国内全興行データでみる2023年の日本プロレス界
プロレスというジャンルに限らず、スポーツや観劇など一つの会場に人を集めることによって成り立つジャンルにおいて重要な数値として動員数が挙げられます。
プロスポーツなどではリーグや各団体だけでなく、試合が開催される会場ごとでもその動員数を計測し、その情勢についてチェックしていると思います。
もちろん動員数だけが情勢を測る指標だとは言いません(実際日本のプロレス業界最大手の新日本でも「売り上げの半分が会場外」というデータを発表している)が、
それでも業界全体の状態を類推するのに役立つデータであるでしょう。
そこで今年もプロレス統計ではファンメイドのプロレスデータベースCAGEMATCHに掲載された2023年に日本国内で開催されたプロレス興行のデータを集計し、その結果について報告します。
また今年から新たな取り組みとしてこの記事のようにnoteでも記事を公開し、一部団体ごとの詳しい解析を行った記事を有料noteで公開したいと思いますので、興味がある方は是非。
2018~2023年 動員/大会数推移
2018年から2023年にかけて、日本国内で開催されたプロレス興行の合計動員(青棒、左軸)と大会数(赤折れ線、右軸)を示したのが上のグラフになります。
2023年の大会数は2773大会で前年から250大会ほど増加、
総動員は89万7103人で、前年から17万人弱、割合で言うと+20%の増加となりました。
2020年にコロナウイルスによる大会自体の制限やキャパシティの制限などによる動員の大幅減があった後は、徐々に動員が回復して言っている傾向はありますが、依然として2019年時点の水準にまでは戻っていません。
しかしこれについては額面通りに見ることができない面もあります。
というのもCagematchに掲載されているのは各団体の公式サイトなどから転載されたデータですが、その公式サイトの大会結果の時点で観衆数についての発表が行われていないケースが多いためです。
上図は各年の全体回数の内、動員発表があった大会(青色)となかった大会(灰色)の割合を示した棒グラフになります。
コロナ禍以前の2018/19年は開催された大会の80%以上で観衆数の発表がありましたが、2020年以降は観衆発表があるのは約60%が続いています。
2020年当時はそもそも無観衆の大会などもあったためそもそもの観衆が存在しないケースも多分に含まれたとは思いますが、そういった規制がほとんどなくなった現在でも続いています。
これによって、おそらく、ここで集計されている数値は実際に動員された人数よりも少ない人数になっているのはありうるかもしれません。
例えば動員発表割合が80%→60%に変化しているので、これと同じ割合で計算することで『実際の動員』を試算するとすれば2023年の動員は約116万人程度ではないか、と試算することもできます。
もちろん規模の大きな大会ほどきちんと動員が報告されていそうな気はするので、上の数値はかなり過剰に見積もっている感じはするので、あくまで試算になりますが。
いずれにしろ、そういった意味では2019年以前との単純比較がかなり難しくなっているという状況はあると思います。
2018~2023年 平均動員推移
上述のような観衆発表の有無によるバラツキを無視しした指標として考えられるのは平均動員(上図緑折れ線)でしょう。
上図では各年に開催された大会について動員発表があった大会のみで平均をとった結果になります。
2023年の平均動員は532.4人/大会となっており、2019年の582.6人/大会比で90%弱の値となっています。
こちらの数値でみると、依然として2019年当時の水準まで回復していないと言えますが、総動員の観点と比較すると回復度自体は高めと言えます。
2018-2023年 団体別動員上位10団体
2018年から2023年にかけての団体別の動員を示したのが上の表で、各年上位10団体を表示しています(単発興行はフリーでまとめています)。
2023年でトップ5に入っている団体は色付けをしていますが、
1位は新日本プロレスで25万5900人、2位がSTARDOMで9万6376人、3位がプロレスリングノアで9万6617人、4位はドラゴンゲートで8万3844人、5位が全日本プロレスで5万5413人となりました。
新日本の1位は2012年ごろからずっとのことですが、昨年に引き続き2位との差は割合にして10%ほどとかなり近づいている状態ではあります。
またSTARDOMは2022年に引き続き2位をキープ、ですが実は12月頭までのデータで仮集計した時はノアが2位になっており、12月中の興行でかろうじて差し切った形になります(動員の差もわずか100人)。
そういう意味で2023年はノアが動員面でかなり躍進したと言えますが、今年に関しては特筆時効あるのでそれは後述します(それが12月に差し切られた理由でもある)
2023年団体別動員割合
2023年に限定した解析で言うと、2023年の動員について団体別に割合を示したものが上図になります。
第6位のDDT以降についてはotherとしてまとめてありますが、上位6団体で全体の7割強の動員を占めている計算になり、昨年よりも上位団体による寡占が進んだ形になっています。
月別各団体動員割合
先述した「ノアに関する特筆事項」というのは、ノアの1・2月の動員割合を見ればわかることでもあります。
上図は2023年の上位6団体の動員割合を月別に示した棒グラフになっています。
