【序盤戦で見えた今季のマリノスの姿】Monthly Review 2021 Vol.1
お久しぶりです。ロッド(@_rod25)です。
さて、今シーズンのJリーグが開幕し、はや1か月ほどが経過しました。
あっという間に6試合が終了し、マリノスは4勝1敗1分けと素晴らしいスタートを切りました。
さて、シーズンプレビューにも書きましたが、今シーズンから1試合ごとのマッチレビューではなく、数試合スパンで見て感じたことを書いていきます。
始めるにあたって、本コンテンツの目的と方針を最初に述べておきます。
【目的と方針】
~①目的~
昨シーズン、殺人的な過密日程のなかで感じたことがありました。それは、1試合ごとの相手チームとの攻防も大事ですが、数試合単位で見たときにその試合の勝利、敗戦の意味は大きく変わってくるということです。
ただの1勝、ただの1敗でも、数試合先に見えてくるものがある。Twitter等を見ていても、その視点がどうしても拾われにくい気がしていました。昨年通じて私が度々訴えかけていた、「"点"ではなく"線"の視点で見る」ということです。
これがMonthly Reviewを始めた目的です。
名目上は"Monthly"としていますが、月の最後に更新すると決め打ちするのではなく、数試合単位で何か思うことがあったタイミングを見て書いていきますので悪しからず。
~②方針~
▼極力図解はしない
これまでのマッチレビューでは、ほぼ毎回図解(フォーメーションボードを用いた解説)を差し込んでいました。しかし、今回は数試合単位で書くレビューになりますのでそれをやると粒度が細かくなりすぎてしまい、とても書ききれません。
なので、毎回4000字を目安に、自分の「書く力」を信じてやってみる方針です。笑
前置きが長くなりましたが、それではMonthly Review Vol.1始めていきましょう。本編スタートです。
【対象試合】
▼試合数:6試合
▼成績:4勝1敗1分け 11得点6失点
⑴
vs川崎(Away) 0-2(Lose)
⑵
vs仙台(Home) 1-0(Win)
⑶
vs広島(Home) 3-3(Draw)
⑷
vs福岡(Away) 3-1(Win)
⑸
vs浦和(Home) 3-0(Win)
⑹
vs徳島(Home) 1-0(Win)
《概観》
開幕当初こそ苦しみましたが、徐々に星をこぼさず取れるようになり、現在3連勝。優勝ラインである「勝ち点 = 試合数 × 2」も達成できているので、結果からみるとこれ以上ない序盤戦と言っていいと思います。
序盤戦でここまでの成績を残せた理由と直接的に決めつけてしまって良いわけではありませんが、今季また新しい取り組みをしているマリノスのやり方を次項にて書いていきます。
【今季のマリノスのやり方ってなんだろう?】
今季のマリノスはどんなことをやっているのか?
昨季と何が違うのか?
これについて深掘りして考えてみます。
~①誤解~
開幕前のキャンプが始まったころ、マリサポに激震が走りました。
「えっ!今年3バックやるの!?」
「しかも3-3-1-3って何!?」
「なんか陣形を整えて守っているらしいぞ」
キクマリやLINE LIVEで少しだけ見られる練習試合の映像を確認すると、たしかに3バックぽい配置で、何やら面白そうなことをやっているな、という感想を持ちました。
もう一つ示唆的なニュースがありました。それは、akiraさん(@akiras21_)とClubhouseでやっている #Footrico 番外編で扱ったボスのインタビューに書かれていた内容。
https://sport.optus.com.au/articles/os20960/ange-postecoglou-feature-yokohama-jleague
"For me this year it is about being a little bit smarter in how we press, understanding there may be times in a game it might work in our favour to let teams have the ball, draw them out rather than be super aggressive with what we do."
