Dr.Stone 171話と大気屈折を考慮した地平線までの距離
Dr.Stoneの171話
今週号のジャンプ掲載のDr.Stone171話の一コマに「光の高さは目視だが2万メートルほどか」「大気の屈折率が6%だとすっと地平線が光んのは500km先だ」という会話がある。空気の屈折率は、常温常圧で1.0003程度であり、"大気の屈折率が6%"というセリフは一瞬意味が分からない。
問題としては、「高所からの発光が、海抜0メートル地点で見える最大距離を計算する(但し、地球の形状は完全な球体としていい)」というものができればよくて、上のセリフは、大気の屈折率の高度依存性のために光線が直進せず微妙に曲がって進み、地平線までの距離は、光線が直進すると仮定して計算した値より6%ほど大きくなるということだろう。これを"大気の屈折率が6%"と表現するのは、用語の使い方が流石におかしいと思う。
言葉の使い方はともかく、そう解釈した場合、6%という数値は妥当なのだろうか。例えば、地上から見渡せる距離 - 高精度計算サイトというページにも、"地球を半径6378kmの球体とし、見渡すエリアに障害物がないと仮定します。また大気の屈折により6%遠くまで見えると仮定しています。"と書かれていて、巷に出回ってる数値らしい。
巷に出回ってるとはいえ、根拠の不明な数値は気持ち悪いので、この6%の出処を知りたいと思ったが、探しても見当たらなかった。仕方ないので、自分で計算した。
大気屈折のモデル
同じ地点であっても、大気の気圧、温度、湿度などは常に変動しているので、同一地点に於ける大気の屈折率も一定ではなく変動しているが、その変化を予測するのは不可能なので、屈折率が、地表からの高さのみに依存するという単純なモデルを考える。その場合でも、屈折率は連続的に変化することになるけど、屈折率が一定の層が何層も積み重なってていて、各層の屈折率は異なってるという状況を考える。
イメージとしては、以下の図のような感じ。hは地表からの高度を表す。
層内では屈折率が一定なので光線は直進し、異なる層に入射する時のみ屈折を起こす。光線の軌道は、折れ線で近似されることになる。各層の厚さを極限まで薄くしていくと、実際の光線軌道に近付くだろうと直感的に考えられる。
各層の光線軌道を円弧で近似するということを考え、円弧で近似した時の円の半径を曲率半径と呼ぶ。ちゃんとした説明は数式なしに出来る気がしないので、詳細は以下の画像の通り。
結論として、光線の曲率半径は、屈折率(高度のみに依存するとしていた)の高度による微分の逆数で計算でき、特に、大気の屈折率の高度あたりの変化率が一定の時は、光線軌道を、ある半径の円弧と同一視できる。
屈折率が大気高度によって、どう変化するか分からないと、光線の曲率半径を決定できないが、その前に、大気屈折がある時とない時で、地平線までの距離が、どう変化するか計算しておく。
光線軌道のモデル
以下では、特に断ることなく、光線軌道が大気屈折によって曲げられる時、ある中心点周りの円弧上を動くと仮定する。
高さHで発光する光線が、到達可能な地平線で最も遠い位置に到達する時の軌道は、模式的には、以下の図のようになるだろう。赤い実線が光線軌道を表し、青い実線は、地球表面の海抜0メートル地点を表すとする。
図はかなり誇張して書かれてるけど、本当は、Hは、地球の半径より、ずっと小さくないといけない。高さHの高所から見える地平線までの距離Dを計算する。計算は、高校生レベルだけど、以下の通り。
一番最後の行の結論だけが必要。
大気屈折率の高度変化
最後に、大気中をほぼ水平に伝播する光線の曲率半径を決定しなければならない。大気の屈折率に影響する要因として、圧力、温度、湿度、二酸化炭素濃度がよく考慮されるけど、湿度と二酸化炭素濃度は、高度との関係が明確でないので、圧力と温度のみを考慮することとする(湿度と二酸化炭素濃度の影響は比較的小さいということもある)。
空気屈折率の値は、気圧1hPaで0.27ppm、温度1度で-1ppmと言われている(1ppmは百万分の一)。0度1気圧の空気の屈折率が1.000292で、真空の屈折率は1.0なので、大気圧を1000hPaとすれば、1.000292と1.0+1000*0.27e-6=1.00027は割と近い。
一方、気圧、気温と高度の関係はよく知られており、標高が1000m高くなるごとに気圧は、100hPa下がる。気温は、標高1000mごとに6.5度下がると言われる(気温減率)。
以上から、屈折率は、高度1kmごとに、0.0000205程度小さくなると計算される。この場合、大気屈折する水平光線の曲率半径は、48780(km)ということになる。地球半径として、6378kmという数値を使うと、地平線までの距離は、7.3%ほど大きくなる。
気温減率として、乾燥断熱減率(1000mごとに9.8度。これは熱力学的に計算できる)を使うと、大気屈折する水平光線の曲率半径は58140(km)となり、地平線までの距離は、約6%大きくなる。
地平線までの距離が大気屈折の影響で変化する割合は、代表的な数値の選び方によって、多少変動するが、6%という数値の根拠は理解できた。
適当な誘導をつければ、大学入試くらいの問題になりそうに思える。
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