軽い気持ちで登山したら己との戦いに発展した
晴れた日を狙って山へ行った。普段出かけるとなると海方面へ行きがちなのだが、この日は本当になんとなく山に行った。下調べもそこそこに、到着するは高尾山。
麓からケーブルカーとリフトのどちらかの方法で登ることができるのだけど、足をぶらんぶらんさせたい欲が出て、リフトの往復券を買った。心地よい早さで運んでくれるリフト。風が気持ちよくって、春だな〜と思う。平日の午前でかなり人が少ない。
山道、様々なルートがあって、行きの山頂へのルートは比較的穏やかな道を選んだ。観光客がよく通る歩きやすいオーソドックスな道で、なんなら散歩するくらいの気持ちで歩ける。鳥居をくぐる度に心が洗われる感じがする。もちろん、薬王院でお参りもしました。健脚なお年寄りの登山客が多かったけど、私のようなおひとり様の女性も結構いた。
なんだ余裕じゃん、まあ真夏だったらキツかったかな〜くらいの感覚で、復路はせっかくだから登ってきたのとは違う道で帰ろうと思ったわけです。しかし、なかなかこれがどえらい道でした。看板には「中級者向け」ってしっかり書いてた。
話には聞いてたけど、登山、上りよりも下りの方が脚へのダメージがでかい。そして体力をすごく使う。気付いたら両脚がプルプルプルプルつって震えが止まらなくなり。こちとら電話じゃないんやぞと。バイブレーション機能搭載しちゃったんですかって。そう自分の脚に話しかけてもガクガクは止まらずむしろ激しくなる一方で、おまけにだんだん高くなってきた日は照りつけを強めてくるので、普通のおしゃれ着で来てしまったことを大変後悔しました。
この脚の震えを制御できずにうっかりよろけでもしたら確実に崖から落ちる。山頂ではでかでかと「下山する体力は残っていますか!?」「こんな場所でこの年代の人が怪我や滑落しています!!」と注意をほのめかす地図看板が出ていたのだけど、そういう事故を起こしているほとんどが50〜80歳代だったので、我は20代やし大丈夫やろなんとかなるわと舐めてかかってたんですよね。謝罪します。山の神様ごめんなさい。
高校時代に比べりゃ体力も筋力も落ちてるけど、一応エレベーターの無い学校で廊下や階段を毎日駆けずり回っていた自負はあるのでいけると思ったんだよネ…
休み休み歩いていると、聞こえてくるのが野鳥のさえずり。聞いただけでは何の鳥かは全然分からないけど、普段の生活の中では聞くことのない音がして、楽しかったです。
野生の鳥って動きが早いので写真に撮るのはすごく難しいんだけど、後にも先にもこれ以上はないくらいのベストショットが撮れて嬉しかったです。心より脚が震えてますけどね。
下山をなんとか頑張って、分岐点まで来た。疲れちゃったのでこのままリフトに乗って帰ることも考えたけど、地図を見ると、ちょっと逸れたところに滝の見えるポイントがあるらしい!滝、見たい!そして写真撮りたい!
脚に訊く。まだ行けるか?と。まあ少し休めばたぶん大丈夫。それに、この地図を見る限りそんなに遠くはなさそうだから、ちょっと寄り道するくらいの感じでいっちょ行ってみるか!
…結論から言うと、寄り道とかのレベルじゃなかったです。ここからが本当の登山、鍛錬、修行。
そうなることも露知らず、滝を目指してひたすら下ります。滝、楽しみだな〜。結局私は水辺が好きというか、惹かれるというか、求めちゃうんだな〜とか悠長に思いながら。時々自然に向けてカメラを構える。
ところが、歩けど歩けど、滝が見えてくる気配などなく、1歩ずつ進んでいる以上に時間はもっと駆け足で進んでいき、脚のガクブルも限界突破し、進むほどに悪路になってゆく。これ道合ってんのかな?