「今年(2021シーズン)に関しては、プレスのかけ方をもう少しスマートにやるつもりだ。試合の中で相手チームにボールを持たせたほうが自分たちにとって都合の良いときもあることは理解しているし、マリノスがやるものすごくアグレッシブなプレスのかけ方よりもむしろ相手を引きずり出すほうが良いこともある。」
この記事は、リバプールがコロナ禍のプレミアリーグで不振にあえいでいる理由についてのボスの見解に端を発し、リバプールと同じようなサッカーを志向するマリノスが味わった2020シーズンの難しさや2021シーズンの展望について語られているインタビューです。
平たく言うと、ボスがこの記事のなかで語っている今季の方針は大きく分けて3つありました。
▼後ろの選手(DFライン)はなるべくローテーションしない
▼過密日程下ではマリノスやリバプールのように高いインテンシティを保ってプレーするチームは不利である
▼だからと言って自分たちのスタイルを変えることはしない
例えばDF陣に関しては露骨に変えずにここまでやってきています。チアゴは開幕から全試合に出場し、畠中もルヴァン仙台戦を欠場しただけ。このインタビューでボスが言ったとおり、後ろの選手を継続的に起用する方針でスカッドを運用していることは明白です。
さて、これを読んだときに私の中で今季のマリノスが志向するサッカーとして、以下のような結論に至りました。
「あくまで攻撃的で試合をコントロールすることがベースにあってスマートにやる。それって昨季の川崎がやっていたような、しっかりとしたポゼッションをベースに敵陣に相手を押し込み、全体的な試合のテンポを落とし、プレーエリアを敵陣に狭めることで自分たちの負荷を下げるスタイルでやるのではないか。」
要するに、2019シーズン後半から続くハイインテンシティ全開のイケイケどんどんサッカーの封印、これがテーマなのではないかと考えたわけです。
しかし、どうやらこれは誤解だったようです。
~②実情~
シーズンが始まって試合を見ていると、上記にこだわっていないことは明らかでした。
むしろ試合によってやり方を大きく変えているように見えました。
例えば広島戦の前半の先制を許す前の時間はしっかりとしたポゼッションで相手を押し込むことを主眼に置いていましたが、浦和戦の前半は全く違いました。相手にボールを持たせて強烈なハイプレスをかけ、ショートカウンターで一気に攻めきってしまうやり方です。翻って、徳島戦はもう少し組織されたプレッシングをかけていたり。
多少のディテールの部分では「相手を見る」ことを今までもやってきてはいたのでしょうが、ここまで大幅に相手に合わせた戦い方というのはしてこなかったはずです。例えばマリノスが相手にボールを持たせるなんて昨季までならとても考えられません。
このように、過去のアンジェ・マリノスとは一線を画したアプローチで試合に臨んでいるのです。
~③理由~
ここで一つ疑問が生じます。
じゃあキャンプでやっていた3バックやセット守備はなんだったの?
貴重なキャンプの期間を無駄にするわけがないので、何か必ず意図があるはずです。
これに対する私なりの答えは、「引き出しを増やすこと」です。
相手を見てそれに合わせたやり方をするならば、チームの引き出しを増やしておく必要があります。相手によっては3バックが有効になるでしょうし、ただボールを奪いにいくのではなく相手を引き込んで囲んでボールを奪うことが必要になります。
それに対応するためにチームとしてできることを増やしておかなければなりません。そのための3バックであり、セット守備なのだと考えます。
なので、今後の試合で3バックを採用するタイミングはあるんじゃないでしょうか。
~④役割~
では、相手によって変える戦術は一体どのように選手に落とし込まれているのでしょうか?
