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2019J1第28節 磐田vs横浜M@ヤマハ



前節は仙台に乗り込んでの一戦。前半に松原が先制点を挙げたものの、終盤に痛恨の同点弾を決められてドローに持ち込まれたマリノス。

今節の相手は現在最下位に沈む磐田だ。

対戦相手について語る前に、まずはこの試合を間違いなく左右するであろう気候面に触れておきたい。J1は、前節より昼間開催が解禁されており、マリノスにとっては久々のデーゲームとなる。そしてこの日はよりによって久々の30℃超え。真夏と違って湿気はないが、ピッチを覆う屋根のないヤマハスタジアムには激しい日差しが降り注ぎ、プレー環境としては極めて過酷なものといえる。



マリノスのスタメンは前節から2人変更。仙台戦は出場停止だった喜田とティーラトンが復帰した。ベンチには広瀬が復帰したが、スタメンに入るのは松原である。ここに来て松原が定位置確保の様相を呈しているのかもしれない。
配置を見てみると、エリキと仲川の位置が入れ替わっている。配置の最適解を探る旅はまだまだ終わらないようだ。

一方の磐田だが、成績不振から今季2度の監督交代を経て今に至っている。ただし、順位こそ最下位ではあるものの、決して悪いチーム状態ではなさそうだ。前節はアウェイで難敵・大分を下し、久々の勝利をおさめた。数字上残留の芽は限りなく不可能に近いものとなっているが、”魔術師”の異名をとるフェルナンド・フベロの戦術がようやく形になって表れてきているようにも見える。
システムは4-4-2。キーマンはボランチの今野だろう。



【磐田の攻勢・”2つの数的優位”】


試合序盤はマリノスにとって非常に厳しい時間帯となった。ボールを満足につなぐことができず、セカンドボールをことごとく磐田に拾われ、幾度となくゴールに迫られた。

結果的に耐えきることが出来たのがこの試合の分岐点であり、磐田の攻撃からゴールを守った守備陣が褒められるべきなのだが、そもそもなぜそのような事態に陥ったのかを分析してみたい。

直接的には、マリノスが落ち着いてボールを握れず、磐田を敵陣に押し込めなかったことが原因だと考えられる。


では、なぜそれができなかったのか。

たしかにマリノス側にも問題はあった。ボールを奪われた瞬間にプレッシングを掛けられない選手がいたり、そもそもボールを保持している段階でパスミスが多発したり、という具合にだ。気候のせいか、全体的に”重い”という印象が強かった。

しかし、それらを誘発したのは磐田のプレッシングと素早いセカンドボールへの反応の速さである。序盤の磐田は、ボールを奪われるとすぐにプレスをかけ、ロングボールを蹴らせ、セカンドボールを回収し、二次攻撃に繋げる、というサイクルを遂行することができていた。


自陣からのビルドアップにも工夫を凝らしていた。



ビルドアップを阻害するべくプレスをかけるマリノスに対し、落ち着いてボールを繋ぐ磐田。特筆すべきポイントは2つ。
一つは、ダブルボランチのうち1人がDFラインに落ち、マリノスの最前線の2枚に対して数的優位を作ることでボール保持を安定させてきたこと。
もう一つは、SHがハーフスペース、SBが大外レーンの高い位置を取り、マリノスのSBに対して瞬間的に数的優位を作ること。

この”2つの数的優位”を活かして磐田はプレスをいなし、手薄なマリノスのSB裏のスペースにロングボールを放ることによってチャンスを構築してきた。磐田は、90分通してこの形を多用していたため、研究の末にマリノスの弱点として見出したものなのだろう。


【安定したボール保持・機能し始めたプレス】


前半も半分が経過した頃に取られた飲水タイム。その後からマリノスは少しずつ落ち着いてボールを持つようになった。奪ってから急ぎすぎず、自陣からゆったりとボールを保持することに主眼を置き、じわじわと磐田を押し込むようになった。このパスワークの緩急において喜田と扇原が果たした役割は非常に大きい。前でマルコスや両ウインガーがフリーの状況であったとしても、急がず確実にボールをキープすることに徹し、結果として主導権を引き寄せることに成功した。

序盤はほとんどハマらなかったプレスも、担当するマークを整理することによって徐々にハマるようになる。両サイドで作られていた数的不利の問題だが、ボールサイドでは磐田のSBに対してSBがプレスに行き、ボランチがSHにつく、といった具合である。(※下図参照)


このようにボールの奪い方、動かし方を整備することでボールポゼッションを高め、試合の主導権を奪い返すことに成功したのだ。



【磐田の守備ブロック・論理的な先制点】


磐田は、ボールを奪われた直後はプレスをかけてくるが、一度奪えないと判断すると、すぐに自陣に撤退し、4-4-2のブロックを敷いてきた。約束事としては、ライン間で浮くマルコスに対してボランチが確実にマークにつく、というものに留まり、残りは人につくよりもスペースを守る性格が強いものだった。

そこまで極端ではないが、ボールサイドにスライドし、人数をかけてボールを奪うことに主眼を置いていた。

しかしマリノスは、これを逆手にとって先制点を挙げた。



一瞬ボランチ今野のマークを外して左サイドで畠中からの縦パスを受けたマルコスからティーラトン、喜田、松原へとパスがつながり、ボールが右へ推移していく。一度左で作ってから右に振ることによって磐田の陣形を横に揺さぶり、マークの受け渡しが困難な状況を作り出した。その結果、フリーでボールを受けた松原から仲川へスルーパスが開通。先制点となるオウンゴールが生まれた。

このシーンは、松原と仲川のコンビネーションが注目されがちだが、手前でCB藤田を引きつけるポジショニングを取っているエリキを評価したい。このエリキのポジショニングがなければ、CB藤田とSB宮崎の間のスペース(チャンネル)はこんなに開かなかったからである。

