいなマフラーが編めるのよ。
編み針もおばさんが使っていないのがあるから使ったらいいよ。」

家へ帰ったマサミはお母さんにユウコの家へ行ったこと、マフラーを編むのを教えてもらうこと、毛糸も用意してもらえることを話しました。
マサミのお母さんは、「ありがたいね。私が教えてあげられたらいいのだけど、上手じゃないのよ。
でもユウコちゃんの家へ行く時にクッキーを焼いてあげるから持っていきなさい。」

お母さんの焼いてくてれたクッキーを持って翌日マサミはユウコの家へ行きました。
ユウコのおかあさんは、残り糸をうまくつなぎ合わせて、ひと玉に巻き上げてくれていました。
いろんな色があります。ピンクや白、黄色や紫、オレンジに黄色… 。
お花畑みたいだ。マサミは思いました。

それから二人は放課後にユウコの家でマフラーを編み始めました。
放課後マサミはユウコの家へ行き、一緒に宿題をした後、1 時間く
らいお母さんから編み物を教わりました。
目の作り方から始まって、表編みで一段編んだら、次の段も表編みです。
マサミちゃんの毛糸は残り糸をつないでありますので、どうしても結び目が少しはみでてしまいます。
ユウコはちょっと心配そうです。
「ねえ、お母さん、糸の端っこが出てしまうね。だいじょうぶかしら? 」
「心配しないで。いい考えがあるから。」
お母さんはにこにこしています。
目を作ったり、編み針になれるまでちょっと時間がかかりました。
目を外してせっかく編んだのがほどけそうになったりしましたが、二人で頑張りました。
家へ持って帰って、すこしづつ編んでいきます。

一週間後マフラーは完成しました。
ユウコが心配していた毛糸のつなぎ目は
そのままだとちょっと目立ちますが、
ユウコのお母さんは、かぎ針で毛糸の小さな花を編んで
毛糸のつなぎ目にとじつけてくれました。
あちこちに小花が散った、それはすてきなマフラーになりました。
マサミもユウコも手をつないで小躍りしています。
さっそく明日学校へしていこうと約束しました。

二人がそのマフラーをして登校すると… 。
あちこちで歓声が上がりました。
マサミのマフラーはいろいろな色がお花畑の
ようですし、ユウコのマフラーはいろいろな
色が虹のように積み重なっています。
そしてところどころに毛糸の小花が散って、
一足先に春が来たようです。
マフラー編むなんて貧乏人だと ばかにしていたテツヤとヒロシも興味しんしんで見ています。
マサミの茶色のマフラーを馬鹿にしたアキラとタカユキも、お前らすごいな、と素直に感心しています。
え- 、あんな一本の糸からこんなのができるのか、すごいな、こんなの見たことないよな。
と男子も女子も感心しています。
マサミとユウコは顔を見合せて笑いました。
クラスの女子は私たちにも教えてよ、と二人にいいます。
男の子たちもそわそわとしています。
いつの間にか4 年3 組には手芸クラブが出来上がりました。
ほかの子のお母さんたちもマフラーが編めましたので、みなそれぞれグループを作って、冬休みの間にマフラーを編もうということになりました。

それから2 週間後、三学期の始業式にクラスのみんなは手作りのマフラーをして登校しました。
担任の佐久間先生もびっくりです。
子供たちやお母さんから話は聞いていました。
でも小学生ができるのかしら、と少し心配していたのです。
もちろん中にはお母さんに手伝ってもらった子もいました。
初めて編み物をするんだからお母さんたちもついつい手を出したくなったのでしょう。
でも色を決めたり糸を買いに行ったり、全部自分たちのオリジナルです。
みんなでがんばって編んだマフラーです。

このままではもったいないので、3 学期の授業参観の
ときに展示しようということになりました。
先生が壁にみんなの名前を書いたシールを張って、
朝登校したらその名札の下へマフラーをつるすように工夫してくれました。
それにしてもいろいろなマフラーがあります。
きれいな緑色一色に鮮やかな黄色でイニシャルを刺繍したマフラー。
水色と青のさわやかなしま模様、淡いオレンジ色のモヘアのふわふわしたマフラー。
白と黒のシマウマ模様のマフラーもあります。
いろいろなマフラーが二十二本も集まりました。
みんな得意げな顔です。
集まったお母さんたちも感心して眺めています。
マサミもユウコも、クラスのみんなもいい顔をしています。

次の日、マサミはユウコにいました。
たのしかったね。また何か作ってみようよとユウコ
はマサミにいました。
マサミはいいました。今度はうちでクッキー
作りをやらない? お母さんがユウコちゃんを連れておいでって。
「いきたい! 」ユウコとマサミは顔を見合せて笑いました。

雪が降ってきました。今年初めての雪です。
「雪だ! 」子供たちはみな歓声を上げて校庭
へ飛び出していきました。


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