※ここからは完全に私の推測ですので悪しからず。
チームには大きく分けて4つの役割を担う人物がいるとします。
ざっくりこんな感じの指揮系統なんじゃないかと。
めちゃくちゃ憶測ベースですが。
では、この組織図に従って、どのような試合準備をしているかを考えてみます。
⑴アナリストが次節対戦相手の分析をする
⑵監督・コーチ陣・アナリストがMTG→方針決定
⑶ボスが全体MTGで選手に伝える
⑷練習でヘッドコーチがディテールを落とし込む
⑸選手が試合に臨む
⑹飲水タイム、ハーフタイムでの修正
では、各プレーヤーに求められることをまとめていきます。
▼ボス:MTGで方針をわかりやすく選手に伝えること、アタッキングフットボールの原則から外れないこと
▼ヘッドコーチ:選手との信頼関係構築、ボスの意図を原理レベルで咀嚼して理解していること
▼アナリスト:相手チームの傾向を緻密に分析すること(単純な戦術分析ではなく、相手監督の趣味趣向も加味。例えば「こういう相手の時は普段と違うシステムを採用する監督だ」なども含めて)
▼選手:原理原則に従って監督の意向をくみ取り、ピッチ上で臨機応変に考えてプレーすること
それぞれもう少し嚙み砕いて述べていきます。
▼ボス……
チームの求心力を保つことは簡単なことではありませんが非常に重要なことです。しかし「相手によってやり方を変える」のは、それを維持するのが非常に難しいんですよね。例えば毎試合同じやり方をしていれば、「これだ」とチーム全員が同じ方向を向くことができます。しかし、そこに振れ幅があっては求心力は落ちてしまいますよね。マリノスにおいて、それは致命傷です。あの強度の高いプレッシングは、迷いがあっては絶対に実現できません。全員が同じ考えを共有してチームにコミットしている状況こそがマリノスの強み。ボスは、今やっていることが「我々の目指すアタッキングフットボールだ」とチーム全員に分からせ続ける必要があるのです。
▼ヘッドコーチ……
時にはボスが言っていることが選手に伝わらない場合があるでしょう。そうなったときには、ヘッドコーチが選手とコミュニケーションを取って相談に乗る必要があります。ボスは選手と直接コミュニケーションをとらないので、選手とのパイプ役が必要です。ボスに寄りすぎてもいけませんし、選手に寄りすぎてもいけません。最高の中間管理職であるヘッドコーチが必要です。
▼アナリスト……
「相手を見てやり方を変える」のであれば、アナリストに求められる役割はとても大きいです。なぜなら「相手を正しく見る」ことができなければ試合にすらならないからです。正確に相手の特徴をつかみ、それをボスや他のコーチ陣に分かりやすく伝える必要があります。マリノスは今季からアナリスト3人体制になっています。過密日程であることも理由の一つに挙げられますが、例年以上に重大な責任を"アナリストチーム"として負う必要があるからかもしれません。「チーム」としてより洗練されたインサイトを提示するために、より大きな責務を果たすべき立場に置かれているのです。
▼選手……
次項にて詳述。
〜⑤自律〜
前項の続きにはなりますが、計画実行者としての選手が果たすべき役割は一体なんでしょうか?
それは、想定していたのと違う事態に陥ったとき、あるいは相手との兼ね合いでうまくいかなくなったときにピッチ上で修正することです。
サッカーは相手がいるスポーツですし、気候やピッチコンディション、退場者など様々な条件が絡んでくるので当初の想定通りに試合が運べることはごく稀です。しかも、相手チームの出方はスコア展開やうまくいってる or いってないによって変わってくるので、試合途中で何か変えてくる可能性があります。
要するに、当初の想定とズレてしまうことなんてザラにあるんです。
ボスは、そうしたズレを自分やコーチ陣の試合中、ハーフタイム、飲水タイムの指示によって修正しきれないことを熟知しています。
だからこそ、ピッチ上の選手たちに自ら考えて対処してもらわなければいけないのです。
"サッカー"という非常にカオスで、外から見ている者にできることは限られているスポーツの特性をよくわかっているからこそ、ボスはこのような方針を打ち出しているのだと思います。
話が少し逸れてしまいました。
ここで記しておきたい、選手に求められることは3つです。
⑴そもそもなぜこの相手に対してこの手段でやるのかを理解すること(根本的な理解がないと試合中の判断ができない)
⑵試合序盤、相手を観察してプラン通りいけそうかを判断すること
⑶プラン通りいけなさそうな場合は別のやり方を考え、チームにそれを伝播させること
与えられた指示を根本的に理解すること、そして相手を観察し、考え、それをピッチ内に伝えること、これらが求められているのです。
では、これを身につけ、実現させる方法はどんなものがあるでしょうか?
