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2019J1第5節 横浜Mvs鳥栖@日産ス

スタメンはこちら。マリノスの変更点はSBのみ。ティーラトンが外れ、これまで右SBを務めてきた広瀬が左SBに。そして右SBには松原健が復帰。
さらに、GKが飯倉から朴に変更。今季の飯倉は、クリーンシートこそなかったが、特に悪かったとは到底思えない。おそらくそれ以上に練習で朴一圭が高いパフォーマンスを披露していたのだろう。こうした現象は、チーム内でレベルの高い争いができている証拠ではないだろうか。インターナショナルマッチウィーク中に加入した中川風希と和田拓也はメンバー外。彼らに関してボスは、2,3週間はフィットするのに時間を要する、とコメントしており、彼らのデビューは4/10のルヴァン杯あたりになるのだろうか。

一方の鳥栖。お目当ての”エル・ニーニョ”は怪我のため欠場。また、前節退場処分となったCB高橋祐治は出場停止。開幕戦から3バックや4-2-3-1を採用し、スペイン人指揮官の下で攻撃的サッカーに着手してきたようだが、この試合の布陣を見ると守備的にくることが予想された。本職がボランチである高橋義希、高橋秀人、福田、原川を中盤に4枚並べてきたからだ。

【鳥栖の守備の狙い・ビルドアップ潰し】 

戦前の予想通り、この試合の鳥栖は守備的で、昨季までの鳥栖を想起させるものだった。スペースを埋め、マリノスのビルドアップに制限をかけてきた。

まず2トップのタスクから。彼らに与えられた使命は、アンカー喜田を消すこと。
とにかく喜田にボールを受けさせないようにマークをする。また、豊田、金崎の2人はハードワークを持ち味としており、特に豊田に見られたのは、畠中がボールを持った際に、喜田へのパスコースを切りながらプレッシャーをかけてきたことである。
すると、朴を使って迂回ルートから喜田へパスを届けることも考えられるが、ここは金崎をスライドさせるorボランチの1枚を喜田のチェックに向かわせるなど、非常に組織立っていた。

次に、高橋義と原川について。彼らはSHのポジションであり、主に任されるのは、マリノスの”偽SB”のケアである。SBがボールを持つタイミングで素早くアプローチをかけ、ボールを縦に入れさせない。また、マリノスのSBとIHの中間ポジションを取り、下りてボールを受けにくるIHに対してもしっかりと対応していた。

総括すると、マリノスのビルドアップ隊5枚に対し、鳥栖は前の6枚で蓋をする、という手法を採ってきたことになる。

【大分戦から見られた成長・瞬時に見つけた突破口】

こうした鳥栖の守備に対し、マリノスは即座に対応してみせる。鳥栖が人数をかけてプレスをかけてきたのを見て、最終ラインを1枚増やした3バックの形にすることによってボール保持を安定させた。これにより、左右両側(2トップの脇)からの持ち上がりや斜めのパスによって前進することができるようになった。

3バックの作り方には、2通りがあった。
パターン① アンカー落ち

これは、おそらく4バックのチームが3バックの形を作ってビルドアップを行う場合の最も一般的な形なのではないか。攻撃力の高いSBを高い位置に置きたいチームが採用する手法である。
この形で前進を成功させたシーンが開始わずか3分に訪れる。

このプレーでは、相手を引きつける動きをした喜田・三好以外に、チアゴを褒めるべきだろう。機を見て自らボールを運ぶ”ドライブ”ができるCBだ。簡単そうにやっているが、CBが持ち上がるプレーには、多大なリスクを孕む。これを実現するには、優れた状況判断と、何よりも運んだボールを前線の味方に確実につなげる技術が不可欠だ。相棒の畠中の並外れたパス能力が注目されがちで、チアゴのこうした部分は取り沙汰されにくい傾向がある。しかし、チアゴにも優れた状況判断と技術は備わっている、と再確認させられた。

