2019J1第33節 川崎vs横浜M@等々力
最近ふと考えることがある。
もしもマリノスが優勝を勝ち取ったとき、
自分は何を思うのだろうか。
その時の感情とはどのようなものなのか。
15年前に経験してはいるが、その時の感情の機微までは覚えていない。
ただ、ひとつだけ願望がある。
それは、15年ぶりの快挙を”心の底から死ぬほど喜びたい”ということだ。
心の底から死ぬほど喜ぶためには、心残りがあってはならない。「優勝した!でもなぁ。。」と心に引っかかるものがあっては素直に喜べないかもしれないからだ。
それだけではない。
今季マリノスが優勝するとして、”1位”という単なる数字以上の意味をクラブ、サポーター、ひいては日本サッカーにもたらすためには、王者・川崎フロンターレを倒さなければならない。
ここ2年、卓越したテクニックと華麗なパスワーク、そして堅固な守備でJリーグにおいて圧倒的な地位を築いてきた彼らを倒してこそ、我らは強さを証明できる。
というわけでスタメンはこちら。
マリノスは前節から変更なし。お馴染みの顔ぶれである。
一方の川崎は、最後に戦った公式戦は11/5の浦和戦にまで遡り、この試合まで3週間空きがあった状態。ここ数試合ゴールを守っていた新井章太が欠場し、代わりにチョン・ソンリョンがスタメンに。
【川崎のプレス(序盤)】
ハイプレスかリトリートか。川崎がどのように守ってくるかは、この試合最大のポイントだった。(まさか川崎相手にボール保持前提で考える日が来るとは…笑)
蓋を開けてみると、立ち上がりからマリノスのDFラインに激しくプレッシングを行なってきた。
ポイントは、家長の立ち位置である。
SHを務める家長は、本来なら対面の左SBティーラトンを見るような形になるはずなのだが、そうはせず、CB畠中に付いてきた。
一方、反対サイドのSHを務める阿部は、そのまま右SB松原に付く形に。
トップ下とボランチの3人は、マリノスの中盤の喜田、扇原、マルコスを見る。その際、特定のマーカーを決めるのではなく、目の前にきた選手に付く約束事が見て取れた。おそらく、ビルドアップの局面でかなり流動的に動くマリノスへの対策としてのものだったのだろう。マリノスのSBが内に絞ってボールを受けた際にも、特定のマーカーを決めずに守っている方が対応しやすいからだ。
【剥がす横浜】
前からボールを奪いにきた川崎に対し、的確にその穴を見つけてボールを運ぶマリノス。
前述したとおり、家長が畠中のところまで出てプレスをかけてきた関係で、ティーラトンが浮いた状態になっていた。そこでティーラトンは、いつものように内に絞るのではなく、外に開いた立ち位置を取ることでフリーな状態でボールを受けようとした。
立ち上がりのビルドアップの狙いは、大外に開いたティーラトンのところにいかにボールを届けるか、にあった。その手段としては、GK朴からのフィードや素早いパス交換で川崎のプレスを剥がす、といったものだった。
象徴的なのが、先制点の場面。
右サイドで松原がボールを持った状況から、松原→畠中→扇原→ティーラトンとダイレクトでボールが繋がり、そこからマテウスへのスルーパスからゴールに至った。
この場面で大きかったのは、最初の松原のパスにあったと個人的には思う。松原が近くにいたチアゴや喜田ではなく、一つ飛ばして畠中にパスをつけたことで、川崎のプレス隊の目線を変え、アプローチに遅れを生じさせたのだ。
相手の陣形や守備の穴をひとりひとりが観察し、立ち位置とパスを出す相手に創意工夫を施したことによって生まれた先制点であったことは間違いない。
【川崎の反撃】
前半も20分が経過した頃から、徐々に川崎がマリノスのプレースピードに慣れ、王者の強さを見せつけるような展開になる。ここでは、守備面と攻撃面に分けて、なぜ前半押し込まれたのかを紐解いていきたい。
①守備
大外でティーラトンが浮く状況を改善しつつ、ハイプレスを継続するような形に。
序盤はマリノスのボランチを捕まえていた脇坂が1列前に上がってCBに付き、家長はティーラトンに付いた。
システム表記するならば4-4-2といったところ。マーカーをはっきりさせ、序盤よりもマンツーマンの色合いが濃いものになった。