プロレスリングノアは1月に武道館大会(グレート・ムタvs中邑真輔((2023年01月01日(日)ABEMA presents NOAH "THE NEW YEAR" 2023 | プロレスリング・ノア公式サイト | PRO-WRESTLING NOAH OFFICIAL SITE)) )と横浜アリーナ大会(グレートムタのラストマッチ((2023年01月22日(日)ABEMA presents GREAT MUTA FINAL " BYE-BYE" | プロレスリング・ノア公式サイト | PRO-WRESTLING NOAH OFFICIAL SITE)) )、2月には東京ドーム大会(武藤啓司の引退興行((2023年02月21日(火)chocoZAP presents KEIJI MUTO GRAND FINAL PRO-WRESTLING “LAST” LOVE ~HOLD OUT~ | プロレスリング・ノア公式サイト | PRO-WRESTLING NOAH OFFICIAL SITE)) )を開催しており、大会場で大きく動員しました。
結果として2月に関しては新日本を上回り、国内団体トップの動員を記録しております。
それはそれでよいことなのですが、3月以降の動員割合を見てみると割合としては5~6%程度の動員割合で推移しており、いわば2月以前と3月以降で大きく様相が変わっていることが指摘できます。
その変化をわかりやすくするため、前述した団体別の動員割合の円グラフを「2023年1・2月」と「2023年3月以降」に分けたものが上になります。
このように「1・2月」に関しては新日本とノアが30%近くを占有し、3位以下の団体を大きく突き放す状態にありますが、一方で「3月以降」となると新日本・STARDOM・ドラゴンゲート・全日本については全期間と比較してもそう変わらない割合なのに対し、ノアは順位を2→5位に下げ、割合も全期間では11%だったものが3月以降では6%とおおよそ半減しています。
この団体別の動員割合については団体間のパワーバランスを可視化する意味があるとは思いますが、そういった意味では今年に限っては各期間別にみた方が正確な評価ができそうな気はします。
コロナ後動員回復率
1年間の動員についてはコロナ以前と比較しての回復率は見てみましたが、各月の動員回復率を見てみたのが上図。
2020年~2023年にかけての各月での動員の2019年比を折れ線で示していますが、2023年はどの月も2022年よりも回復率は高くはなっています。
最も大きく回復していたのは2月で19年比94%にまで回復しています(これに関しては武藤啓司引退興行がこのタイミングであったというのもあるでしょう)。
日本プロレスリング連盟の動員割合
2023年の日本プロレス界の話題と言えば日本プロレスリング連盟(UJPW)の設立((【お知らせ】プロレス業界団体『日本プロレスリング連盟』を設立へ。2024年5月6日(月・祝)日本武道館で、賛同団体による設立記念興行を開催予定 | 新日本プロレスリング))は外せないでしょう。
少しプロレスの歴史調べたことがある人なら、2006年にも似たような業界団体としてグローバル・レスリング連盟(GPWA)が設立されたことも知ってるとは思いますが、
GPWAがプロレス団体間の調整・整合(興行日程の調整やルールの統一など)だったのに対し、UJPWはプロレス界と行政・世間一般の間の窓口としての組織とされてます。
この辺りはそれこそコロナ禍に入ったタイミングでいろんな要望を行政に訴えた時に「統一した窓口がないと困る」と指摘されてたことを踏まえての設立だとは思います。
そして、UJPWの設立に関するリリースで「業界団体に求められるもの」という項目があり、そこを見てみると「1.【統一性・一体性】 本団体が「プロレス業界全体の代弁者」であること」の2点がまず挙げられています。
つまり業界としてUJPWが「プロレス界の代表です」と名乗って違和感がないのか、反対意見がない(もしくは無視できるぐらいには小さい)かが必要ってわけです。
それを調べる上で参考に、2023年の動員割合のデータから、UJPWに現状参加を予定している団体の占める動員割合を示したのが上図。
団体としては新日本プロレス、プロレスリングノア、STARDOM、ドラゴンゲート、全日本プロレス、DDT、大日本プロレス、東京女子プロレス、ガンバレ☆プロレスの9団体ですが、
これらを合わせると動員は68万人弱、割合としては76.1%となっています。
はたしてこういった業界団体において何%が「代弁者」と名乗ってよいのかについてはわかりませんが、7割超えていたらまぁ良いのかなぁなんて思います。
こうして団体の垣根を超えた連盟ができたはできたのですが、現在日本プロレス界で言うと、ブシロード傘下とCyberFight傘下の大きく二つの派閥が存在していることも確かではあります。
今回のUJPWでは両派閥ともに参加しているわけですが、その中でのパワーバランスも存在すると考えてもよさそうです。
それを想像するために、UJPW参加した団体の身での動員割合を示したのが上の円グラフで、そこからさらに「ブシロード系」「CyberFight系」「それ以外」で色分けしています。
結果から言うとブシロード系が過半数を超える51.8%の動員を占めており、CyberFight陣営とその他陣営はほぼ同程度という形になっています。
もちろん動員数=連盟内でのパワーという理屈はおかしいんですが、参考までに。
まとめ
動員、平均動員など前年から増加するもコロナ以前の水準には届かず
ノアが1・2月のビッグイベントで大きく伸びるもブシロード陣営崩すに至らず
日本プロレスリング連盟で全体の7割強の動員
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