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Chapter 1: Web1からWeb2そしてWeb3へ〜Web3 Marketingをナナメ読み(1)〜
どういう本なの?
著者のAmanda Cassatさんは、メディア企業で仕事をした後、2016年にConsenSysという会社のCMOに就任します。ConsenSysという会社はEthereum(イーサリアム)上で、DAppsと呼ばれる分散型のアプリケーション開発等を行う会社で、NFTや仮想通貨などをやりとりする際に使われるMetaMaskというウォレットなどを開発・運営している会社です。
その後、彼女はNFTなどの暗号資産やWeb3/ブロックチェーンに関する仕組みを活用したマーケティングサービスを提供する(イベントなどではWeb3-Native Agencyという言い方をしているみたい)Serotonin というエージェンシーを立ち上げるのですが、業界的にはWeb3領域におけるマーケティングの草分け的な人と言われているようです。
そのAmandaさんが2023年に上梓したのが本書 "Web3 Marketing: A Handbook for the Next Internet Revolution" です。
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かくいう自分も、これまでWeb・ブロックチェーン・仮想通貨・NFT・メタバースといった言葉は何となく知ってましたが、1つひとつの正確な意味や違いはよく分からずに過ごしてきた一人です。ただ、最近、Web3領域に関連するプロジェクトに混ぜてもらう機会があり、色々と情報収集を始めたところ、もしかすると、これはかつて検索連動型広告というビジネスモデルがデジタル広告のあり方を大きく変えた時のように、マーケティングやコミュニケーションのあり方を大きく変える可能性があるような気がしています。
とはいえ、ここはまだまだ多くの人や企業にとって未踏の領域であり、欧米でマーケティングに携わっている友人たちに尋ねても「まだ様子見かなぁ」「正直、よくわからん」といった回答が多く、体系立てて整理された情報も非常に限られているっぽいことがわかってきました。(そもそも、体系的に整理できるほどの実証例が全然足りないのかもしれません。)
Disclaimer(おことわり)
ってことで、こうしたテーマについて、ある程度、体系的に整理されているっぽい本の一つということで見つけたのがこの本です。とはいえ、この本を論評できるほどWeb3領域に知識がある訳じゃないので、あくまでも自分の頭の整理もかねたメモです。
私の興味・関心というフィルタを通したメモなので、書評でも要約でもありません。当然のことながら、誤訳や誤解なども含まれる可能性は大いにありますので予めご了承のほどを。読みながら書いていくので、時間のある時に、1チャプターごとに書いていくつもりですが、途中で挫折するかもしれないという予防線も張っておきます。
今のところ、この本の日本語訳はまだ無いみたいなので、読んでみたいけど面倒くさいなーと思っている方には、どんなことが書かれているのかという雰囲気くらいは感じてもらえるかなと思います。
Chapter 1: Web1からWeb2そしてWeb3へ
Web3は空から突然降ってきた荒唐無稽なアイディアじゃない
少し前までの自分もそうでしたが、Web3とかブロックチェーンというと「世界にいるどこかの超優秀な(もしくは一攫千金を狙う野心的な)エンジニアが産み出した全く新しい技術や仕組み」だと思っている人が多いのだと思います。
Web3関連の書籍の多くが「Web3がどのようにWeb1とWeb2から発展してきたか」という歴史の説明に多くのページを割いているのは、Web3に関する人々の誤解や思い込みを解き「Web3ってのは、空から突然降ってきた荒唐無稽なアイディアじゃないんだよね」ということを理解してもらうためなんだろうと思います。実際、Amandaさんも、序章の中で「Web3とは、新しいアイデアの集合ではなく、むしろウェブの元々のビジョンを新たに実現しようとするものなのだ」と書いてます。
私自身は、いまから20年ちょっと前、まだソーシャルメディアもスマートフォンも無かった頃に、「検索連動型広告」という(当時は)全く新たな広告モデルの創出に携わった人間として、このWeb1〜Web2の変遷は見てきていますが、(みなさんがWeb3にどの程度興味や可能性を感じるかはさておき)いま、Web2的な世界でマーケティングに携わっている方々にとっても、Web1から今日までの変遷を理解しておくことは決してマイナスでは無いように思います。
Web1: ユートピアの誕生
特にWeb3関連の書籍では、このWeb1時代を「ユートピア」と表現されることが多いように感じます。
Web1の時代とは、元々、政府や大学の研究者に限られていたインターネットというインフラが、ワールド・ワイド・ウェブ(WWW)の発明によって一般の人々に開放された時代です。
コンピュータをウェブでネットワーク化することで、インターネットは大規模に活用されるようになり、これまでには考えられなかった規模で政府や企業あるいは個人向けのコンテンツが生成そして共有されていくことになります。世界中の何十億という人たちと、非常に少ないコストと労力で、膨大な情報の共有やコミュニケーションを可能にしたのがWeb1の時代です。
Web1の時代を作りあげた人たちは、オープンでネットワーク化されたシステムが重要な社会的あるいは科学的な事実を明らかにし、不当な権力の支配を打破するのに役立つと信じていました。そういう意味もこめて、Web1の時代が「ユートピア」と言われるのでしょうね。
Web2: 敵は意外なところからやってきた
Web1時代に創られた非中央集権的なユートピアを破壊するものがあるとすれば、それは政府などの公的権力だと考えられていたようですが、実際には違いました。