結論を言えば、マリノスはこのプレッシングに苦戦した。
なかなか球出しがうまく行かず、自陣から出ていくことができない時間帯が続いた。噛み合わせ上はトップ下のマルコスが浮く形となるのだが、マルコスにうまくボールを届けることができなかった。
②攻撃
立ち上がりこそマリノスのハイプレスの前にボールを安定して保持することができなかった川崎だったが、徐々にいつものペースでボールを保持するようになる。マリノスは執拗にボールホルダーに食いつき、奪おうとするが、百戦錬磨のポゼッション、パスワークを前にプレッシングは空転。このあたりの外し方は「さすが川崎」である。今季ここまでボールが奪えないチームがあっただろうか。
守備時に横幅をコンパクトにするためボールサイドに全体が寄る傾向が強いマリノスに対し、川崎は、片サイドに寄せてからサイドチェンジをしてそこからクロス、というアプローチでゴールに迫ってきた。
あるいは、マリノスのボランチをサイドに釣り出し、バイタルエリアを空けさせたところからミドルシュートを狙う形など。両サイド、そして中央をうまく使い分けて仕掛けてくる攻撃に、いくつか決定機を作られたが、マリノス守備陣は水際でなんとか凌いだ。
【逆襲、そして強襲の後半】
押し込まれ、うまく行かない状態で前半を終え、迎えた後半。
相変わらずボールを奪うことは困難であったが、奪ってからの攻め方に変化が見られた。丁寧にパスをつなぐのではなく、速攻を主体とした攻撃に切り替えたのだ。
奪ったら前線のエリキに長めのボールを付け、そこから一気にロングカウンターを仕掛ける。2点目はまさにこの形で得たスローインに端を発して生まれている。
この場面は、チームの狙いであるライン間のスペースを完璧に攻略したものだった。伏線というべきか、前半6分にも松原はライン間でフリーでボールを受けてエリキへスルーパスを出しており、このエリアでボールを受けられること、そしてそれが有効な一手であることは織り込み済みだったようだ。
また、プレスの圧力を弱めないマリノスに対し、徐々に疲労の色が出始めた川崎は、プレーの質が明らかに落ちてきていた。その結果、高い位置でボールを奪える場面が多くなり、よりマリノスのショートカウンターが刺さる展開に。3点目と4点目のシーンはまさに高い位置でボールを奪ったところから生まれている。
前半の反省を受け、それをうまく修正することができていたのだろう。
【考察・いまのマリノスの強さとは・・・】
王者・川崎を相手に4-1での快勝。内容でも互角以上に渡り合うことができた。
”強いチーム”になったと言っても良いのではないだろうか。
では、いまのマリノスの強さとは何か。
それは、自分たちが狙う形があり、しかもその形に沿って点が取れていることにある。
1点目は川崎のプレスを綺麗に剥がしたところから質的優位が確保できていたマテウスの突破力を活かし、さらには今季ずっと取り組んできた低弾道の高速クロスからのゴール。
2点目は前半の反省を受けて速攻に切り替えたことが功を奏し、さらには”偽SB”の使い方としてお手本のようなライン間スペースの攻略。
3点目は高い位置でボールを奪ったところから仲川のチャンネルラン、そしてまたしても低弾道の高速クロスからのゴール。
4点目はこの試合の序盤から最終盤まで愚直に続けてきたエリキのフォアチェックによってボールを奪ってからのゴール。
偶然など微塵もなく、全てが必然的に生まれているゴールで、実に論理的である。
特にチームとしての成長を感じるのは、ポゼッションに固執するのではなく、それでいて自分たちの攻撃的なスタイルを貫き通している点だ。
この試合のように相手の強さによって「ボールを支配する」ことができなくても、鋭利なカウンターによって多くのチャンスを作り出し、「ゲームを支配する」ことに成功した。
強さの秘訣はここにあるのだろう。
かくして優勝に大きく近づいたマリノス。
あとひとつ。
”心の底から死ぬほど喜ぶ”ために。
東京に勝たなければならないのだ。
11/30(土)14:00 J1第33節 川崎1-4横浜