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組織ネットワークという切り口で、組織づくりに挑んだ話
こんにちは、株式会社アトラエの越智です。組織力向上プラットフォーム「Wevox(ウィボックス)」のPdMや事業開発を担っています。
弊社には、「HR」「人材開発部」のような人材開発や組織開発に責任を持つ組織は存在しません(※人事・労務を担っていただく方はさすがにいます)。というのも、一人ひとりがアトラエを理想の組織にするために何ができるかを考え、実践することがスタンダードです。なので、全員が「組織づくり」に参加しています。この記事では、私が私なりのアプローチで実践した事例について公開し、皆様に「#組織づくりの実践知」を届けられればと思います。
今回のテーマは、「組織ネットワーク」です!聞きなれない概念かと思いますが、扱えるようになるとパワフルで示唆に富んだデータだと思ってます。様々な人事データを分析してきた私なりに、組織づくりに取り組んでいる方に示唆のあるものになれればいいなという思いで執筆しました。(ちなみに、組織ネットワークに関する分析事例はあまり多くないので、先駆者になったような気分でもあります)
組織ネットワークとは?
皆様の組織でも、組織図だけでは説明しきれないほどの複雑な人間関係や情報フローを抱えているのではないでしょうか。例えば、部署や肩書きを超えた連携(e.g. 開発部と営業部の連携、メンターとの関係など)や非公式なつながり(e.g. 同期とのつながり、雑談など)のように色々なパターンがあります。それらを、組織図のような静的な情報ではなく、時間が経つと変化が生まれる動的な情報として捉えたのが組織ネットワークです。
組織ネットワーク分析(Organizational Network Analysis; ONA)は、一人ひとりの社員が組織内でどのようにつながっているのか、情報交換や相談、意思決定におけるキーマンは誰なのかといった、組織の「実際の姿」を可視化する手法です。
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実際に分析したデータとしては …
弊社Slackのパブリックチャンネルのデータを使用しました
今回は、Wevoxチームに限定して分析を行いました
メンションやリアクションなどを用いて総合的に数値化し、一定基準以上のやり取りがあれば「つながり」としました(細かいロジックについては非公開とさせてください)
月単位で、誰と誰がやり取りをしているのか集計しました
Wevoxチームの組織としての変遷(ざっくり)
※名付けは適当です。
2023年9月期「鬼シンクロ期」
(ほぼ)職能ごとにチームが分かれる
「鬼シンクロ」というスローガンのもと、積極的に他チームと連携し課題を解決する
利点:従来の組織力を活かしやすい、人数拡大期なので職能内でオンボーディングがしやすい
課題(抜粋):連携過多でハブ人材が疲弊してくる、やりっぱなしのプロジェクトが増える、振り返りの対象はチームになるので実際に連携する相手とズレる
2024年9月期「エリア期」
ミッションごとにチームが分かれ、職能横断型のエリアと呼ばれる単位が生まれる (私は当初、データサイエンティストとしてセールスエリアにいたりしました)
エリア内でプロジェクトが完結するような設計
利点や課題はONAの分析結果で明らかにします
分析内容
分析は2024年7月ごろに行いました。そのため、組織デザインの意図の達成度合いや時間経過なども踏まえた組織の「実際の姿」を可視化して来期の組織デザインに示唆を与えることを目的としました。
仮説
エリア期になり、チームごとの連携の分化が進んだ
エリア期になり、一人当たりのつながり数は減少する
エリアとして意図通りに機能しているかどうかは、エリアによって異なる(肌感覚由来の仮説)
結果①全体的に、連携は分化していった
点を人、線をつながりとして組織ネットワークを作成しています。また、所属するチームに応じて色分けしてます。ざっくり、近くにいる人とは似たようなつながりの傾向になり、コミュニティを形成します。また、その結果として重心の近くにいる方はコミュニティのハブ的な存在といえます。
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組織ネットワークのデータを使って、”分化スコア”なるものを算出してみました。分化していくと橋渡しをするようなつながりの重要度が増す(それが1つなくなるとネットワークがより分断される)ことを利用したスコアでして、スコアが1に近づくほどネットワークが分化していることを表します。結果として、エリア期になると分化スコアが上がり、それから半年ほど経つと分化スコアが下がってくる傾向にありました。
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結果②個別では、連携は増えずに済んだ
個々人のつながり数の分布や年間推移について見てみました。詳細控えますが、一人当たりのつながりの数の平均値は、3.92(2023年7月)→3.59(2024年7月)となりました。よって、連携は増えずに済んだと言えそうです。
結果③チーム別では、連携の仕方に色が出た
組織ごとにネットワークを見てみると、どのような連携をしているかが如実にわかります。
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結果まとめ・考察・どうなったか
ONAを行ったところ、エリア制の良いところはつながりをミッションに集中できるよう最適化しようとするところにありそうです。結果として、分化度合いが高まったっぽいです。
一方で、ミッションや役割を適切に設定できる・アップデートし続けることが必要な施策でもあります。結果として、エリア期終盤に分化スコアは悪化し、あるエリアでは分裂が起きたように思います。
これらの情報を参考にしつつ、エリアよりももう少し小さい単位(セクションと呼んでます)をチーム単位にして目標志向性を高めるような組織施策と連動する形に今期からアップデートされています。
最後に:様々な人事データ分析をしてきた私の実践知
ONAを行ってみて、改めて確信したことは、「完璧な分析なんてできないが、それでも意味のある分析はできる」ということです。今回の分析に関しては、あくまでSlackだけのデータですし、DMは当然用いてませんし、阿吽の呼吸のような関係性は当然取れません。他の分析に関しても、ヒトや組織に関するデータは完全な状態でないことの方が多いです。サーベイの回答率が100%になることは基本的にありませんし、設問項目次第な側面もあります。生体データを取ろうにもノイズだらけです。倫理やプライバシーにも目を向けなければなりません。
それでも、組織づくりに役立てられるようにトライしたのが上記の内容です。ぶっちゃけ分析なんて解釈の切り口の1つを提供する行為でしかないです。どうせどんな分析にも制約や限界点はあるので、そこからどう真実や未来を見極めるかの方が(個人的には)大事だと思ってます。数学関連の有名な名言に「All models are wrong, but some are useful.(全てのモデルは間違っているが、いくつかは有用である)」とありますが、本当にその通りだなと思うようになってきました。
この分析に関して最も面白かったのは、このような実験的な分析をアトラエのみんなが面白がって様々な議論が起きるところです。あーだこーだ言いながら、時には弊社バーで酒を飲みながら、どのような組織づくりができるかアイデアを膨らませる時間は私のお気に入りの時間の一つです。
さて、そんなディスカッションに参加したい、我々と理想の組織が作りたい、こんな分析がしてみたい、などのお声に応えられるくらいアトラエでは採用も積極的に行なっています。少しでも興味をもっていただけたらぜひ、お気軽にご連絡ください。
また、他のメンバーの「#組織づくりの実践知」についてもぜひ覗いてみてください!