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お情けではない愛情を

前作「THE WORLD」には今まで見ることのなかったバニラズ・牧達弥の本質的な部分が詰まっていた。
この一枚を通して彼らはただロックンロールが好きでバンドをやっているわけではない。フロントマン・牧達弥の頭の中には構想がしっかりあって「THE WORLD」はその構想が形となって如実に現れた。

そして本題の新譜「PANDORA」
今作は2020年という年がなかったら生まれなかっただろうなと思う。
人との関わりが疎遠にならざるおえなかったと言っても過言ではないであろう事態で改めて私たち一人一人が問われるべきことが歌われている。
そう言われると暗い歌詞が戒めのように並んでいるのかと思ってしまうかもしれないが一切そのようなことはない。
だからと言って明るさで溢れている訳でも到底ない。
じゃあ何なんだという話だが、一言で言えばベースとなった月に太陽のような要素が散りばめられていると表現するのが賢明であろう。

M 04 お子様プレート
題名からして明るくて夢が詰まった楽しい曲に思える。
テンポも良くて間違いなくライブで盛り上がるだろう。

”世界の国旗はまだ連なっていたと疑うことを知らない僕らも
あっちゅー間に男になった
あっちゅー間に女になったんじゃシャレならんぜ”
  

”ほんと未完成で登場しちゃってほんとにごめんって言ってるじゃない”
  

”愛し愛されるその瞬間を考えてたいんだ”       

ただ聴くだけだとテンポもノリも良い曲だが歌詞を読み返してみるとそこには誰もが持っていたはずなのに世間というものを学んでいくうちにいつの間にか忘れてしまった感情が蘇ってくるような心地になるのではないか。
そんな感情を蘇らしてくれる歌詞だが遊び心の詰まった言い回しが一層子どもの純粋な気持ちにさせてくれるのかもしれない。
そして一番最後の歌詞が今作の核となるメッセージを提示していると思うのだ。

M 08 cash from chao$

"外見はいいんだお面を外した君を内側から見る
抱えたくなるような大事なもんはきっと一つや二つと君の側にある
隣に座る君に好意をもって打ち明けてみるから
嫌かな どうかな?”

”外見ではなくて中身”
というのはどこかで牧さんが話していたような気もする。
どれだけ取り繕っていたとしてもそれだけでは本質は見えない。
どんなに輝いているロックスターであろうと憧れの的となるのはその内側にある本質を見てのことだろう。
外見ではなく内側を知ることが愛し愛されるきっかけとなる瞬間なのではないか。

M 14 パンドラ

”見せかけの愛情なんてクソ喰らえなんだよなって”
”お情けで君と生きているわけではないから”
”お互いをもっと見て願いを外さぬよう”

「PANDORA」の話をするにあたって必須の表題曲。
このアルバムの主題が詰まった一曲。
この曲に関しては綴られていることが全てだと思うのでまずは聴きながら歌詞にも注目してみてくださいというのが得策のような気さえしてしまう。
ただ、一度”パンドラ”を聴くのとアルバム通して聴いて締めくくりに聴くのでは後に湧き上がってくる感情に違いがあると思う。
バニラズが伝えたいことは届くかもしれないがこの曲に至るまでの13曲を知った上で聴くことで繋がりが見える。これは間違いない。

『パンドラ』というのは開けてはいけない災難をもたらしてしまう箱である。
そんな箱を開けてしまった人類初の女性は慌てて蓋を閉めた。
すると蓋をされた箱の底には”希望”だけが残っていたそうだ。

そのような箱を開けたgo!go!vanillasの未来に賭けてみるのはどうだろうか。


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