誰もが公平に利用できるとインターネットというユートピアに新たにやってきた「入植者」たちは、ユートピアの創設者たちの思惑とは違い、「一般のユーザーがインターネットにアクセスしやすくする」という名目で、閉じられた「ウォールド・ガーデン(囲い込まれた環境)」を築き始めます。
まずはAOLやCompuServe(かつてNIFTY-Serveのユーザーは連携していたCompuServe経由で海外のネット情報にアクセスしていたんですよねぇ)といったインターネットプロバイダが最初の入植者として「ウォールド・ガーデン」を築き始めます。
インターネット上に次々と生まれる情報に簡単にアクセスするためのディレクトリ(掲示板)として誕生したYahoo!や検索エンジンのGoogleがこれに続き、さらにはX(Twitter)やFacebookなどソーシャルメディア、AmazonやPayPal・ShopifyなどのEC・決済サービスなど、新たな「ウォールド・ガーデン」が次々に生まれていきます。
もちろん、こうしたプラットフォームは、様々な技術の開発やユーザーエクスペリエンス(UX)の提供により、多くの人々にとって、インターネットを使いやすいものにしました。そして、災害時など危機的な状況において人命を救うことさえありました。しかしながら、プラットフォームに新たな機能を追加し、利用者を増やしていくために必要な資金や人材を獲得するために、ベンチャーキャピタルなどから投資を受けるようになると、当然のことながら、プラットフォームの運営者には「もっと売上や利益を上げよ」というプレッシャーがかかります。
その解決策として最善と考えられたのが「広告」でした。プラットフォームの運営者は、ユーザに利用料を課す代わりに、ユーザ自身が「製品」となり、広告主に売られる提供されるために分類され、選別され、販売されるようになりました。この結果、広告主は、ユーザのオンライン上の活動から生成されたデータを活用して、対象となるオーディエンスを正確に狙うことができるようになる訳です。
こうして、今日も続くWeb2の時代では、オープンなインターネット上に閉鎖的なプラットフォームがつぎづぎと築かれ、ユーザに関する様々なデータは、プラットフォームの運営者が所有する中央集権的なデータベースに保存され、マネタイズのために利用されていくことになります。
『ホモ・デウス』の著者であるユヴァル・ハラリ氏は、最適化され続ける機械学習アルゴリズムが、私たち自身よりも私たちを深く理解するようになり、民主主義の基本的な考え方を弱体化させるのではないかとも言っています。私たちが人生の多くをアルゴリズムによって操作される中で過ごし、自分自身の意見すら、実際にはアルゴリズムによって作られあるいは誘導されるものとなった場合、民主主義の基本単位である「情報に基づいて主体的に判断や選択をする市民」は、果たしてまだ存在できるのかと。
アルゴリズムという怪獣が暴れ回るWeb2時代のプラットフォームがもたらした最も大きな影響の一つは「パレート分布の格差が広がること」です。これは、YouTubeでの動画の視聴頻度、Spotifyでの楽曲の再生回数、Amazonでの買い物客の誘導状況など、さまざまな文脈で見られます。
例えば、Spotifyを活用するアーティストを例に考えてみましょう。もしSpotifyがリスナーにアクセスする主な手段であり、数億人のリスナーがアルゴリズムによって選定されたプレイリストを通じて音楽を聴いているとすれば、最も人気のある少数のミュージシャンが、最終的に総ストリーム数と、それに伴う経済的リターンの非常に大きな割合を得ることになります。
プラットフォームの運営者が効率的に利益を上げるためには非常に重要な仕組みではありますが、こうしたWeb2時代のビジネスモデルがもたらした経済的な影響は主に以下の3点に集約できます。
ユーザーを製品化することでWeb2の投資家や幹部の小集団が莫大な富を得たこと
注目や需要の流れを事実上独占することで、大きな収益を中間業者として吸い上げることを可能にしたこと。
トップリストに入れない中下位層のコンテンツがが注目を集め、そのコンテンツ制作者が報酬を得ることをますます難しくしたこと。
HTTPステータスコード402
みなさんも、リンクをクリックした先のページが存在しない時に、HTTPステータスコード404「Not Found(見つかりません)」というメッセージを目にしたことがありますよね?しかし、HTTPプロトコルに標準として記載されている「402 Payment Required(支払いが必要)」というコードを見たことがある人はいないのではないでしょうか。
このエラーコードが規定されているのは、初期のウェブ設計者たちが、インターネット上のオープンな環境で支払を行うための環境を構築しようとしていたことを示しています。しかし、この計画が実現されることはありませんでした。
もし実現していれば、PayPalやStripeなどオンライン決済の都度、費用の一部を吸い上げるサービスは存在しなかったかもしれません。一方で、インターネット自体に支払機能が内在することによって、広告ベースのビジネスモデルが少なくなった可能性もあるかもしれません。
このようなインターネット黎明期に生まれたインターネットネイティブな決済というアイデアは、最初のWeb3の構築者たちの想像力を掻き立てました。
彼らがWeb3を構築する際、全く新しいものを発明していたわけではありません。彼らはウェブを元々のビジョン(ユートピア)に回帰させ、Web2時代に起きた諸問題を正そうとしていたのです。
つづく(たぶんね)
Chapter 1のメモは以上です。Noteのカウントによると4,800文字くらいの分量になりました。次回はChapter 2のメモを書く予定ですが、あえなく挫折するかもしれません。そんなの待ってられるかよ、という方はぜひAmandaさんの本を読んでみてください。