自分たちで空けたいスペースを空け、そのスペースをうまく使うことができた、という点で実に論理的なゴールだと言える。



【左ウイングの最適解とは、、、】


現状、左ウイングのポジションの一番手はマテウスのようだ。

しかし、これは実感ベースの印象論にはなってしまうのだが、遠藤が出ている時のマリノスは、複雑だが整備されたポジションチェンジを行いつつスムーズにボールが回り、”崩せている”という感覚がある。

逆にマテウスが出ている時は、マテウスの個の能力に頼った属人的な崩しのアプローチになっている。いわば、マテウスにボールを届け、あとはマテウスにお任せ、という感じだ。

マテウスが先発出場したこの2試合、左サイドの攻撃がうまくいっていたかどうかについては見解が分かれるところだが、一つ言えるのは、マテウスとは、スペースが十分に与えられた状態で、自らのペースでプレーすることを好む選手ということだ。逆に周囲に敵味方が多くいる環境では、スペースが消され、良さが出にくいタイプである。すなわち、選手の距離感近くワンタッチツータッチでパスを繋ぐスタイルには合わないのだ。ボールを持ったらドリブルやシュート、センタリングといった独力での局面打開を最優先のプレー選択として持ち、5m近くにいる味方にボールを預けようとはしない。


そして純然たる事実としてあるのは、マリノスは左サイドに人数をかけて攻撃しようとする節があるということ。パスセンスに優れたCB畠中が球出し役となり、ティーラトン、扇原、そしてサイドに流れるマルコスと、いわばパスワークの申し子たちが集結する場となっている。これによって狙う崩しのアプローチは2つある。一つはオーバーロードを作った左サイドを素早いパスワークによって突破すること、もう一つは、手薄な逆サイドに振ること(アイソレーション)だ。


こうした環境下で、現状のマテウスはスペースを消されてしまい、ボールにうまく絡むことができていない。それでも強引にボールを運んでいってあわやの場面は作るのだが…(笑)。

どちらかといえば、マテウスにはアイソレーションを仕掛ける逆サイドのウイングの方が合っているのではないだろうか。ボールサイドとは反対の逆サイドであれば、時間とスペースが与えられた状態でドリブル突破、センタリング、シュートが狙える。


翻って、遠藤はオーバーロードのかかったサイドでのプレーに長けている。味方のポジションバランスを見た上で自らのポジションを定め、大外でもハーフスペースでも生きるプレイヤーだ。ポジショニングについての知識はプロフェッサーレベルに達しており、常にいるべきポジションにいてくれる。ただし、ボールを持った時の単体での破壊力という点ではマテウスに遠く及ばず、やはり近い距離感にいる味方とのコンビネーションによってサイドを突破する方が強みを発揮しやすい。


これらを考慮した上で結論づける。”左で作って右で刺す”マリノスのパターンから考えると、現状左ウイングの最適解は遠藤だと考えられる。今回の磐田戦においても、マテウス→遠藤の選手交代が行なわれてから試合が落ち着き、マリノスはチャンスを作れるようになった。

マテウスについては、アイソレーションサイドになりやすい右サイドに配置して爆発的な突破力を活かす、あるいは、オープンな展開になりやすい後半途中から切り札として起用するのが合理的と言える。



※あくまで個人の感想です。




【エリキのCF起用について】


エリキのCF起用について考えてみたい。

エリキがこのポジションで起用されるのは初めてではない。そもそもデビュー戦となった8月のセレッソ戦で一度チャレンジしている。しかし、その時はお世辞にもCFのタスクをこなした、とは言い難い出来であった。あれから6週間が経ち、マリノスのサッカーにようやく順応してきたところでの再トライとなった。

前提として、エリキの強みは以下のように挙げられる。

①爆発的なスピード
②背丈の割にゴツい
③DFを翻弄するアジリティ
④基礎技術(トラップなど)の高さ


マリノスのCFに求められる働きとして求められるのは、相手DFラインを引っ張り、下げさせることによってライン間のマルコスにスペースを与えるタスクだが、エリキのこうした強みをポジショニングによってうまく生かせば十分に完遂できるものだ。

実際にこの日のエリキのプレーに目を向けてみると、スペースを作り出す作業は十分にこなすことができていた。エリキのおかげでマルコスがライン間で浮いている場面は数多くあった。安易に下がって受けようとせず、基本的にDFラインに貼りつきながら、裏抜けを狙うことによってラインを下げさせた。それだけでなく、先制点のシーンでは巧みなポジショニングによって磐田のCB-SB間のチャンネルを開門させることに一役買った。

オフ・ザ・ボールの動きだけでなく、ボールを持った時のプレーも光った。特に、50/50のボールをことごとく自分のものにしたり、難しいボールを収めるだけでなく巧みなトラップで相手DFを剥がし、前を向いてカウンターの起点となっていた。

データで見ると、この試合のエリキのタッチ数は39。マリノスのCFの見本とも言えるエジガル・ジュニオに比肩する数字だ。(ソース:Sofascore)

しかし、これを単純に鵜呑みにすることはできない。なぜなら、エリキがボールに関与するシーンはほとんどがカウンターのようにスペースが十分に与えられた場面だったからだ。

エリキのCFとしての真価が試されるのは、敵陣ブロックの中でいかにボールを受けて崩しの起点となれるか、である。この試合では、ブロック間で縦パスを引き出すシーンはほとんどなく、本格的なCFの仕事に取り組むのはまだまだこれからといったところだろう。

大いなる可能性を秘めたCFエリキ。2週間の代表ウィークの中でいかに深められるか、その成果としての湘南戦が今から楽しみである。






10/5(土)14:00 J1第28節 磐田0-2横浜

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