「style」全曲解説 M2. ZERO
去年(2022年)の年末にYouTubeで出していました。そのときからアルバムに入れる目的で制作していたので、古参な曲ですね。
当時の音源は宅録ライン録りでピッチ補正とかもしてないんで、まぁデモみたいなものと思ってください。こっちが本チャンです。
小難しい話で恐縮ですが、この曲は「三度音程」をほぼ使っていないことが特徴です。
三度音程というのは、ざっくり言うと三つ離れた距離にある音同士の組み合わせのことです。「ド・ミ」、「レ・ファ」、「ミ・ソ」など。
三度の音程には感情を定義する役割があって、メジャー調かマイナー調かを決めるのも三度なんです。
要するに明るい曲か暗い曲かを決めるのが三度です。
その三度を使ってないということは無機質な質感に仕上げたい狙いがあったということなのですが、わりと目論見通りな出来になっているので個人的には満足しています。
その一方で歌詞の内容は感情的なんですね。
「現実と理想のギャップ」なんてよく言いますけど、本当に自分はこのままでいいのか?自問自答するアラサーのリアルな葛藤みたいなものを描きたかった一方で、そういう暑苦しいテーマは苦手なので直接的になりすぎないように比喩を用いながら書きました。
音楽は他人が聴くために作られるものだけど、他人のために作るからといって自分が共感できないものを無理につくってもいいっていうわけじゃないですからね。むしろ、自分の嫌いな要素を仕方なく注入した曲は、その「嫌い」がかえって浮き彫りになるから他人にとっても聴くに堪えない仕上がりになるものなんです。
話が脱線しましたが、ドライな曲調とエモーショナルな歌詞のギャップが独特な世界観を生み出している楽曲だと思います。
ギターについては、極力シンプルなフレーズを心がけました。パッと覚えてパッと弾ける、というのはギターをフィーチャーした曲にとって重要な要素だと思います。
先出のライン録り音源に耳が慣れていたため、レコーディングではそのイメージを振り払うのに苦労しました。
ライン録りの素材には「空間」がなくて「密度」があるから、多少ラフなプレイをしても、仕上がりとしては「良く」聴こえるんです。それが生レコだと当たり前ですが通用しない。ミスはすべてミスとして記録される。
そのためミスをしないようにキッチリ弾きましたが、そうすると今度はせせこましく収まった感じがして物足りなくなるんですね。
「音」にも物理的な「幅」があって、それぞれの持つ幅に応じて配置を工夫しないと全体的な仕上がりに影響するということを学んだ良い経験になりました。
30人の集合写真を撮るとき、30人を横一列に並べる人はまずいなくて、何段かにわけますよね。その際に、前の段に身長の低い人を、後ろの段になるにつれて身長の高い人を並べるのが一般的です。そうしないと皆の顔が見えないからです。
音の持つ幅は写真に写る人々の身長に喩えることが出来て、バスドラやベースは最も背の高い人々というイメージ。その二人を中心に置くか端に置くかで写真のバランスは変わります。
ギターは身長よりも髪型で目立ってるみたいなイメージで、ライン録りでは何もしなくても手前にいるからよく見えるんだけど生レコだと真ん中の段に入って前のひとの陰で見えなくなっている感じでした。
そんなシャイなギターをどうやって目立たせたのか。ライン同様、前に持ってきたのか、周りの人に詰めてもらったのか、バスドラに肩車してもらったのか、いろいろありますが、その辺は音を聴いて確認してみてください!
この曲で僕が好きな歌詞の一節は「鼓膜裏五番街」という表現。
実はデモの段階ではお蔵になる予定すらあった駄作だったのですが、「鼓膜裏五番街」ということばを閃いてしまったからにはそれを作品として発表せずにおれは死ねねえよと思ったので、なんとかしてアレンジやメロディをお蔵にせずに済むレベルまで改良していったという経緯があります。
みなさんのお気に入り歌詞フレーズがあったらそれも教えてください。
ZEROはアルバムの2曲目。下記リンクから試聴できるのでチェックしてください!