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2019J1第23節 横浜MvsC大阪@日産ス


スタメンこちら。

ホームのマリノスは、前節鹿島に敗れ、今季初の連敗を喫した。ミッドウィークには天皇杯の横浜FC戦を戦っている。
その試合でアクシデントが発生。守護神・朴一圭の負傷である。先月は攻撃の要・エジガルを、今月は守備の要を失う、という非常に厳しいチーム状況だ。
また、天皇杯の翌日には三好康児の海外移籍が発表され、巣立っていった。

しかし、悪いニュースばかりでもない。

今週に入って名古屋からマテウスを獲得しただけでなく、今節からエリキも起用可能だ。この2人のブラジリアンが今季のマリノスの後半戦の命運を握ることは間違いない。

今節は、エリキ、マテウス、東京ヴェルディから新加入の渡辺皓太、朴一圭の代役として杉本大地がスタメンに名を連ねる。

スタメンにマリノスでのリーグデビューを飾る選手が4名もいる状況は、さながら開幕戦のようだ。奇しくもこの時期はヨーロッパのリーグが次々と開幕を迎えているタイミングでもあり、ここまでヨーロッパスタンダードに寄せてきたのか、と笑えてしまう。


【セレッソの守備】


前述した通り、セレッソのボール非保持時は4-4-2の形になる。ロティーナ自慢の組織的な守備は、ここまでリーグ最少失点という結果に表れている。

大前提として、相手にスペースを与えない、というゾーンディフェンスの原則に立脚している。

その上で、前回対戦同様、セレッソはマリノスのビルドアップに対して制限をかけるような策を講じてきた。大まかに言うと、マリノスの2ndライン(ダブルボランチと両SBの4枚)が前を向いた状態でボールを持つことを妨げることを試みた。

まず、2トップはCBにはあまり強い圧力をかけることはせず、ダブルボランチへのパスコースを背中で消す。MFの4枚は、マリノスの2ndラインに対して強めにプレッシャーをかけることで、前進を阻害する役割を負った。

ボールを奪った後は、マリノスのSB裏のスペースを素早く狙う共通意識を明確に見てとることが出来た。セレッソの先制点はまさにこの形から生まれたものだった。

ボール非保持時の基本的な考え方、奪ってからの攻め方に関しては、ここ2戦の鹿島・清水とかなり似通っていた。


【マリノスのビルドアップ】


新たに渡辺皓太を加えたマリノスのビルドアップについて考察していきたい。前述したセレッソのミドルプレスに対し、どのようにして前進していたのか。

一つ評価できる点は、前回対戦時とシステムが変わり、その練度も向上しているため、前進がままならなかった前回よりも格段にスムーズにボールを運ぶことが出来ていた点である。

具体的には、ボランチの喜田がサイドに流れ、そこで数的優位の状況を創出したところから前進することが多かった。清水戦で採用していた手法と同じである。こうした動きは、渡辺皓太にはまだ多く見られなかったものの、そう遠くない未来に習得しているに違いない。


これに限らず、この試合では芝の状態を考慮してか、種々のプロセスを飛ばし、わりと早い段階で前線の4枚にボールを届ける場面が多いと感じた。これについては、次項にて詳しく検証したい。


【ボスの試合後コメントの意味】


”このピッチ状態によって、我々は、やろうとしていないサッカーをやらざるを得なくなっています。”

荒れに荒れたピッチ状態を嘆くボスが試合後の監督記者会見で述べた一言である。これを元手に、今節を見るなかで感じた違和感やモヤモヤについて考えてみたい。

❶ピッチコンディションが与えた影響


そもそもこのピッチコンディションがマリノスにどのような影響を与えたのか。

それは、ダイレクトパスの少なさにあると考える。ボールが弾みながら転がるため、もしもダイレクトパスを試みてミスキックをしようものなら、即座に相手のカウンターを誘発するリスクがある。それだけでなく、トラップ一つにも注意を払うため、周囲の状況の認知・判断・行動のサイクルに遅れが生じる。

よって、必然的にチーム全体のプレースピードが遅くなり、安全志向のパスが増え、いつものようなスピーディーなパスワークが鳴りを潜める形となってしまった。
(それでもテンポよくパスワークを展開するシーンがいくつかあったのは、このチームの成長と捉えて良いのではないか)


❷2人の暴れん坊ブラジリアン


この試合でマリノスデビューを飾った2人のブラジリアン・エリキとマテウスは、自らの強みを発揮して幾つものチャンスを演出した。前者はゴール前で決定的なシュートを放ち、後者は鋭いドリブルと鋭いクロスで左サイドを切り裂いた。

