昨日見た夢

完全に死んでたけどな


大して金もかけていないワゴン車で
山道を登っている。酷く揺れるが、
妹たちはずいぶん前から眠っていて、
上の3人だけが揺れの不快感と
父への不信感を抱いている。

何処へゆくのだろう。

気がついたらもうこの車に乗っていた。
7人兄妹全員と運転手の父。
何も説明がないまま、もう何時間になるのか。

日が暮れ始めている。
「ねえ、」
あ、私は父をなんと呼んでいたんだっけ
「……どこに行くの」

車が止まる。
「中で待ってろ」
鍵の閉まる音。
待ってろと言ったってこんな道端でーー

……?
くるしい?
息が苦しい。よく見れば空気が濁っている
なんだ、何が起きている、
外に父がいる こっちを見ている

助けて という気持ちより先に
アイツがやった という直感が走る。

父親に殺される。

息を止める、のも時間の問題だ
座席からヘッドレストを外し
力づくで窓を割る。

苦しい。
苦しい、苦しい、殺してやる

なんで私たちをこんな目に遭わせたのか
知らないが、もとより愛情もない父親である

私が出てくるとは思っていなかったのか
狼狽えている父親に駆け寄り、
顔面にヘッドレストのシャフトを刺した。

刺した。刺した。刺した。
人はどこまでやったら死ぬのだろう。

一つ下の弟がどこからか大きな石を持ってきて
父の頭に振り下ろした。


私は7人兄妹の長女だったようだ。
眠っていた末の4人は既に命を落としていた。
一瞬で3人になってしまった……。
涙を流す暇もなく、私たちは街を求めて
山を下った。

随分長く歩いたのち、上位者の街を見つけた。
感覚で言うとエルフのような、
魔術を使えるものたちの街である。

種の余裕を示すかのような
美しい街並みの、一際大きい建物に入る。

「おや、どうしたんです?」
身なりの整った男に話しかけられる。

……上位者とはあまり関わり合いに
なりたくないが、助けを求めることにする。
父の放った毒ガスのようなものと
長時間の徒歩移動が体を蝕んでいる。

ここで休息を取らせて欲しい、と
ある程度の事情を説明して頼むと
男はにこやかに受け入れた。

「どうぞ、いくらでもご滞在ください!」

ひとまず助かったか、
と食事をいただくことにする。
やっと落ち着いて休めると思った時、
男は言う。

「最初からこっちでやれば良かったのに」

激痛。
男に殴られた?
いや、机を挟んで対面している人間に
殴られるのはおかしい。
ああ!あのよく分からない魔術ってやつか!

「お父上はご存命ですよ、良かったですね
 殺してから運ぼうとして危篤なんて
 無鉄砲な……生きてても買いますよ♪
 僕たちのほうが上手く処理できるんだから」

人身売買という言葉が頭をよぎる。
いや、殺してから、か、長命者が短命を喰うと若さを得るという迷信を思い出す。

父は最初からそのつもりだったのだ。
7人兄妹はいったい幾らになる予定だった?

酷く打撃を受けているような、
肉を細かく刻まれているような。
とにかく、痛い。
身体中をミンチにされているようだ。

目が見えない、光が入ってこない。

「_:¥--ちゃん!(おそらく私の名前)」
弟の叫び声がする。争う音。


目が覚めるとトーの国にいた。
ここもまた貴族の所有する宮殿のようだ。
どうやって逃げたかは覚えていない。

木の柱が支える天井の高い部屋、
襖が開かれて広い庭が覗いている。
洋風な上位者の国とは打って変わって
中華ファンタジーといったところか。

私たちは宮殿付きの楽師になった。
東屋を浮遊させながら宮廷中に
和製楽器のアンサンブルを響かせる。

ワゴン車と空飛ぶ東屋が両立する世界。
相変わらず訳が分からない。

3、4年経って、私たちは平和に暮らしていた。

今日はスャ国から客人が来るらしい。
主人から言伝だ。
「お前たちの望むようにしろ」

弟と、妹と、目が合った。
大丈夫。この日のために生きてきた。
髪を結う。肌を白く塗る。

スャ国の客人たちは
十分に食事と酒を楽しんだ後らしい。
酔い醒ましに、と
東屋に入ってきて談笑している。

「では」

琴の響きに合わせ、ふわりと浮き上がる。
たいそう上機嫌そうな客人たち。

飛べ。強く鳴らし、高度を上げる。

「すこし速度を落としてくれないか?」

客人の1人が言う。
父から私たちを買おうとした男。

「最後ですから、うんと美しい景色を
 ご覧に入れたいのでございます」

男は少し怪訝そうな顔をした後に、
どうやら気づいたようだ。

殺す。
高く速く飛ばし、客人を振り落とす。
男は上位者の中でも力がある方らしい。
あの魔術というものを使い落ちずにいる。
堪えきれず首を掴み、力いっぱい絞める。

おそらくは下の兄妹たちを喰ったこの男を
いちばん高い塔の真上から落とした。

ああ、御上様、感謝いたします。

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