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松田直樹は永遠に…

「俺マジでサッカー好きなんすよ。マジでもっとサッカーやりたいっす。ほんとサッカーって最高だし、まだサッカー知らない人もいると思うけど、俺みたいな存在っていうのも、アピールしたいし。ほんと、サッカーって最高なとこを見せたいので、これからも続けさせてください。」


10年以上経っても、一言一句鮮明に頭の中にあるこの言葉。

10年以上経っても、未だにある時ふと彼の声で脳内再生されるこの言葉。

彼は僕の心の中でずっと生き続けている。これは嘘のようだが本当の話だ。


2010年12月4日、僕はいつも通りに日産スタジアムに向かった。しかし、スタジアムの雰囲気はまったくいつも通りではなかった。

スタジアムですれ違うみんなに笑顔がない。どこか悲壮感が漂っていた。

僕の心情も同じようにどんよりしていたからそう感じられたのだろうが、
たしかにあの日の日産スタジアムは楽しくなかった。

ゴール裏にはトリコロールに彩られたいつものダンマクはない。

代わりに掲げられていたのは、この日をもってお別れをする選手たちへ向けたメッセージ。


僕はあの日、サッカーを観にスタジアムへ行ったわけではなかった。

人よりも記憶力ある方だが、あの試合の記憶は何も残っていない。対戦相手とスコアくらいは覚えているが、どんなプレーがあったのか、どうやってゴールが入ったかは覚えていない。

ただ、自分が初めてスタジアムで大粒の涙を流したことだけを覚えている。

大切な人との別れがどんなに辛いものかということを、中学生ながら生まれて初めて味わったのだ。
以後、人との別れには人一倍過敏な人間になった。
学校やバイトを卒業するとき、大切な人が亡くなったとき、そんなときは決まって人目もはばからず泣くようになった。

それもこれも、彼との離別を惜しんだことが最初だった。


2002年からマリノスを応援してきた僕にとって彼は、マリノスにいて当たり前の存在だった。いつも自分を熱くさせる行動をピッチで見せてくれる。
しかし、どんなプレーヤーかはあまり覚えていない。

だから、これからマリノスを好きになる人に彼がどんなプレーヤーかを理路整然と説明することができない。

僕の記憶に残っているのは、彼のゴールシーンの数々、そして誰よりもかっこいい雄叫び、あとは浦和のエメルソンをファールギリギリのショルダーチャージで吹っ飛ばした、とかそういういくつかの曲芸的なプレーの数々。

その一方で、彼がどんなプレーヤーで、どんな強みと弱みがあるのか、スピードはあるのか、といった、今の僕なら欠かさずに把握するような情報が抜け落ちている。

彼がどんなプレーヤーかを人にうまく教えることができないのはそれが理由だ。

そんな情報を今さら把握する必要がないほどマリノスにいるのが当たり前だと当時の僕は思っていた。


だからこそ、彼がマリノスからいなくなるとわかったときは言葉に言い表せないほどの絶望感に似た感情を覚えた。

根本から何かが崩れ落ちるような感触、平静を装いきれないほどの悲しみ。

その結果、史上最も楽しくない日産スタジアムに至った。


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あれから10年、

こうして振り返ってみると、彼は僕に人間臭さを与えてくれているのだとわかる。

人との別れの辛さを教えてくれるのも、

大好きなものにまっすぐ向き合うことも、

純粋にサッカーを好きで居続けられていることも、


全部彼が自らの人生でもって僕に与えてくれているものだ。


いつもその背中で僕を導いてくれてありがとう、マツ。

プロサッカー選手なんだからたまにはボールの蹴り方とか教えてよ。



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