Enteprise Earth / The Chosen
ワシントン出身デスコアバンド、3年振り通算4枚目のフルアルバム。
さあさあ皆大好きDan Watsonが立ち上げたバンドの新作だよ。
Danと言えば、変態デスコア界隈では周知の存在となったInfant Annihilatorの1stアルバムでボーカルを担当していた人だね。
そんな前評判もあって立ち上げたバンドがこのEnterprise Earth。まあInfant Annihilator自体がスタジオプロジェクトだし、国もイギリスだし、コンスタントに活動をしたいと決意して結成したバンドなんだろうね。
今のデスコア界隈って本当、エグいボーカルあってなんぼの世界になってる。
Slaughter to PrevailのAlexしかり、Lorna ShoreのWill Ramos、Shadow of IntentのBen Duerr、あるいはSigns of the SwarmのDavid Simonich。大炎上を巻き起こして評価を落とした、元サインズとロナショアのCJとかね。あ、あと現Infant AnnihilatorのDickie Allenもね。
最近だとロナショアのWillは、「To the Hellfire」でのやばすぎるパフォーマンスがシーンに衝撃を与えていて、Spotifyの再生数もとんでもないことになってる。
そんな第二次デスコア大戦を迎えつつある昨今、Dan Watson率いるEnterprise Earthの新作を期待してた人は多いんじゃないかな。
Will RamosやDickie Allenが変態枠のボーカリスト(Willに関しては全部アタオカだけど)だとしたら、Enterprise EarthのDanやShadow of IntentのBenは比較的優等生タイプのボーカルなんじゃないかと思う。
ディープなグロウルとハイピッチの高低差が生み出す一種のカタルシスみたいなものを体現するインテリ系って感じ。もちろんピッグスクイールやガテラルみたいな飛び道具もしっかり上手いんだけどね。
で、前作『Luciferous』は初期の2作品と比べてメロディーが甘くなり、カッチリとタイトなデスコアとメロディックな側面との対比を際立たせた挑戦的な1枚だった。出来は非常によかったんだけど、アホみたいにボーカルにスポットした曲が流行る今の潮流的に、あんまり良い作戦だったとは思えない。
結構地味に聴こえちゃうんだよね。個人的にはギターパートの著しい進化を感じて素晴らしい作品だと思ったんだけど、インパクトがイマイチだったのかも。
それを踏まえた本作がどうなるか気になってはいたんだけど、先行公開シングルで予想はほとんど当たった。
Dan Watson、ついに歌います。
第二次デスコア大戦に勝ち抜くため、あるいは己が道を切り開かんとしたか、デスコア界隈では禁忌とも言えるクリーンボーカルの導入。
クリーンの導入については過去にもスーサイが壮大にスベったり、Whitechapelも苦戦している。
メタルコアバンドがキャッチーになるのでさえ失敗するケースが多発するのに、さらに重心の低いデスコアからクリーンの導入ってのはハードルが高すぎるんよ。
ただその失敗例ってのをよく心得てるのか、曲調は相当アグレッシブ。しかもさらっとメタルコア的な熱量を取り入れたリフがポンポン登場する。Danの極悪ボーカルやブレイクダウンを聴けば確かにデスコアだけど、それ以外メタルコアやん。フラッシーなギターソロもさらに成長している。そんな先行公開シングルが#1「Where Dreams Are Broken」。
続く#2「Reanimate // Disintegrate」は極悪グルーヴをメインに、ボーカルはハイとロウを忙しなく動き回る。中盤で静寂パートを挟んでさらに鈍重な世界へと突き落としていく。そこからはインパクト重視の“寸止め”ブレイクダウンを挟んだり、ブラックメタルっぽい爆走を突っ込む。この曲もドラマチックなギターソロがめちゃくちゃ映えてるねえ。アルバムがリリースされた瞬間、「デスコアで1時間超えかあ・・・」とちょっとためらっていたが、楽曲は素晴らしく良いね。
#3「Unleash Hell」はアルペジオにオーケストレーションを絡ませたイントロから一気に爆走。やっぱりリフがメタルコアっぽい。機械的なグルーヴを除いては完全にメタルコアだ。いや、めちゃくちゃ良いぞ。前作で見せたメロディックな部分をメタルコア的な熱量へと昇華させてる。その分グルーヴやクリーン以外のボーカルパフォーマンスはしっかりデスコアしてるし。この曲もクリーンが入るんだがそんなことあんまり気にならんよ。というかデスコアの初期の頃ってメロディックなバンド達多かったよね。懐かしくて新しい、これは面白いぞ。
#4「I Have to Escape」は初期2作品を思わせる機械的なリフや爆走など意外と通常運行。しかしギターソロは相当メロディックだし後半はメタルコアっぽい熱さを感じる。
アルペジオとオーケストレーションによるインタールード#5「The Tower」を挟んで#6「They Have No Honor」へ。ディープなグロウルからやかましいハイピッチまで相変わらずDanのパフォーマンスはすげえな。中盤からはブラックメタル風にパタパタと爆走、と思いきやなんだこれ、Danの"Go!!"の掛け声からいきなりメロディックメタルコアへと変貌したぞ。今回は上手く纏めたというよりかなりはっちゃけてるな。
#7「Overpass」はKublai KhanのMattがフィーチャーした7分越えの大曲。これに関しては序盤はちょっと気怠いポストハードコアなんだけど、2分後半から猛烈な爆走を見せる。まあMire Loreでの活動でDanが歌えるのは分かってたけど、想像以上に良いね。展開も起伏があって悪くない。元々ポストハードコアが好きな俺から言わせればこれは全然アリだ。終盤のMattとの壮大なブレイクダウンの掛け合いもオモロい。
#8「You Couldn't Save Me」は極太グルーヴからメロディックな爆走へと突入。メタルコアとデスコアを行き来しつつ、爆裂ギターソロから泣きの疾走を見せる。もうお気付きの方もいると思うが、これはメロディックメタルコアとデスコアの融合だ。いや確かに最近こういうのなかったよね。
短めのクリーンソング#9「Unhallowed Path」を挟んで#10「Legends Never Die」へ。Danのハイピッチも最高潮にやかましくて、シンフォニックなアレンジと相まってスケール感のある曲。ちょっとShadow of Intentっぽい様式美を感じるね。
#11「My Blood, Their Satiation」はダウナーなイントロともっちりしたグルーヴから再びメタルコア的な疾走を見せる。要所でデスコアらしいグルーヴ感で曲を引き締め、極悪なブレイクダウン。
#12「Skelton Key」は前作っぽい雰囲気で、要所でメロディックなリードを挟みつつも基本は機械的なグルーヴで進行するデスコアナンバー。
アルバムタイトルトラック#13「The Chosen」は8分超えの大曲。Danはもはやめっちゃ歌うし叫びます。曲はちょっとBetween the Buried and Meのような感じ。ラストはインタールードの#14「Atlas」でフィニッシュ。
内容は過去最高に良かった。
それよりDan Watson脱退したってよ。
デスコアあるあるだけど、結局方向性ちゃうからってことで道を違えたらしい。
相当もったいないね。Lorna ShoreはWill Ramosを引き入れて再起を図れたけど、これはどうなることやら。
いやーまじでもったいないね。デスコアの未来がまた一つ消えました。
★★★★★