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春なので恋バナをしましょう【弦人茫洋・5月号】

予定が立て込んでいて、「弦人茫洋」の更新が遅れましたことをお詫びします。

毎月1日に更新する長編エッセイがこのマガジンですが、今月は2日になってしまいました。特に1日にこだわっているわけではないので、それがいつだろうと(そのこと自体は)大した問題ではないのですが、その日に決まっていることが重要です。毎月25日の給料日が、すいません今月は30日ですって言われたら困るし、毎週火曜日のお客様感謝デーが今週は金曜なんですって言われたら怒ります。それが「定期」ということばの意味です。

まぁ、そんなわけで今月はイレギュラーになってしまいましたが、原則的には毎月1日に長いエッセイ書いてますので、もしご興味があれば、ぜひ。バックナンバー含め無料で読めます。


今月のテーマは、定期つながりで(などと言っては多方面から総スカンを食らうだろうけれども)アニバーサリーみたいなものについて少し考えてみた。


僕は昔からアニバーサリーをあまり重要視してこなかったタイプの男です。付き合って1か月を記念としてお祝いなんてしてしまうとその恋がそもそも1か月も続くとは期待していなかったという気持ちの裏返しになるようで野暮だから、といえば多少は気障にもなれますが、まぁ、正直なところそこには照れであるとか面倒な気持ちであるとか将来的に束縛されたら嫌だなとか、自分本位な理由のほうが多かったように思います。

ちなみに自分本位ということばについても考えてみたいのですが、それについては夏目漱石が講演会のテーマにしてそれがのちの世で書籍になるような話題ですから今回はやめときます。


恋人とのアニバーサリーに消極的であるとして、それ以外のアニバーサリーはどうかと言うと、ちょっと定義が難しかったりします。

たとえば旅行に行ったとして、その1週間後とかに、「先週の今頃は・・・」と思い出に浸ったりすることはよくあります。だからといってそれをアニバーサリーと呼ぶのかどうかは疑問です。それは時間的な問題ではなくて、「あの楽しかったハワイ旅行から1周年記念パーティー」が概念として成り立たないからです。記念というのはたいてい、何かが継続されていることに対しての祝福であるのだから、旅行からある程度まとまった時間が経過したところで、それを祝う理由が特にないということ。



そう考えると僕にとって理想的なアニバーサリーの過ごし方として近いのがギターだったりします。「このギターを買ってもう○○年になるのか」という感慨は、ギターに対する愛情を深めてくれるだけでなく、経過した時間に対して自分の腕が見合っているかどうかの戒めとしても働いてくれます。だからといって、ひとりグラスを傾けながらそのギターとの来し方に思いを馳せることはあっても、フレンチを予約してギターと二人でディナーに行ったりしません。

ギターとディナーに行かないのは、アニバーサリーの過ごし方としての価値観ではなくて、社会通念上ヒトは楽器と食事を共にしないからです。野村義男氏はギターを眺めながら白米を何杯でも食べられる(くらいギター好き)と仰っていましたが、ギターと一緒にご飯を食べるということは普通は考えにくいことです。したがって、ギターとの記念日の過ごし方が自分にとって理想的であるからと言って、それと全く同じことを恋人関係で望んでいるかというと少し違います(要するにここまで書いてきたことは恐ろしく長ったらしい照れ隠しのようなものです)。

先に出したハワイの例で言うと、旅行から経過した時間に対して馳せる思いは過去のベクトルです。その一方、付き合って1か月記念みたいなものは、おそらくベクトルとして未来を向いている(少なくともそうであるべき)ものであるはずです。もしもそのベクトルが過去を向いているなら、告白の瞬間がその恋の最高潮だったということになるから。スタート地点がマックスのタワーオブテラーみたいな恋は、スリルはあるかもしれないけど継続させることに大きな意味もないのではと思ってしまいます。


そう考えると、アニバーサリーを重視しないのは、自分がロマンティストであることの影響なのかもしれません。ディズニーランドホテルには壁掛け時計が設置されていないんだそうです。ロマンティストこそアニバーサリーとかサプライズが好きなのではと言われそうな気もしますが、もっと構造的な問題のようにも感じます。


とはいえ多くの場合、アニバーサリーが苦手という男性は照れているだけの場合がほとんどなので、パートナーの方は「愛くるしいなこいつ」くらいで許してあげたら家に帰ってホッと一息つく男子も多いのではと思います。照れだけではなくて構造的な問題などと語ってしまう僕みたいな理屈っぽいのを相手にするとちょっと面倒だと思います。笑


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