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脱・戦略経営(勝ち組より価値組)

「あなたの事業では、戦略と戦術を、どう考えますか?」と聞かれることがたまにある。
ところが、一定の前提条件のもと、未来に向むけて明確な「旗」を立てさえすれば、戦略や戦術とは無縁の世界で、本質的な価値づくりには歪みのないチームで進めるし、そのほうが顧客からの支持も得やすい。

■戦う必要性を感じていない

ラグビー元日本代表監督・故宿沢広朗氏の「戦略は大胆に 戦術は緻密に」という具合に、ボクも気の利いた返しでもできれば良いが…その期待には応えられず、いつも次の通りに返答している。

  • 戦略は本気で楽しむ・戦術は準備を怠らない

  • 戦略は無邪気・戦術は心意気

  • 戦略は生きざまに表れる・戦術は暮らしの中に宿る

まあ、大体そんな感じ。
「相変わらず、言葉遊びがお好きですね」と、こちらがはぐらかしたかのような言われ方をされても…ボクらはそもそも、商いや事業活動においては、「戦略・戦術」という言葉を使うことが好きではない。

なぜなら…
ボクらが勤しんでいる価値づくりにおいては、どの場面でも「戦う」必要性をほとんど感じていないからだ。
したがって、ボクらが関わる事案においては「戦略と戦術」という概念すら存在していない。

ただし、戦略も戦術もなく、人と競い合うこともなく事業を営んでいる代わりに、明確にしていることはある。

「どこの誰にどのような幸せをもたらせたいのか」という旗だけは、明確に立てておくことだ。

旗は、自分達が掲げる事業ビジョンや目的であり、戦略等とは異質なもの。
そして、掲げた旗(ビジョン)のほかには「行動指針」さえあれば良い。

もちろん、行動指針は「感謝を忘れない」「美意識を高める」という精神論では意味を成さず、どうすればビジョンに近づくのかという具体的行動を示す必要はある。


■機能するための前提条件

旗(ビジョン)と行動指針さえあれば、自走する理想的な組織になるかというと、そういう甘いものでもない。
一つ重要な大前提がある。

それは、組織内、またはプロジェクトチーム内に集まる仲間のひとり一人に必ず「主体性」が求められるということだ。

つまり、旗にめがけて、「自分はどうしたいのか」と主体的に実践しない人は、「どうすればいいのか」が解らないため、とても辛いものとなる。
自分に「どうしたいのか」がなければ「どうすれば良いのか」など、だれも教えてくれないからだ。

もしかしたら…

世間一般的には、「自分はどう生きていきたい」という主体的な人ばかりが集るわけでない組織が大半だから…戦略や戦術を明確にして、マネジメントという名を借りて、人を「統治」しなくてはいけなくなるのかもしれない。

そうなると、優れた戦略を立てる人がもてはやされ、それに対して、とても従順で、秀でた戦術を持っている人だけが、上司に評価される。 

これだと、「顧客と価値を共に創る」「仕入先とも共に未来を築く」なんていうスローガンも空虚なものになる。
なぜなら、ヒエラルキーの上層部に気に入られる「迎合」が始まるからだ。

「旗を立てた上での戦略だ」と正当性の主張をされたところで、文化的かつ実質的に「統治」された組織運営では、今ある自分達の常識を疑い、未来のあたりまえを創る人など、邪魔な存在になる。

極論、そうなると「主体的」な人は、必要とされなくなる傾向が強くなる。

それは、企業のみならず、本来子供達の主体性が育まれる土壌をつくるべき学校組織も、大半がそうなっている。
大人と子供が対等に向き合う発育現場として定評がある「子どもの村学園」のような学校は、まだまだ少なすぎる。

これは…

「人間は、社会的規則(構造)によって、無意識にマジメちゃんであることが正しいと考えさせられて、何らかの社会構造に支配されている」…まさに現代社会が「構造主義」によるシステム経済が主流となっている象徴的なことなのかもしれない。


■顧客と共に意味を見出す

話を元に戻そう。

ボクらは、人と競い合うこともなく、本気で楽しく価値づくりに日々勤しんでいる。
ただし、戦略や戦術もない代わりに、真摯に向き合わなければならないことはある。

自分達の主体性の象徴・自分達の「答え」とも言える『どこの誰にどのような幸せをもたらせたいのか』という旗に対する「応え」と真剣に向き合うことだ。
価値として感じてもらえるかどうかのその「応え」は、顧客(マーケット)側にしかない。

さらに、自分達でどうすれば実現できるのかを問い続け、出した仮説に対する検証機会は、日々の実践の中に宿っている。
それを漏れなく的確に拾い上げるかどうかは、常に自分達の感性も試されているので、本当に至難の業なのだ。

それでも、誰が答えても同じ答えになる「知識」だけではなく、自分達にしかない感性を活かした「知性」が試されるからこそ、「この価値づくりは、なぜ自分達である必要があるのか」の意味を見出せる

つまり、自分達の感性が常に試されている厳しさがある一方、自分達のアイデンティティ(自分達である意味を見出すこと)を、お客様と一緒にブラッシュアップできるなんて、こんなにありがたい事ってあるだろうか…。

そして、そうしたことを続けていると、次への課題だけではなく、時にはボクらの目の前で、提供したものをお客様がさらに価値を深めて下さるということも起きている。


■計画はすぐに修正する習慣

自分達が勤しむ価値づくりは、何故自分達である必要があるのか…ここに、自分達の納得と確信があれば、その日から合理的に変革に落としこむので、「やり方」は臨機応変となる。

