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TesseracT / Sonder

1. Luminary
2. King
3. Orbital
4. Juno
5. Beneath My Skin
6. Mirror Imag
7. Smile
8. The Arrow

イギリス出身、元FellsilentのギタリストAcle Kahneyを中心に結成されたプログレッシブメタルコアバンドの通算4枚目のフルアルバム。Djent系ではPeriperyと並んで知名度が高く、日本盤化もされているバンドです。

ボーカルが安定しないことでも世間を賑わせる彼らですが、前作『Polaris』から復帰したオリジナルボーカリストDanielが今作も担当しており、実質2ndアルバムの『Altered State』を除けば全て彼が担当していることになります。

Meshuggah譲りのサウンドを拝借しつつも、このバンドはアトモスフェリックな空間美に特化した音作りが特徴的です。

Djentサウンドと言えば、ポリリズムやシンコペーションを駆使した複雑なリズムワーク、そして多弦ギターによる唸るような響きを打ち鳴らすことで濃密な音世界を構築していくのですが、ブルータリティーを重視するかどうかで色合いが変わってきます。

多弦ギターによる必然的な“重さ”をブルータリティーに活かすか、あるいは空間美に用いるかでベクトルが異なるというの個人的な見解です。

ブルータリティーとしてのDjentで言えば、初期のVolumesやStructures、Reflectionsといったバンドはかなりデス要素の強い、言うなればMeshuggah直系のサウンドと言えそうです。

このTesseracTは、上述した分け方をするのであれば“空間美”に特化したサウンド。

複雑なリズムワークと美しいサウンドスケープを武器に、アトモスフェリックな世界を構築する美しい音像は聴けば聴くほどハマっていきます。

今作『Sonder』では一体どんな仕掛けを用いるのかと思っていたのですが、傾向としては過去作の総括に加え、一重に追求し続けた“空間美”を極限まで高めてきたように感じました。

もはやギターが鳴らせる最も低いと思われる轟音、対比するように爪弾かれる煌びやかなサウンドスケープ。

デスコアバンドでは、同じくイギリス出身Black Tongueが“ドゥームコア”なるものを提唱し、より鈍重でスローなスタイルを打ち出しましたが、そのDjentバージョンがこの『Sonder』なのかなと。

Djentという言葉が世間に浸透し始めて以来、史上最高に低いDjentミュージック、行き着くとこまで来てしまったような恐ろしいアルバムで10年代を締めくくるTesseracT。

ボーカルはいつになくポップに響き渡っており、轟音をかろうじて繋ぎ止めるような歌心でアルバムを引き締めているのも面白い所です。

実験的な要素を多分に含んだ前作と比べて、やっていることは非常にシンプルで、対比する要素の振り幅を極限まで広げたわけですね。

#1「Luminary」でもう既に本作の方向性を示しているように感じます。Danの紡ぐメロディーはいつになくポップに響く中、轟音が支配していく音世界。Kscope移籍後初のリリースとなった前作『Polaris』で複雑性における特異点を迎えて、敢えて削ぎ落としていく必要性を感じたのかもしれません。

#2「King」はもはやドゥーミーな空気さえ漂わせる音の壁でもってリスナーを飲み込んでいきます。Danの歌唱は明らかに本作の肝になっていて、Djentの世界では何かと軽視されがちなボーカルラインがきちんと主張してくるのです。そこが本作の大きなポイントかなと。

#3「Orbital」は#4「Juno」に繋げるためのナンバーでしょう。しっかりと歌詞が用意されていますが、構成自体は約2分と短め。このへんのミニマリズムも『Sonder』の特徴です。そして再び極圧の音の壁でもってリスナーを圧倒した後、Polaris節が炸裂する展開。ある程度本作のらしさを見せつつも、前作の流れを汲んだ曲ではありますね。

#5「Beneath My Skin」と#6「Mirror Image」は是非セットで楽しんで頂きたい構成になっています。
ミニマルなアルペジオと浮遊感のある歌唱、そこから轟音のうねりへ。再び4拍で整頓された世界でDanが切なく歌い上げます。しっかり見せ場を作って儚げなピアノで幕開けする「Mirror Image」へと繋げるドラマ性が良いですね。リズムの取り方は若干複雑ですが、その分前半に比べると轟音は控えめな印象。

#7「Smile」、実質アウトロ的役割の#8「The Arrow」で本作はフィニッシュ。

今まで圧倒的な構築美でもってその存在感を確固たるものとしてきたTesseracTが、引き算の美学でもってその肉を削ぎ落とし、代わりにドゥーミーなDjentの在り方を示してきたような、そんな感覚です。37分という短めの尺も、いらないものを極限まで削ぎ落とした感じ。

個人的には少し物足りないかなと思いつつも、“Djentってなんぞや”ってのを本当に分かりやすくタイトに示してくれた作品です。

前作『Polaris』で感じられた得体の知れない何かを聴いているような不思議な感覚は少なく、轟音とメロディーで頭から理解させるシンプルな作風は、彼らにとっても新たな境地なのではないでしょうか。

これを聴いていると、00年代後半から勢力を拡大し続けたDjentなる化け物が行き着いた先は、ある種のミニマリズムだったっていうオチを眺めているような感覚になって、この先一体どうなってしまうのだろうという一抹の不安を覚えます。

★★★★☆



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