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林間学校に猿が出て説教された話


これは僕が小学校5年生の頃の林間学校の時の話。僕達は長野の志賀高原に行った。

学校から志賀高原へ向かうバスの中で、バスガイドさんが注意喚起をした。

「この付近には猿が出ます。もしも猿を見かけたら、絶対大きな声をあげたりしないでくださいね!」

僕は話を聞きながら、猿なんて出るわけないと思いつつバスの外を見ると、カモシカがのそのそ歩いていたのでかなりビビった。世界最速でフラグを回収した瞬間である。


その日、ホテルに着き、夕食を済ませた帰りのこと。

エレベーターで僕達のグループの部屋のある階に着いたその瞬間である。

「猿だ!!!!」


と廊下の奥から声がした。隣のクラスのイトウ君の声だった。

一緒にいたグループの友人達も急な出来事にかなり焦り、機転を効かせたインテリメガネがエレベーターの「閉」ボタンを押した。

「マジ?」「やばいやばいやばい」

降り過ごしたエレベーターは上の階に到着し、僕たちはとりあえず降りた。

「マジで猿が出たとしたらここで降りるのもやばくないか?」

「先生に知らせた方が良くね?」

僕を含め、グループ内で作戦会議をしていた。

部屋に戻りたいが、下の階に降りるのが恐ろしいし、今廊下にいることさえ恐ろしかった。

「もしエレベーターに猿が乗ってきて、ここまで来たらもっとヤバいぞ」

普段あまり喋らないインテリメガネが深刻そうに告げたのを聞いて更に焦った。

冷静に考えてエレベーターに猿が乗るってどういう状況なのか分からないが、インテリメガネが言うなら乗るんだろう。

しかもエレベーターのランプはまたこの階に向けて上がってきていた。その事実に恐怖心はピークを迎え、とにかく自分たちの部屋に戻ってしまおうと、階段を駆け下りた。

部屋の前についた途端、廊下が騒がしい事に気付く。そして、隣のクラスの先生の声も聞こえた。

どうやら本当に猿が出てしまったらしい。

僕たちのグループはビビりながら部屋に戻り、大人しく布団をひいて寝る体制に入った。普通こういう時は枕投げしたりUNOやったりするものだろうけど、みんな猿が怖かった。猿は子供を黙らせる。

「猿ってマジでいるんだな.......」

「襲われたらどうしような.......」

そんなことを言い合いながら眠った。次の日は朝礼のために、6時にはみんな起きていた。

朝礼はホテルを出た広場で行う。

僕たちは1列に体育座りをした。朝礼が始まる。

「朝礼の前に、伝えたいことがあります」

昨日、猿の出た階にいた先生が話し始めた。

「昨日の夜、廊下に猿が出ました」

ザワつく生徒。怯え出す女子グループ。

そして、何故か笑い出す隣のクラスの男子グループ。それを見て僕は(一体何がおかしい?)というこれから逆転される主人公みたいな感情を抱いた。

先生は続ける。

「猿が出たのにも関わらず、猿だ!と叫んでいた人がいます。言語道断です。昨日バスガイドさんにも言われましたよね?動物園の猿とは違います。本当に野生の猿は危険なんですよ?ズケズケベラベラ」

説教が始まった。結局猿のことでセーブしないで電源をオフにした時のリセットさんばりに20分程説教され、肝心の朝礼は5分で終わった。野生の猿1匹で20分話せる先生、今考えるとなかなかにヤバいと思う。


しかし、この事件には真実が隠されていた。

朝礼の帰り際、僕たちのグループに寄ってきたタレコミ屋、ムラヤマ君によって真実が明らかになる。

「猿出てないよwww」

「は?」


隣のクラスにはアカツカ君という目がクリクリした男の子がいる。彼が昨日の晩御飯を終え、ホテルの廊下を歩いていたところ、イトウくんは彼を見つけて叫んだ。

「あっ猿だ!!!!」

そう、アカツカ君のあだ名は「猿」だったのだ。そこにたまたま通りかかった先生が声を聞き、イトウくんを部屋へと押し込み、「どうして逃げなかったの!!!!」とブチギレたらしかった。引くにひけなくなったイトウくんは「すみません.......」と言ってしまったことで猿が出たという事実が出来上がってしまったのである。

僕たちはそういえばアカツカ君のあだ名は猿だったな、と思い出し、部屋で死ぬほど笑った。多分小学校6年間で1番笑った。


そして、その真実は11歳の生徒たちによって隠されたまま、林間学校は終わった。

ちなみに次の日からアカツカ君のあだ名は「レッド」になった。もう誰も彼を猿と呼ぶ人はいない。

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