つまり、先に述べた戦略や戦術というニュアンスに固執すると、当初立案していた計画にこだわり過ぎて、適応力を下げることになるが、ボクらは直観的に速やかに対応することを大切にしている。

計画的に効率や能率を上げることばかりにこだわると、大局を見失い、合理的な歩みではなくなるからだ。

業務遂行の大枠のフレームワークは立案すれど、建てた旗(ビジョン)に向けて、関係者と共に柔軟にやり方を変えることも多い。

その様相が、「無計画な人達」と見られることもあるらしい。
そんな揶揄はどこ吹く風…実は当事者も仕入先も顧客も、有機的に信頼関係が深まり、確実に進化している。


■決して万人受けしない

また、ボクらが立てる「旗」は、とにかく「万人受け」しない。

「どこにいる誰をどのような幸せをもたらせたいのか」を明確にする際、「どこの誰」は、「どういう属性でどういう感性を持っている人」なのかを明確にすることになるため、全く万人受けするはずがない。

しかし、出逢いたいお客様と出逢える確率が高くなる好循環も芽生える。
さらに、主体的に実践に落とし込もうとする仲間とも出逢いやすくなる。 

「旗」が明確に立っていると、自分自身、仕事仲間、お客様との間で、とても対等な関係での「対話」が生まれやすくなるからだろう。

立案されていた計画に固執することなく、違和感があればすぐに対話の機会が生まれるため、自然と仮説検証の回転数も高まる。

これは意味のある朝令暮改であり、優柔不断でもない。
戦略も戦術に加え、計画経営なんていう概念も不要になることもある。


■囲い込まずに囲まれる

結局ボクらは、人と競い合って「勝ち」を得るのではなく、自分達の未来のあたりまえとは何かを、顧客も含めて問い合いながら共に「価値」を創る事ができている。

これにより、戦略という言葉が好きな人達には皮肉な言い回しとなる失礼を承知の上で表現すると…ボクらは「顧客の囲い込み戦略」ではなく「出逢いたい顧客や良質な顧客に囲い込んでいただけている環境」になっているということだ。

常連のお客様からは、その価値づくりに参画できていること自体が嬉しいという声を寄せていただくこともある。
だからこそ、顧客や仲間と共に価値を高め合う「価値共創」においては、誰とも競う必要がない。

明確な旗を立てていない…もしくは、その旗が形骸化していると、どうしても戦略と戦術が必要になるんだろう。

いつものことながら…必ず「そんなキレイゴトだけでは、この社会は上手く生き残れない」と言われる。
しかし、どのように揶揄されたとしても、ボクらは今も生きている。

そもそも「上手く生き残ろう」なんていう概念がない。
ボクらは「本気で生き抜こう」としか考えていないからだ。

さらに「そんな事業運営は非現実的」と感じる人が大半だと実感しているから、余計に競い合う必要がなく、これからもボクらは大丈夫だなと思える。


■旗は美しくなくてはならない

長年、組織に染みついた文化を変えるのは、簡単なことじゃない。
それでも、今後ますます人口が激減するこの国の経済環境では、自分達の固定観念を変えないといけないと感じる企業は増えてきて、お仕事の引き合いも増えてきた。

できるかどうか…を考えると、大概の経営者が躊躇する。
それでも、やるかやらないかだけのことだし、やった後の失敗も成功も、全てを次への糧にしていくだけのことだ。

失敗も成功も、ボクらにはめちゃくちゃ大切な「成果」であり、それが素敵な「無形資産」になっている。
あらゆる価値づくりの土台となる無形資産が、毎日築かれていく。

立てようとする旗は、必ず美しいものでなければならない。
ボクらが関わる以上、その旗は美しいかどうかは、常にこだわる。

あらゆる利害関係者と「対話」が生まれる都度、自分達が掲げている旗は美しいものであるかどうかは、常に自問自答している。
「旗は美しいものでなければない」という理由は、過去も綴ってきた。

また、「そう断言するなら、あなたの事業理念や行動指針は何なの?」と聴かれることもある。
ありがたいことに、そのキレイゴトで歩み、2022年5月には創業ニ十周年を迎える、起業当初に掲げた旗も行動指針は、今も活きているし、今もボクらは活かされている。
(参照:弊社ホームページの下部に理念と行動指針を記載)

なお、戦略や戦術が明確な組織運営をしているところの全てを否定しているわけではない。
ある程度の企業規模となると、それが不可欠となることもあるからだ。

ただし、戦略と戦術ばかりに酔うと、組織マネジメントも、「統治」の空気が漂うようになり、ルール、規制、監視、指導、価値観の押し付け、叱責、同調圧力などによる、疲労蓄積の毎日が待っている。
統治国家は望まれていないはずが、巷では統治組織だらけであるというのがとても皮肉な現象だ。

もし、そういう組織であることに自覚した場合、組織を批判するまえに、まずは自分の主体性をハッキリさせることもオススメしたい。
(参考既出コラム「自主性と主体性の違い」)

Backstage,Inc.
事業文化デザイナー
河合 義徳

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#がんばり方を間違えない
#競争と切磋琢磨は違う
#競争原理こそが成長を促すという固定観念は危険



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