【再掲】Fit For An Autopsy / Oh What the Future Hold(2022)〜デスコアを超えた新たな高みへ
01. Oh What The Future Holds
02. Pandora
03. Far From Heaven
04. In Shadows
05. Two Towers
06. A Higher Level Of Hate
07. Collateral Damage
08. Savages
09. Conditional Healing
10. The Man That I Was Not
ニュージャージー出身デスコアバンド、2年振り通算6枚目のフルアルバム。
FFAAの新譜がキターーーーーーーー!!!!
名プロデューサーと名高いあのWill Putneyが率いるデスコアバンド。デビューした時から既にベテラン感漂ってたけど、このリリースに至るまで微妙な作品は1度も出してない。
Will Putneyは楽曲制作に関わるだけなので実質5人組だが、ハイクオリティーなアルバムを連発してるすげえ奴らです。
チャートアクションもビルボード100くらいをうろちょろしてて、確かな人気と実力を誇っている。
なんと本作は23位にランクイン。デスコアとしては驚異的なセールス。
で、彼らが前作でやってのけたのは我らがWhitechapelと同様の“脱デスコア”なんだけど、下手したら数多のデスコアバンドを差し置いてこのFit For An Autopsyが1番上手く新路線を提示出来たんじゃないかって思うほど。
分かりやすい歌メロが導入された曲が収録されたにも関わらず、批判的な意見は聞こえてこなかった。むしろ新たな境地へと至った彼らに賞賛さえ送られていたと思う。
んで何でそんな生ぬるい事態になったかって、楽曲の質が恐ろしく高いことに起因するんだよね。
結局のところ、新路線が云々みたいなくだりは取り入れた要素を上手く昇華出来ていないからであって、FFAAは構築美でもってリスナーに頭から理解させるハイパーインテリ野郎だと改めて認識させられた。
彼らの面白いところは、3rd以降さらに暗黒感の強いドロっとしたヘヴィネスを打ち出しているのに、清涼感のある美しいフレーズや曲展開を各所に散りばめることによって、重い側面とキャッチーな部分をあたかも平然と共存させることに成功していることだ。
取ってつけたような歌メロで誤魔化すようなことはしないし、あくまでその曲においてクリーンやメロディーが必要であると判断された、そういう実に自然な流れで新要素を取り入れてるから違和感がないんだよね。
そんなこんなでデスコアの新たな可能性みたいなものを、さらっと当たり前のように提示してきた前作を経て、今回がどうなったかはやっぱ気になる。
#1「Oh What the Future Holds」は儚げなピアノによる前奏を経て、Joeの咆哮が冴え渡る。明らかなイントロソングなのにリフはカッコいいし後半だけでしっかり起承転結が見える。
#2「Pandora」はアッパーなドラミングに熱いメタルコアリフが絡み、クリーンの導入こそ無いがJoeはしっかりとメロディーを歌ってるのが垣間見える。緊迫した前フリを挟んでガツンと落とす雰囲気は、仰々しくなくそれでいてしっかり楽曲のアクセントに。泣きのギターソロも入るしかなりメタルコアしてるね。後半はオルタナティブロックみたいなクリーンパートを挟んで2度目のブレイクダウン。1曲にアイデア詰め込みすぎだし、何故か破綻していない。やっぱこのバンドやばいな。
#3「Far From Heaven」はGojira感の強い粘っこくテクニカルなリフに退廃的なクリーンで始まる。途端にアグレッションを高めて爆走、そしてグルーヴィーなパートに持ち込んでいく。
あれ?これWhitechapelがやりたいことじゃないの?
ただドラマ性で言えば格段にFFAAのが上で、それこそ楽曲ひとつに対するアイデア量が段違い。
俺はWhitechapelを心から愛しているが、このFFAAは巧さで言えば一つ上を行ってるかもな。
#4「In Shadows」は4枚目を彷彿とさせる暗黒グルーヴ、しかし本作では意図的にテンポを上げることを意識しているのかしっかり疾走パートが用意されてる。この曲にもごく自然にクリーンを入れてやがる。センス良すぎるんよ。
#5「Two Towers」は野太いベースラインと幽玄なギターワーク、クリーンで歌い上げた後に極太グルーヴを絡ませていく。序盤とは打って変わって中盤からかなり緊迫した展開に。ラストは再び物憂げなクリーンが登場し、ギターソロを披露して終幕。やはりこの手のサウンドをやらせるとFFAAに軍配が上がってしまう。ドラマ性があるんだよなあ。
#6「A Higher Level of Hate」は印象的なタム回し(タムじゃないか?)から一気に攻撃性を高めていく。グルーヴやらチャグやらをひとまとめにしたようなリフ、バックでは高音ギターがさりげなく味付け。こういう立体的な音作りはトリプルギターならではだね。落としてからも刻むだけじゃなくDjentっぽいフレーズでアクセントを出している。楽曲の完成度の高さよ。
#7「Collateral Damage」はザクザクとしたギターに咆哮をメインに据えた比較的オーソドックスな曲。かと思えばやっぱり1分くらいで楽曲の雰囲気を変えてきて、メロウなリードを挟んだり単音リフで疾走したり、ブレイクダウンと共にギターソロで最高潮。最後は美しさを感じる叙情フレーズでフィニッシュ。やっぱり楽曲の練り込み具合が尋常じゃなくて、1曲で3度くらい美味しい展開をやってのける。
#8「Savages」は手数の多いドラミングとリフ捌きでゴリゴリと進行。彼らにしては比較的落ち着いた曲展開だがその分攻撃力が高い。ラスト1分普通のバンドならブレイクダウンを選ぶところで敢えて疾走していく。そういうシニカルな所を見せて最後の最後で昇天。分かってるねえ。リスナーを置き去りにしない優しさ。
#9「Conditional Healing」はひりついた高音ギターとグルーヴが絡み合う混沌とした音色からテクニカルなフレーズを詰め込みまくる。楽曲制作にWill Putneyが大きく貢献してるのは分かるけど、単純に良いギターチームなんだろうな。音作りが緻密すぎる。
#10「The Man That I Was Not」はディレイの効いたギターとタイトなリズム隊に合わせて退廃的な美しさを感じるクリーンでスタート。これは来るなと思ったけどやはり1:20あたりから猛烈な咆哮とアグレッシブな展開に。ボーカルの表現力も向上してて、こういう展開が揺れ動く楽曲で良い仕事してると思う。
カオティックハードコアのようなラフな歪みのギターが出てくるあたり、いかにもWillらしいというか。
思えばWill Putney自体がシーンを象徴するようなプロデューサーで、それこそポストハードコア〜デスコアあたりまで幅広く関わっているんだから、新路線をさらっと形に出来ちゃうのってある意味当然なのかもしれない。何故そんな簡単なことに今まで気付かなかったんだろう。
ある意味、そういうプロデューサー業で培ったアイデアとかをアウトプットする場所としてFit For An AutopsyやENDといった居場所を確保しているのかもね。
★★★★★