個の能力は非常に高く、マリノスにフィットすれば間違いなく活躍できる選手たちであることは確かだ。しかし、当然のことながらマリノスに合流して日が浅い2人は、マリノス仕様のポジショニングやプレー選択が身についていない。守備の約束事も叩き込めていないため、ピッチ上では、相手が攻めているにも関わらず、前線の3枚を前に残す(エリキ、マテウス、マルコスが前残り、仲川は戻る)、という異様な光景が展開されていた。これは、どうせ戻らせても守備はできないのだから、失点のリスクは許容した上で前への圧力をかけよう、という狙いを見て取ることができる。

それらを考慮してか、はたまたピッチコンディションを考慮してなのかはわからないが、この日のマリノスは、”普段はやらない”ファストアタックを中心にチャンスを作っていた。これは、特に後半に多く見られた攻撃のパターンである。

つまり、後ろからゆっくりと組み立てるのではなく、早い段階で両サイドの仲川、マテウスに長めのパスを放り込み、そこからスピードアップして一気に攻めきってしまおう、というものだ。特に広大なスペースが用意された状態でのマテウスの活躍は凄まじかった。対面の1vs1はほぼ必ず突破し、何度もPA内に鋭いクロスを供給した。「これがウイングの質的優位なのか!」と思わず叫んでしまうほどだ。

押し込まれた時には自陣深くにブロックを形成するセレッソに対して、その守備陣形が整う前に攻めきってしまうファストアタックはかなり有効だった。

この試合でわかったことは、マテウスにしろエリキにしろ、自由に走れる広大なスペースがあれば、かなり力を発揮することのできる選手であるということだ。幸か不幸か様々な要素が絡み合った末に至った自分たちが”やろうとしていない”サッカーは、ともするとセレッソ攻略の糸口となりうるアプローチだった。


まとめ:マリノスのサッカーとは?


では、マリノスには何が足りなかったのか。2人のブラジリアンは戦術的に何ができていなかったのか。

この試合を大まかに分けるとすると、”トライした前半”と”割り切った後半”という見方ができるだろう。前半は、いつも通り相手を押し込み、自分たちがボールを握ることによって相手を崩すことにトライしたが、うまくいかなかったため、後半は速攻に切り替えて現実路線で点を取りに行った、というストーリーがこの試合を形容する上でうまく当てはまるのではないだろうか。

実際に、戦術理解ができていないブラジリアンを擁しながら前半はどのように攻めていたのか。おそらく、前半のマリノスがやろうとしていたことが出来た時に、2人のブラジリアンは”フィットした”と言えるのだろう。



前半敵陣深くに押し込んだ場面を表した図である。

CFとマルコスの縦関係ではなく、エリキとマルコスが横並びになるような形だった。この2人は、かなり自由に動き回り、ゼロトップのような状態だった。これによって生じた不具合としては、単純に裏抜けを試みるなどしてDFラインを下げさせる役割を負うCFがいないこと、それによってセレッソに常に前向きの守備をさせてしまったところにあるだろう。

”マリノスっぽい”ことが出来ていたとすれば、ポジションのローテーションである。図の通り、右サイドでは仲川、広瀬、エリキがレーン交換をしながらパス交換をしていた。(ただし、相手を動かせていたとは言っていない(笑))
一方の左サイドでは、フリーダムな動きをするマルコスとまだポジショニングの原則が理解できていないマテウスがいることも影響し、かなりバランスの悪い構造になり、パス回しがちぐはぐだった。このあたりは、早急に解決すべき問題だろう。

まとめると、エリキとマテウスに足りないのは、遅攻の際に自らに求められるものと取るべきポジションを理解することと、周囲とのパスワーク、関係性の中で生きる術を身につけること、にある。試合を追うごとに原理原則を理解していくことに期待したい。


【考察】


斯くして、新加入選手を多く並べた結果、チームが機能不全を起こしたことは言うまでもないだろう。しかし、これは避けようのないことだったとも言える。使わなければ選手はフィットしないからだ。

相手のブロック守備に対してエリキとマテウスが機能しなかったこと。これは本人のみの課題ではない。チーム全体のものである。エリキとマテウスをなるべく早く組み込むことが出来なければ、このチームは優勝争いに絡むこともACL出場権を取ることも天皇杯を優勝することも出来ない。

いわば、マリノスに突きつけられた夏休みの宿題のようなものだ。もうすぐ夏休みは終わってしまう。時間がない。





8/17(土)19:00 J1第23節 横浜1-2C大阪

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