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音楽と平和【弦人茫洋・3月号】

このマガジン「弦人茫洋」は、毎月一日に「長文であること」をテーマにして書いているエッセイです。あえて音楽以外の話題に触れることが多いです。バックナンバーはこのリンクからお読みいただけます。



2011年春、エジプトのムバラク政権が倒れた。世に「エジプト革命」として知られる歴史的な出来事だ。

 当時、僕は19歳だった。テレビや新聞で報道される内容に触れるたび、こころが熱く燃え上がるのを感じた。歴史の教科書の中でしか知らなかった「革命」が、自分の生きている世界で起きていることに胸が震えた。なによりも、力なき人々が結集して圧政をひっくり返したそのパワーに勇気づけられた。管理されることや何かを制限されることについては、僕も一人の若者として人並みに反抗心を感じていたから。人間は自由を求めて立ち上がるだけでなく実際にそれを勝ち取ることもできるのだと知った。


 こんな風に過去を語ると美談のようにも聞こえるのだけれど、僕がエジプト革命に感動した理由はそれだけではない。高校生のころから世界史が好きで、そもそも革命というものに興味を持っていた背景が大きい。

 では、革命に興味を持った理由は?不遇を甘んじて受け入れることなく圧政に立ち向かう人々の勇姿が美しいから?自己分析すると、多分それは違う。そもそも自分の考えの根っこには、格差は是正されるべきものであるという意見があって、それが実際に実現されているから興味を持ったというほうが近いと思う。自分の思想と矛盾しない歴史的事実が過去に存在していることに安心もしたのだと思う。

 それなら、格差は是正されるべきだと考えるようになったのはなぜか?自分が格差に苦しんだ経験があるからとあれば説得力も帯びてくるが、残念ながらそうではない。安全で安心な環境の中、両親に育てられて、特に不自由なく高校まで行かせてもらった。格差は是正されるべきであると考えるようになったのは、世間一般でそう考える人が多数派だからだった。



 ここまでをまとめると、19歳の僕がエジプト革命に感動したのは、世間一般で常識とされている正義が達成される瞬間を目の当たりにしたから。ということになる。そんな高みの見物で革命を語ってはいけないと思うしそもそも語る資格もないが、たとえそうだとしても遠く離れたエジプトの革命が木更津に住む19歳の少年のこころに影響を与えたことは事実なのだ。

 革命は若者と相性がいい。支配に対する反抗は、社会に中指を立てる若者の勢いとリンクする。両者の性格はそもそも根本的に全く異なるものだが、構造的に似ているため影響を受けやすいのだろう。



 影響されることが安易であるというつもりはない。ただどことなく違和感というかモヤモヤしたものを感じるのは、「戦争反対」という言葉があまりにも当たり前すぎて、そんな当たり前のことを強く主張しないといけない悲しい現実に対しての失望みたいなものもあるのかもしれない。

 戦争に反対であるかそうでないかという単純な議論になると、僕の意見としては「反対です」で終わるので、この記事ではもう一歩踏み込んで考えたい。


 争いや対立は、相容れないもの同士が共存できない時に起こる。相容れない=共存できない、というわけではない。これは、当たり前のようで、とても重要なポイント。


 世の中は相容れないもので溢れていて矛盾だらけだ。その矛盾の中で多くの人は平和に暮らしている。相容れないことがすなわち共存できないことになるのなら、世界は瞬く間に一つの価値観に染まってそれで終わりだ。それぞれに異なるからこそ相容れないし、相容れないからこそ文化がはぐくまれる。

 自分の理解できないものを否定するつもりなら、自分自身も自分の大切にしているものを他人に踏み荒らされる覚悟をもたなければならない。自分は肯定されるけど相手は否定するというのはちょっとムシの良すぎる話で、自分を肯定したいなら相手も肯定(すくなくとも否定しない)べきだし、それでもなお相手を否定しなければ気が済まないというのなら、自分も拒絶されることを受け入れないとつじつまが合わない。


 思うに、文化・芸術の分野から反戦の声が上がりやすいのにはそういった背景があるのではないかと。矛盾するもの同士をぶつかり合わせてこその創作活動であって、それは相手をコテンパンに叩きのめす行為とは全く異なるものだからだ。異質な存在が共存することを大前提にしている文化や芸術の分野と戦争とは、これ以上ないくらい対極にある。


 平和という言葉が際立って意味を持つのは世界から争いがなくならないからなのだとしたら、Love and peaceなんてむなしく聴こえる。それでも音楽がなくならないのは、音楽が世界を平和にするから、、、ではない。平和な曲を歌えば世界が平和になるなんてそんな単純な話ではない。ただ、そんな中でも一つ言えるとしたら、音楽をしているその時は少なくとも平和になれる。



 昔ニューヨークに行ったとき、国連本部で見学した。ライフルを改造して作ったギターで、エスコペターラという。

 これ以上にメッセージ性の強い作品を僕は生まれてこの方見たことがない。もしも今自分の家にこのギターがおいてあったらどうだろう。他のギターと同じ気分で手に取れるものだろうか?ピッチがどうのとかオクターブチューニングが云々などと言えるか?


 想像するに、ギターを弾けることがどれだけありがたいことで平和的な活動なのか身に染みるのではないかと。


 ギターは両腕を使って演奏する楽器だから、ギターを弾いている間はケンカできない。その代わり音でケンカすることになるかもしれない。うまく言えないけど、「音楽が世界を平和にするわけではないが、音楽をしている間は少なくとも平和であれる」というのは、そういうこと。


 そういうつもりで生み出された平和の曲こそが世界のこころに響くものだろうと思っている。




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ジユンペイ
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