パターン② 右SB松原落ち

パターン①のアンカー落ちは、前半3分のシーンくらいで、他の多くのシーンはこのパターン②の形で行われていた。

喜田が本来のアンカーの位置で鳥栖の2トップを引きつけ、空いた2トップの脇のスペースから松原や畠中が前進させる。
この形は、松原健の並外れた長短のパスセンスがあってこそ成立するものだ。特にこの試合の松原は冴えていた。プレッシャーが来ないと見るや自らボールを運び、プレッシャーが来ていたら仲川、三好、エジガルに斜めのパスを通してボールを前進させる。このあたりの判断が素晴らしかった。
あえて注文を付けるなら、逆サイドで幅を取るマルコスへの対角線フィードなんかができれば尚良しといったところだ。

先述した通り、この松原のポジショニングが前進の際に多く用いられた手法であったのだが、それにはもう一つ理由がある。

鳥栖の守備においてSHの高橋義と原川に課せられたタスクは、マリノスのIHとSBをケアすることである。彼らの立場に立って考えてみると、マリノスのIHとSBが近い距離にいれば、どちらにボールが出ても即座にプレッシャーをかけることができる中間ポジションを取れば事足りるため、守りやすいと言える。逆に、マークすべき相手が遠い距離に位置取っている場合、中間ポジションを取っていてはプレッシャーに遅れが生じるため、どちらかに付くか二択を迫られることになる。

この状況で松原がDFラインでボールを裁く役割を負うと、原川は松原と三好のどちらについて行くかを選択せざるを得ない。もちろん完全に原川に2人をマークさせているわけではなく、基本的にはボランチの福田と分担という形だったが、福田にはエジガルに通じる真ん中のパスコースを封じる役目もあるため、常に三好について行くわけにもいかない。よって、こうした迷いに漬け込む形で松原は自由にボールを持てるシーンが多く、鳥栖のプレッシングに対する突破口となっていた。

パターン①とパターン②の割合で言えば、1:9くらいであったか。理想を言えば、両サイドと喜田のアンカー落ちの3パターンを均等に使いこなせると相手の守備に的を絞らせず、攻撃のバリエーションを増やすことにつながる。

【治らない勘違い・”偽SB”は”手段”であって”目的”ではない】

”偽SB”の用法用量を守って正しくお使いできていないシーンは往々にして見られる。その典型例がこのシーン。ビルドアップの際、中を締めてくる相手に対し、SBがわざわざ餌食になるようなポジショニングを取ることによって自らパスコースを消してしまい、結果として相手にボールが渡ってしまっている。

様々な有識者に言われていることだが、”偽SB”はあくまでも手段である。ボールを前進させるため、相手に使われたくないスペースを埋めるリスク管理のために使われるべき手段であって、SBが中に絞ることを予定調和として決めつけてしまうのは話が変わってくる。ここ最近の対戦相手は明らかにマリノス対策として、偽SBを念頭に置いた策を練ってきている。それに対し、空いているはずのスペースに人がいない、また、埋められているスペースにわざわざ入り込むのは本末転倒と言えるだろう。
”マリノス対策”を上回る方法とは、正しい目的とそれを達成するための手段が適切に行使されることである。
”医薬品と偽SBは用法用量を守って正しくお使いください。”
この言葉を肝に命じてほしいものだ。(笑)


【鳥栖の攻撃の狙い・立ちはだかった”リーグ屈指”の2CB】

この試合における鳥栖の攻撃の狙いは、豊田・金崎にボールを当てて起点を作り、マリノスのSBの裏、はたまたCBの裏を狙うカウンターが主体だった。つまり、昨季までの鳥栖と同じである。
そこに立ちはだかったのが、今や攻守両面でリーグ屈指のコンビであるチアゴと畠中だ。チアゴのスピードは言わずもがな。前半22分のシーンでは、金崎にうまく入れ替わられ、あわやキーパーと1対1に。普通のディフェンダーであれば、あれほど綺麗に入れ替わられてしまったら到底追いつくことはできない。しかしチアゴはそうではない。あっという間に金崎に追いつき、ピンチを凌いだ。正直、チアゴがいなければこれほどにハイラインを敷くことはできないだろう。

