【6連勝の要因】Monthly Review 2021 Vol.4【暫定体制の変容】
絶好調である。
監督が変わっても強さをキープするマリノス。進撃のトリコロール。
およそ2か月ぶりに書くマンスリーレビューになるが、この間に大きな出来事があった。
そう、アンジェポステコグルーの退任と松永英機アカデミーダイレクターの暫定監督就任である。
そのショックも相まって天皇杯・ルヴァンカップという2つのコンペティションは終わりを告げることになったが、リーグ戦では破竹の勢いで暫定体制下でも4連勝と意気揚々。監督が変わろうが関係なく、いまのマリノスは強いのだ。
今回のマンスリーレビューでは、なぜマリノスは勝てているのか、その強さの秘訣と暫定体制下で変化したポイントについてまとめていきたい。
それでは、初夏の戦いを振り返っていこう。
【対象試合】
▼試合数:4試合
▼成績:4勝 7得点1失点
⑴
vs鳥栖(Home) 2-0(Win)
⑵
vs徳島(Away) 1-0(Win)
⑶
vs柏(Away) 2-1(Win)
⑷
vs福岡 2-0(Win)
【暫定体制で変化したポイント】
監督が変わればサッカーが変わる。
松永暫定監督は就任時に、アンジェが創り上げてきたサッカーの継続を謳ったが、やはりその言葉を額面通りに受け取るべきではなかった。
鳥栖戦以降、基本的なベースは変わらないのだが、指導のアプローチに変化が見られた。それについて述べていきたい。
ざっくり言うと、「役割の明確化」である。
誰がどの役割を担うのか、それを選手それぞれに明確に割り振っているのがいまのマリノスである。
盤面で表すと上図のような形。これをもっと簡略化すると下図のようになる。
こうして一人ひとりの役割を明確化すれば、選手は一つひとつのプレーの判断がクリアになり、迷いなくプレーすることができる。マリノスの持ち味である圧倒的な縦へのスピード感も出やすい。
これにより、各所に変化が起きている。
~①ポジショニングの変化~
最たる例はチアゴである。
彼がボールを受ける位置が、アンジェ在任時と比べて明らかに大外に寄っている。これにより、大外に張り出すことで、比較的相手のプレッシャーが弱い位置でチアゴが時間とスペースを与えられた状態でボールを持つことが可能となる。
そこから先は彼自身の成長なのだが、スペースが与えられれば持ち運ぶドリブルを行ない、機を見て鋭い楔のパスを通すことができるようになった。
来日当初より格段に成長した彼のビルドアップの能力と、この配置がうまくかみ合っていることから、現在のマリノスの右サイドのビルドアップは非常にスムーズになっている。
~②起用される選手の変化~
監督交代後、明らかに序列を高めた選手が4人いる。
小池、和田、岩田、扇原である。
このボランチとサイドバックの序列の変化は、やっているサッカーの内容の変化によるところが大きいとみられる。
前述した出し手としての役割を果たすのに、扇原以上の適任はこのチームにいないだろう。長短のパスを高精度に繰り出せる彼こそ、出し手としてボランチの一角を担うのにふさわしい。
あとの3人、小池・和田・岩田の強みは、走力やライン間に顔を出して受ける動き、前線への飛び出しなど、遊撃部隊としての素質である。
ポスト役のオナイウ・マルコスにボールがわたった瞬間、彼らは素早くサポートに向かい、攻撃に厚みを持たせる。特に岩田と小池に関しては、そのまま相手DFラインの裏に飛び出して決定機まで演出する。
彼らの豊富な運動量と確かなパスワークの技術によって、いまのマリノスの攻撃は支えられている部分が大きいのだ。
上記のような攻撃を繰り出されたとき、対戦相手はどのようなジレンマに陥るのか。
まず大前提としてマリノスを相手にラインを高く設定できない、という問題がある。なぜか。最前線に前田大然、エウベルなどリーグ屈指のスピードを持った選手がいるため、一発のロングボールで裏を取られて簡単に失点をしてしまうことが予想されるからだ。
だからこそ、並みのチームには強気のライン設定はできない。
では、DFラインだけを下げるとどうなるだろうか?
オナイウ、マルコスに入った楔のパスに勢いよく群がる小池・岩田・和田にスペースを与えることになる。しっかり人数をかけて攻撃をするマリノスを相手に、中盤のスペースを与え、前を向かせるなど言語道断である。
そうなると、DFラインを下げつつ中盤のスペースを消すしかない。つまり、全体の重心が大きく後ろに下がってしまうのだ。そうなれば、ボールを奪ってもゴールまでの距離が遠く、前線でカウンターの起点となる選手の数も少ない。挙句の果てにマリノスの強烈なプレッシングで即時奪回をされてしまう。
対戦相手からすると、スペースを消していれば大量点を取られることはないが、代わりに自分たちもゴールを奪うことが難しくなる。
今季、マリノスの失点が少なく、尚且つロースコアのゲームが多いのは、これが原因である。
【なぜ勝てているのか】
なぜいま勝てているのか?
もちろん単一ではない理由がいくつかあるのだが、ここでは一つ、盤石に勝てる強さを挙げておきたい。
今季、よく見る構図がある。それは、基本的にマリノスがボールを保持し、敵陣に相手を押し込んだ状態で相手にシュートすら打たせない試合が展開される、というもの。
結果的に相手チームのシュート数が極端に少なく、5本以下に終わることもざらにある。
ただし、マリノスの出来も完璧かというとそうではなかったりする。終始相手のゴールを脅かし続け、4点や5点を取るほどではない。どちらかというと、1点差か2点差でゲームが推移し、もし事故が起きれば勝ち点を失ってしまうリスクもはらんでいるような試合が多い。
特に、引いた相手に対してどう振る舞うか?どう崩すか?という点においてはもやもやさせられる試合は少なからずある。そうした課題は課題として、このチームがもっと強くなる伸びしろであると捉えたい。
むしろ、毎試合トップコンディション、最高のモチベーションを保ち続けることは不可能であるという前提のもと、このように悪い時も悪いなりに盤石に3ptsを積めること、それこそがリーグ戦で勝ち続けるうえでは大切なことである。
【今後の懸念点】
アンジェが遺したものをこのチームの文化にできるかどうか、それが今後の懸念である。
先述した通り、松永英機&ジョンハッチンソン体制では、選手に明確に指示を与えているように見受けられる。
選手の自主性を促し、自分たちで考えさせるために明確なことは言わない方針でアンジェがぼかし続けてきたのに対し、今はこうしろと声に出して言っている。
すると、選手としては思考の負荷が下がり、言われた通りにやれば迷いなくプレーをすることができる。いま結果が出ているのはこれが大きい。
しかし、監督が行う指示の傾向は相手も分析しやすい。マリノスに対する分析も進むだろう。そうなったときに、相手を見て自分たちで考えて対応する、というアンジェが落とし込んできた哲学をいかに体現できるかがカギとなる。
そこで対応できなければマリノスは負ける。監督に言われたままにできないから負けました、そんな思考停止の状態に陥ることが目下の懸念点だ。
試合前の決め事通りにいかなかったとき、相手が自分たちの弱点を突いてきたとき、そんな試練はそう遠くない未来に必ずやってくる。そのときにマリノスの選手たちはどのように振る舞うのか。
時には監督の意向に背いてでも勝つために必要なことをやれるのか。
そうした自主性を獲得できているかどうかがこのチームの今後の浮沈を左右する。
写真提供:ゆかさん
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