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2019J1第14節 湘南vs横浜M@平塚

スタメンはこちら。
2連勝で今節を迎えるマリノスは、前節からスタメンに変更はなし。良い時は変えない、定石である。
対する湘南は、前節の神戸戦に1-4と大敗している。怪我人が多発しており、ベストメンバーが組めない非常に厳しいチーム状況だ。

【湘南のプレッシング】

湘南ベルマーレというチームの生命線、それはハイプレスである。チーム全体の共通理解のもとに躍動感のあるプレッシングによって敵陣の高い位置でボールを奪い、素早くゴールまで到達する。相手にボールを握られることを厭わず、逆にボールを持たせてチャンスの足がかりとする。彼らは、現代サッカーの二大潮流の一つ”ストーミング”の、Jにおける旗印のような存在であり、非常にスピーディーで魅力的なサッカーを展開するチームだ。

基本的なシステムは3-4-2-1。マリノスが前節に戦ったジュビロ磐田と同じシステムを採用しているが、より組織として洗練されており、スペースを与えないための工夫がなされていた。

前節の磐田の守備組織についてはこちらを参照。磐田も同様に前からボールを奪いに来たのだが、構造にかなり差異があった。

磐田は深い位置にDFラインを設定し、5バックを崩さないような方策を採用してきた結果、中盤2センターの脇のスペースを自由に使われる、という現象が発生し、ゾーン2において無法地帯が形成された。ティーラトン、和田、喜田、扇原、マルコスらがこのスペースを襲撃し、4得点での圧勝に至ったのが前節の話。

この試合の映像を見て、なのかはわからないが、湘南・曹監督は中盤2センターの脇のスペースをどのように埋めるか、という部分に関しては徹底した対策をとってきた。

①5バックのうち、両サイドのウイングバックが積極的にこのスペースを埋めるタスクをこなす。
②引いて守る際は、前線の両サイド(武富と山口)が中盤のラインに落ちて5-4-1を形成。
③間延びしないよう、DFは高めのラインを保つ。

ここまでが、2センター脇をケアするための戦術である。ではこれを受けてどのようにボールを奪いにきたのか。

湘南のプレッシングの特徴は、執拗なマンツーマンにある。ゾーンでスペースを守るのではなく、人にピッタリついていく。いわば、自分がマークする相手を地の果てまで追い回すのだ。圧倒的なスタミナ・インテンシティを背景に相手に走り勝つ。ショートパスを多用して相手を翻弄したいマリノスにとっては、苦手な部類に入る相手と言える。

上図の通り、基本的に湘南のダブルボランチは、マリノスのダブルボランチ(喜田・扇原)を見る形をとり、前線の3枚と片サイドのWB1枚の計4人でマリノスの4バックに対してつく。扇原がCB間に落ちてボールを捌くときには、前線の3枚が同数でマークをする形になる。
また後方に目を移すと、先述の通りWBが前後に動いて守備をする分、HV(両脇のCB:小野田と杉岡)は前後には動かず、WBが出ることで生じたスペースを埋めるべく横方向にスライドする動きをすることが多かった。

【マルコス・システムを用いたプレス回避】

湘南の組織的なプレッシングに対し、マリノスはどのようにしてボールを動かし、前進したか。

先ほどの図をもう一度。

赤いゾーンでは、7vs6とマリノスが数的優位を獲得している。なぜなら、前線の3トップが湘南のDFライン4枚をピン留めしているため、中盤で1枚多い状況が形成されるからだ。
すると、局面において湘南の選手が1人で2人のマリノスの選手を見なければならない状況が生じる。こうした状況下では、必然的にプレッシングの強度は緩くなり、時間と空間を与えられた状況でボールを持てる選手が出てくる。

前半の先制点は、まさにこのカラクリを利用してマルコスがライン間でフリーでボールを受けることに成功したところから生まれている。

チアゴから縦パスを受けたマルコスは、誰のマークを受けることもなく前を向き、仲川へ芸術的なスルーパスを通している。この場面で、湘南の選手(おそらく山口だと思われる)がサボっていたかというとそうではない。当初マルコスのマークについていたが、チアゴがフリーでボールを持つのを見て流石に見過ごすわけには行かず、やや遅れながらアプローチに出たところ、結果的にマルコスが浮いてしまったというカラクリ。
湘南のダブルボランチがマリノスのダブルボランチを押さえにかかる裏でマルコスが浮いているシーンは、前半に多く見られた。