スマホのマップで現在地を確かめてみてもこの辺りは詳しい道路の表示がなく、なんなら電波も弱くて現在地の点があっちこっちふらふら千鳥足になっており、そんなんじゃ崖から落ちるぞガハハハ!と笑いかけてみたけど自分が崖から落ちたら笑い事にならないのでちょっと水を飲んで冷静になりました。
急勾配の下り道をかなり下りてきた。今ここで引き返すか、本当に滝まで行くかとても迷う。もう一度今来た道を登るのもなかなかキツい。これ以上、戻りの道がキツくなることを想像すると、今引き返すのが賢明か。
でもせっかくここまで来たんやろ!滝が見たいんやろお前は!そうやって思いつきで始めた割にいつも途中でやめるやろお前は!どうせならやり遂げてみぃ!今この山にいる人間の中でたぶん一番若いから!20代の意地を見せぇ!
ってことで、この辺で私は散歩としての登山ではなく、自分との戦いに切り替えて歩みを進めることにしました。
あとシンプルに、すれ違う登山客のみなさんが元気そうなのと、「こんにちは〜」って声掛けてくださる山の文化が好きで、知らない人同士で鼓舞し合っている感じが楽しい。それをもうちょっと味わいたかったので、どんどん歩きました。
すると。ザーッという水の音が谷底から聞こえてきたではありませんか。結構まだ遠いな〜という本音はさておき、道を誤っていなかったことに胸を撫で下ろす。
水辺が近づくと気温も下がり、汗だくになった体を冷たい空気がより冷やしていく。あれっ、寒いわこれ。別の意味で体が震え出す。生えている植物も苔っぽいものが増えてきて、水が近い!水が近いぞ!と心躍らせながらさらに深く下ります。
そうしてたどり着いた蛇滝、さっきまでいた人通りが多い寺院や山頂あたりの雰囲気とは全く違う、別世界が広がっていました。
廃墟巡り系YouTuberの動画をたまに見たり、自分でも猿島に赴いたことがある私なのですが、こういう、人の生活から離れて置き去りにされた物寂しい風格が好きなんですよね。
長い年月をかけて苔に覆われていった壁面とか。かつて新品だったものが自然の力でひび割れていったりだとか。こうなるまでに途方もない時間が流れたのだと思うと、なんとも不思議な気持ちになります。そしてまた、姿かたちを変えるのに膨大な時間をかけてゆく。
丁度いい具合の趣がキープされるように人の手が適度に入っているのはもちろん分かるし、登山客がいるわけなので完全に誰も足を踏み入れないような場所ではないことは明らかですが、それでもこの寂れた感じがちょっとした秘境であることを物語ってくれています。
そして念願の滝ですが、
シャッタースピードをいじってカメラを楽しむのは、体育祭の徒競走と滝に限りますな。楽しい〜。
なお、高尾山には別の山道にもう一つ滝や水辺を楽しめるルートがあるのですが、さすがに限界なので今回はやめておきました。
脚の震えが止まるまで休憩してから、来た道を戻る。ここまで来たら己との戦いよ。下りより上りの方が、靴底を地面に引っ掛けるエネルギーで上に向かっていけるのでラク。でもやっぱり足場が悪いのと、登山にしては軽装だったので、なかなかしんどかったです。当然だけど上りきらないと家に帰れない。
滝の音が遠くなり、上がっていくにつれて気温も上がり、かすかにケーブルカー出発のプルルルルというサイレンが聞こえてきた!この時限界突破していた私は小声で「サイレンだ…サイレンだ…」と一人でつぶやきながら必死の形相で歩いていました。怖い人や。
人通りの多い、さっきの分岐点のところまで戻ってきた。無事である。滑落して、山頂のマップに「20代の人がここで落ちました」と表示されるのは大変恥ずかしいので、そうならなくて良かったと一安心。
気づけばしっかり正午を過ぎており、目の前には食事処があったので、迷わず入った。東京を一望できるテラス席で蕎麦をいただいたのだけど、これがまぁ美味しくて美味しくて。
人目もはばからず「うめぇ…うめぇ…」とぼそぼそ言いながら3日ぶりに食事する人のように蕎麦をすする女が爆誕してしまいました。いやマジで美味しかったです。ガッツリ登山したあとのご飯、最高。贅沢してお団子もいただく。過去に食べたどのお団子よりも美味しかった。サイコ〜〜〜!!!
ということで、正直道のりは結構しんどかったんですが、それ以上に楽しい一人旅でございました。筋肉痛が二日間くらい残りましたがそれも良き思い出。また気が向いたら別の山も行ってみたいですね。
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