2020J1第6節 横浜F・マリノスvs横浜FC@日産ス
13年ぶりのリーグ戦の横浜ダービー。こうした状況だったので正直ダービーらしい緊迫感というものはスタジアムにいてもあまり感じませんでした。
兎にも角にもこの試合に勝てたことが今のチーム状況を考えるとすごく意味のあることです。前節はチームが自信を失い敗戦の仕方であるように見えたので、その次の試合で4発快勝というのは何よりも特効薬になるのではないでしょうか。
ただ、試合展開を俯瞰してみると横浜FCはなかなかやりおるなと。
特に立ち上がりの20分、マリノスはまともにボールを前進させることができませんでしたね。じゃあなぜ苦戦を強いられたのかってところはまとめておく必要があるでしょう。
さらにもう一つこの試合の重大なトピックは、なんと言っても仙頭啓矢のスタメン抜擢に伴うシステム変更です。これ、もちろん課題があったとは思いますが(主に守備面で)、個人的に攻撃面でかなり効果を発揮していたように見えたので、その理由などを含めて言語化します。
よって構成は以下の通りです。
⑴立ち上がり20分に苦戦を強いられた理由
⑵プレス回避の方法
⑶システム変更の利点
では、始めます。
【Starting Lineup】
■横浜F・マリノス
◇システムを4-1-2-3に変更
◇仙頭啓矢が初スタメン
◇前節から4人変更(小池、伊藤、仙頭、遠藤)
■横浜FC
◇システムは3-4-1-2
◇前節から2人変更(マギーニョ、手塚)
【立ち上がり20分に苦戦を強いられた理由】
立ち上がりの20分間、マリノスは横浜FCの激しいプレスに遭い、なかなかボールを敵陣に運べませんでした。
なぜこのような事態に陥ったのか。
それは、横浜FCがマリノスに負けず劣らずの超攻撃的なプレッシングを行なっていたからに他なりません。
いわゆるオールコートマンツーでのプレッシングです。
フィールド全体で1on1の状況を作り出し、パスコースを完全に遮断するというもの。
通常、守備では後方で最低でも必ず1人は余らせるのがセオリーです。相手のFWが2人いたら3人、FWが3人だったら4人といった感じです。
しかし横浜FCの下平監督はそのセオリーを曲げてでも攻撃的なプレッシングを敢行することでマリノスのビルドアップを破壊しに来ました。
結果的にこのプレッシングは成功したと言って良いのではないでしょうか。本来なら立ち上がりからガンガン攻め立てることが狙いだったはずのマリノスが劣勢を強いられたのですから。
【プレス回避の方法】
では、前述のプレッシングをどのように回避したのか、どのようにイニシアチブを奪還したのかについてです。
マリノスの強みはいくつか挙げられますが、私は”修正力”だと思っています。
要するに、立ち上がりに相手の出方にあたふたすることはあっても前半のうちにはしっかりと対応して主導権を奪い返すことができる点です。
この試合でも修正力の高さを発揮していたのではないでしょうか。
※再掲
前述した横浜FCのプレッシングには瑕(きず)がありました(どちらかというと"欠陥"ではなく、"特徴"の意味合いが強い)。
というのも、GK梶川にはプレスをかけてこなかったんです。
大前提として、完全なるオールコートマンツーマンというのは実現不可能です。なぜなら自チームのGKをプレッシングに参加させることはできないので。よって、フィールドプレイヤー全員にマークをつけたとしても、相手のGKは必ず余ってしまいます。
GKがボールを持っているときにプレスをかけるか否かは一つ大きな選択となります。
結果的に横浜FCは、GK梶川にはプレスをかけない選択を取りました。それ自体は悪いことではありません。
ところが、梶川のキック精度の高さが横浜FCの思惑を打ち砕くことになりました。
これはACL初戦の全北戦を見ていて感じたことですが、梶川は中距離のライナー性のパス精度が非常に高いです。この試合でも自身の長所を遺憾無く発揮していました。
この試合において、味方へのパスコースを全て封じられた梶川は最前線のエジガルに目がけてライナー性のパスを蹴るシーンが非常に多かったです。
エジガルが収められればその瞬間に相手DFと同数での速攻に移れますし、万が一収めきれなかったとしてもマルコスや仙頭らがセカンドボールを回収して攻めに転じていました。
こうして徐々に主導権を奪い返すことに成功していたのです。
加えてこれは現地で発見したことですが、梶川がボールを持った際に仲川や喜田から「エジ!エジ!」という指示が飛んでいました。おそらくチーム内で共有されたやり方だったのでしょうね。
【システム変更の利点】
これまでの試合で採用していた4-2-1-3からアンカーを置く4-1-2-3に変更されました。
この変更によってどういう利点があったのかを述べます。
ここで挙げるもの以外にもたくさんの利点があったかと思いますが、それは他の書き手が書いてくれているでしょうから、そちらをご参照ください。
これぞまさしく#トリコロール集合知 です。笑
私は前半17分のシーンを取り上げたいなと。
これは昨今の”マリノス対策”に対するアンサーにもなりうるものです。
ピッチ中央でボールを受けたマルコスから大外に開いた仙頭にパスが出て、仲川へのスルーパスが開通した場面です。
ポイントは仙頭と仲川の動き。
この2人のレーン交換によって、時間とスペースが与えられた状況で仙頭がボールを受けることができました。
なぜこれが効果的だったか。
そもそも最近の試合では、ビルドアップ時にウイングが大外レーンにいることが当たり前のようになってしまっていて、相手の狩りどころにされていました。
4-2-1-3の構造上ウイングが大外レーンで孤立している状況がこれに拍車をかけています。仲川がイマイチ輝けなかった理由の一つです。
しかし、IHを2人置いたことでウイングに近い位置でプレーする選手が増えました。これにより、別の新しい引き出しを生むことになります。
それがこの前半17分のシーンです。
仲川が対峙するマーカーを引き連れてハーフスペースに、その結果大外レーンに広大なスペースができ、そこを起点にして攻撃を組み立てることができたというわけです。
”マリノス対策”の一環で中央を封鎖してくる相手に対してこのレーン交換の手法は非常に有効だと思うので、今後も練度と回数を高めて欲しいところです。
【まとめ・考察】
プレス回避の方法について補足をさせてください。
私はこの試合を見ていて、開幕ガンバ戦の前半に想いを馳せていました。あの試合、マリノスは短くつなぐことに固執した結果、自陣でボールを奪われ、失点を喫しました。
しかしこの試合では視野を広く持ち、遠くの味方にパスをつけることもするようになりました。ビルドアップにおけるボールの動かし方の引き出しがあの時から増えているのです。
こうした引き出しを少しずつ増やしていくことが、あの手この手でやってくる”マリノス対策”を上回ることにつながるので、今後も様々な局面で新しいマリノスの姿が見れると良いなと思います。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?