もう一つ特筆すべきなのが前半14分。
このシーンでは、マンツーマンディフェンスの弱点を巧みに突いて前進に成功している。

この場面では、ボランチの松田がマルコスにマンツーマンで付いている。

①マルコスが松田を引き連れて降りてくる
②ティーラトンはすぐにパスを散らすのではなく、しばらくボールを保持して空いて、特に対面の古林を引きつける
③マルコスが空けたライン間のスペースにフリーで走り込む扇原
④ティーラトンから扇原へパスで局面打開・前進成功

マンツーマンのプレスでは、複数人が共通理解を持って動き、相手に対して先手を取ることで、自チームが使いたいスペースをデザインすることができる。特にこのシーンでは、中盤の数的優位による湘南のプレッシングのわずかな緩みをついてフリーの扇原が飛び出す形でボールを受け、前進に成功した象徴的なものであった。

【”マルコス・システム”とAJ10】

前半28分、アクシデントが発生。マルコス・システムのキーマンとして大車輪の活躍を見せていた扇原が相手との接触の中で負傷。交代を余儀なくされる。
交代して入るのは天野純。2016シーズンの後半戦、2017シーズンの前半戦において喜田とダブルボランチのコンビを組んだ経験はあるが、その後は主にトップ下として名を馳せてきた選手であり、守備面など様々な要素において不安を感じさせる交代ではあった。

案の定と言ったところだろうか。この交代の直後から劣勢に追い込まれるようになり、セットプレーのこぼれ玉から失点し1-1で前半を折り返す。
立て直しを期する後半立ち上がり、天野は天野なりの考えのもと、自分のポジションでプレーをする。

天野が取ったのは2CBの間のポジション。いわゆるアンカー落ちである。チアゴ、畠中と非常に近いポジションで横パスを繰り返し、安定的にボールを保持する中で機を見て縦にパスを通し、前進につなげる。いくつかのシーンにおいて、喜田のターンの技術や成長した遠藤の局面打開力を用いてチャンスを演出することができた。また、キープ力とパスを通す技術に優れた天野が最後列でビルドアップを司ることで、自陣でのボールロストがほとんどなかった。
また、崩しの場面では、勝ち越し点を演出するサイドチェンジ、お得意のハーフスペースの裏抜け、終了間際の右足で放った決定機など、要所要所で存在感を見せている。こうした面において、天野は不慣れなポジションでも適切な仕事をこなし、チームの勝利に貢献したと言えるだろう。


しかし、天野の投入からボールタッチ数が明らかに減少した選手がいる。マルコス・ジュニオールだ。

磐田戦と湘南戦は、どちらも88分に交代しているため、プレー時間は同じであるが、磐田戦では57本だったパス本数が湘南戦では34本と大幅に減少している。
(ソース:Sofascore.com)

もちろん試合展開は多分に影響しているが、チームのこの2試合のボール支配率にそれほどの違いはない(磐田戦:65%, 湘南戦:71%)ことから、マルコスがボールに触る機会、プレーする機会が明らかに減っていることがわかる。

個人的な見解:
ここ数試合うまく事が運んでいたのは、マルコスが自由に動き、それに合わせる形で喜田、扇原、和田、ティーラトンがポジションを取り、バランスを保っていたことが大きいと考えている。しかしこの試合では、天野が最後列に一つ基準を設けることで、マルコスに与えられる自由が制限され、結果的にマルコスがそれに合わせる形になった。

この状況に関して一つ言えることは、ボールを保持する位置が目指すべきゴールから遠ざかってしまうこと。また、チーム随一のスキルと打開力を誇るマルコスの能力が最大限に活かされないことだ。

相手や展開によっては有効な面もあり、逆にボールを保持することが目的になってしまう懸念はある。一概に良い、悪いを定めることはできない。チームの方向性、天野純の活かし方、マルコスの活かし方、様々な観点があり、どれを優先するかによって打つべき手は変わってくる。

幸いにも次の試合まで2週間ある。チームとしての方向性をしっかりと定める時間にしてほしい。6月のラストには首位FC東京との試合が控えている。ここに照準を絞り、最高の状態で臨めるようにしたい。



5/31(金)19:00 J1第14節 湘南1-2横浜

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