畠中は、代表の活動を経て強く逞しくなって帰ってきた感がある。個人的に、屈強さに欠けるというイメージがあったのだが、キープ力に定評のある豊田・金崎と互角以上に渡り合う畠中を見て、すでに攻守両面においてリーグ屈指のCBになっていると感じた。長らくマリノスのDFラインを支えてきた中澤の後継者はこんなにも早くに見つかってしまったのだ。今季は彼にとって実りの年である。怪我なく過ごしてくれることを切に願いたい。

【崩しの課題・どうすれば点が取れたか】

この試合のスタッツにおいて、マリノスのシュート数は18。数字だけを見れば、マリノスが再三のチャンスを決め切ることができず、勝ち点3を得ることができなかった試合と言えるだろう。いわゆる決定力不足である。しかし、この試合を形容する言葉としてこの言葉が完全に正しかったかというと、そうではない。
実際には、敵陣PAへ侵入する前にパスが噛み合わない、といった原因でボールを失う場面が極端に多かった。あと一本パスが繋がらないのだ。
それもそのはず。この試合でマリノスが狙っていたのは、中央に縦パスを入れて落としてシュートに持って行こうとする、大変難易度の高いことにチャレンジしていた。
細かく分析すると、相手の逆を取り、縦に楔のパスを入れるところはできていて、一本めの縦パスをカットされるシーンはほとんどなかった。松原や喜田のパスは適切なスピード、コースでエジガルや天野の足元に入っていた。問題はその後である。
相手は当然ながら中央のバイタルエリアを固めてくるため、縦パスを受けたエジガルは3,4人に囲まれることになる。うまく周りの味方に預けることができても、そこからシュートに持ち込むことはできない。
結論から言えば、非常に非効率的なチャレンジだったと言わざるを得ない。

この試合最大の決定機(松原のシュートがバーを直撃したシーン)しかり、至近距離からのシュートに持ち込めたのは、サイドを崩し、チャンネル(SB-CB間のスペース)を開門してそこに侵入するものが多かった。もっとこれに早く気づいていたら、点を取る確率は上がっていたかもしれない。
それにしても、上の動画における遠藤とマルコスのコンビネーションは見事である。たった2人でSBの裏のスペースに侵入することに成功している。4人を投じてもスタックしていた中央と比べていかに効率的か、選手個々に考えてほしいものだ。

【今週の槙ちゃん】

今週のプレーはこちら。
そもそも、受け手が四方八方からプレッシャーに晒される中央に浮き玉のパスを出すことには多大なリスクを伴う。ましてや自陣でこれをやることは、御法度と言って禁止する監督も一定数以上いるのではないか。
しかし、畠中にはこれができる。このプレー選択の際に必要な認知の範囲だが、ただ受け手となる三好が見えているだけでは成り立たない。三好に加え、相手選手の位置関係もグラウンドレベルから認知されていなければならない。つまり、パスを受けた三好が相手選手に囲まれることなく、ボールをキープすることができる、というところまで認知・判断が及んでいなければならないのだ。畠中は、ここまで見えていたことになる。
もちろん空間を使って三好の元にピタリと付けるロブパスの技術も褒められるべきだが、プレー選択に必要な認知と判断の面でもリーグ屈指の域に達しつつあるのだ。

【考察・そして続く浦和戦へ】

この試合は、結果としてはスコアレスに終わったが、チームとしての進捗と課題の両面が見えた大変意味のあるゲームだったと思う。
内容も決して悲観すべきものではない。課題は、ちょっとした意識の変化、真理に気づけるかどうか、時間をかけての連携の向上によって全て解決することのできるものだ。
松原が自らのキャラクターを示したように、メンバーが変わっても、代わりに入った選手の特徴を活かしつつチームのスタイルはブレない。そのような域に着実に近づいている。チームは確実に成長している。

さて、次節はアウェイ浦和戦に乗り込んでの一戦。
オリヴェイラはどのような手を打ってくるのか。
プレスかリトリートか。
前節のFC東京戦では初の4バックを採用したそうだが、今回も4バックで来るのか。
アンカーをどのように消しに来るのか。

策士オリヴェイラの出方が鍵になる一戦である。


3/29(金)19:30 J1第5節 横浜0-0鳥栖

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