「正解の音」は、どこにあるのか
正解の音はどこにあるのでしょうか。
東京ですか?木更津ですか?
僕の頭の中ですか?あなたの耳の入り口ですか?
音楽をやっている人なら、少なからず「良い音」で演奏したいと考えるものです。
では、その「良い音」って具体的にどんな音なのでしょうか。
ロックバンドなら、空を裂くような渇いたスネアドラムの鳴り。大地を揺るがすベースの重低音。ヒステリックなエレキギターの轟音。会場を震わせるボーカルのシャウト。
そんなものが、ある種の正解になるのかもしれません。
そういう演奏をしたいと思っている人にとってそれは正解の「良い音」です。
自分にとっての「良い音」というのはわかりやすいものです。そもそもそれがやりたくて音楽をやっているみたいなところがあるから。
自分が演奏して、あるいは聴いて、心地よい音というのが正解であって、それは爆音でも優しく繊細なタッチの音でもいいのです。それが自分のやりたい音楽であるなら。
一方、音楽というものは他人に聴いてもらうことで初めて成立するものです。
少なくとも僕はそう考えていて、もちろん自分で演奏した音楽を自分で聴くのも楽しいけど、それはそこに「他人に聴いてもらう」という前提があるから。
自分だけが聴くためにつくった音楽を自分だけが聴いてもそれは僕にとって音楽ではなくて、どちらかというと日記のような性格のものです。
他人(=自分以外の人間)に聴いてもらうときの「良い音」とは何でしょう。
先ほどのロックバンドの例で言うなら、そういう音を求めている人にとって爆音は「いい音」だけど、必ずしも他人が常にそれを求めているとは限らない。
もっと言うと、他人が求める音なんてものは、同じ他人でもタイミングや状況によって異なるのが当たり前です。
目覚ましのアラームも、通勤時間に聴く音楽も、仕事中のBGMも、退勤後の電車で聴く曲も、家に帰って晩酌のアテに流すナンバーも、寝落ちがてらに垂れ流す音楽も、すべて同じという人を僕は見たことがありません。
TPOに応じて他人が求める正解の音は変わるということです。
そのすべてのTPOに対応する曲を作るとか、あるいはそれぞれの状況に応じて物凄い曲数をその人のためだけに作るなんてことはできないので、音楽家が大切にするべきことは、必然的の次のようなことがらになります。
誰に、どんなときに、どういう気持ちで聴いてほしいのか。
自分が何を伝えたいかなんて、それを上乗せ出来たら120点という感じです。
思うに、コマーシャルなポップスのジレンマはそこに潜んでいます。
報われない努力のほうが多いし、「結果より過程」なんて言葉は傷の舐め合いでしかないわけです。それを仮に自分は伝えたいのだとしても、果たしてそんな歌が受け入れられるのかどうか。
と歌うよりも
と歌ったほうがウケがいい。という単純な話ではありません。
何がウケるかなんてことは、時代が変われば簡単にひっくり返るからです。
ここで問題にしたいのは、曲に込める想いとかの話ではなく、自分が素で思っていることと商業的に求められるメッセージには乖離があるということです。
ある意味シンプルなのですが
仕事で音楽をやるひとは後者を大切にしなければ明日の飯が食えません。
そうでない人は前者にこだわったほうが、精神衛生上は好ましいです。
こういった話は歌詞の世界ではいくぶん具体的なものですが
「音」の世界では雲をつかむような話です。
自分の想う「良い音」と他人の想う「良い音」が違うという前提に立つとき、その他人とはだれを指すのか。どんな状況に置かれているどのような人を指して「他人」というのか。定義が無数にあるからです。
そうであるなら、ミュージシャンとしては、どんな「他人」にも対応しうる音の引き出しを潤沢に用意しておくことが仕事の要ということになりますが、
それがどのようなものなのか事前にわからないのに引き出しを肥やすというのは、そもそも矛盾しています。
今、ピッキングに力を入れています。
ギターのピッキングですよ。空き巣に転職しようとしているわけじゃないんです。
まぁ、そのピッキングですが
ピッキングを意識することが目的じゃなくて、出すべき音をコントロールできるようになるために、その手段としてピッキングを意識しているのですが
ピッキングを意識することを忘れても、自分が出したい音を出せているように感じる瞬間があります。
でも、その「音」って、自分が聴いて心地よくても他人にとってはどうかという問題があって
なおかつその「他人」って誰?という話もあります。
堂々巡りになるので、いい加減この辺で終わりますが
気持ちよくギターを弾くためには、気持ちよくギターを弾いているだけでは不十分という禅問答みたいな話でした。
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