以下の2つが挙げられます。
❶ピッチ上のリーダーに委ねる
❷試合をこなしつつ様々な類型を身につける
❶は、選手を束ねる強烈なリーダーシップを持った選手が旗を振ってピッチ内の"監督"となることで対処する方法です。いわゆる闘将やチームを左右する絶対的な存在がいるチームはこの形になりやすいのかなと。
例えば中村俊輔がいた頃のマリノスはこの部類に入ると思います。
❷は、試合をこなすなかで「こういうやり方をしてくる相手に対してはこの戦術で対応する」といった類型を、全員で会得していく方法です。絶対的なリーダーは必要なく、試合→振り返りのサイクルをこなすなかで、「あの時こうすればよかったね」という毎回の反省を次に活かしながら類型を徐々に洗練させていきます。
わかりやすい事例で言うと「浦和のように後ろから繋いでくる、かつビルドアップが発展途上であるチームを相手にしたときには、前から強烈なプレスをかけよう」といったところですかね。
それぞれのメリデメをまとめます。
2つの方法論を挙げましたが、どっちが良い悪いはなく、これはチームのカラーや文化、雰囲気が滲み出る部分です。
また、どちらかに振り切れるわけでもなく、よりその要素が色濃く出るかどうかといった濃淡の差が出るにすぎません。
これをマリノスに当てはめて考えると、❷の方法が合っていると考えます。たしかに喜田拓也という心強いリーダーを擁してはいますが、彼はチームを全部自分で動かすわけでもないですし、それをしたがるタイプでもありません。
圧倒的な上下関係がなく、みんなで一緒にあらゆる試合を経験しながら徐々に勘所を掴んで共通理解(類型)を作っていくのがマリノスっぽいなと個人的には考えます。
〜⑥展望〜
直近とりわけ4月の展望を簡単に書きます。
上述したとおり、今はまだ様々な相手と様々な試合をすることで類型を身につけている段階です。
試合によってはうまくハマらない場合が考えられます。トライアンドエラーの繰り返しですね。
なので、このまま連勝が続いていくとは正直考えられません。
決して順風満帆ではない、試行錯誤を繰り返しながらなんとか勝ち点を拾っていく序盤戦になると思われます。非常に険しい茨の道が続きます。
そのなかでも、現段階で「こういう相手にどうやって戦うんだろう?」という懸案事項はあるので、次項にてそれを少し具体的に述べておきます。
【現時点の課題】
3連勝のうち、浦和、徳島には共通点がありました。それは、ボール保持を基調とし、クローズドな展開を好むチームであるということ。
後ろからしっかり繋いでくるので、マリノスは組織的かつ強度の高いプレッシングをかけることで行ったり来たりするトランジションゲームに持ち込めば勝機がぐんと上がりました。
マリノスは、基本的にこの土俵に持ち込むことができれば負けません。要するに、マリノスの得意な試合展開に持ち込んで勝つことができたわけです。
その一方で、露骨に苦戦を強いられたのが福岡や広島、仙台といった相手でした。
ここに共通するのは、マリノスがボールを持たされる相手だということ。
自陣で持たされたところからプレスをかけられるとまだまだ拙さを露呈し、敵陣にうまく押し込むことができません。
ただし、今季は意固地になって繋ぐのではなく、コンパクトなプレスをかけられた場合は相手DFラインの裏に長いボールを送ることを積極的にやっています。よって、昨季のうまくいかなかった試合のように嫌な奪われ方をして致命的なカウンターを受けるシーンは少なくなっています。
リスク回避を主眼に置いた理にかなった対処法、こういうところにも「マリノス変わったな」ポイントは散りばめられていたりするんですよね。
しかし、それもやがて封じられてしまうので、やはりビルドアップのところには目を背けてはいけないのです。
持たされたときにどうやって敵陣にボールを運ぶのか。
4月はここに注目して見ていきたいです。
【まとめ・考察】
というわけで、大変長々と今月感じたことと来月の展望を書いてみました。
およそ7000字の文量を読破されたあなた、相当な読書好きとして認定します。笑
1試合ごとの結果に一喜一憂するのはすごく自然なことですし、サッカーファンたるものそうあるべきだと思います。
しかし、せっかく同じチームを長いこと追いかけているのであれば、1試合だけに意味を見出すのはもったいないと私は考えます。
点と点が繋って線になる。
その視点で見てこそ気づけることはあります。そういったものを気づかせるコンテンツを今年は作っていく所存です。
今回は新しいシーズンの開幕とそれに伴ってマリノスの新しいやり方が気になったので、今月の振り返りよりも「今季のマリノスはなんたるか」という壮大なテーマがメインになってしまいました。
次回からはもう少しライトに読みやすい分量になるかと思いますのでご勘弁を。
王座奪還に向けて帆を進める進撃のトリコロール、その航海はまだ始まったばかりなのです。
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