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光る水面が美しいから

 高校生の頃、所属していたオーケストラ部が大変実力社会で、1年生の頃にたまたまコンクールメンバーのオーディションを勝ち抜いた私は、それからずっとその部活動の中で暗闇に浸っていた。
 一番苦しかったのは、小さなレッスン室で、7人の同学年のフルートパートのメンバーと円を作り、話し合いという名の元私のメンタルを滅多刺しにする会が行われたことだ。同じパートには唯一心を許せる友がいたが、その会には偶然にも彼女はいなかった。私の嫌いなところを一人一人が連ねていく。私は全ての言葉を受け止めていたけれど、気づいたら意識が朦朧として、天地が逆転した。それでも罵る言葉が止まなかったことは覚えている。そしてその場には顧問もいたはずである。

 私は確かその夜に、風呂の湯船に頭の先まで浸かり数分そのまま息を止めた。少し苦しくなってきた頃にそれを続けるか止めるか悩み、母の顔が浮かんだとき、私は冷めた湯船から顔を上げた。涙を流していたことも、水の中でならわからないから、それもよかった。

 その時の感情が「死にたい」だったことにも、自分が鬱であったことにも気づいていなかった私は、ただただフルートを吹く時にだけ幸福だったためその部活動を辞めることなど考えもせず、気づけば副部長にもなっていた。

 暗い海に沈んでいるような3年間だった。それでもフルートを吹けば揺れる水面を通して私の元へ光が差し込んでくる感じがした。その美しさに取り憑かれるようにして私はフルートを鳴らしていた。

 大人になってから精神を壊したとき、私は狂ったようにすみだ水族館に行った。ここの水族館はライトアップがトップクラスに綺麗で、私はよく、魚ではなく揺れる水面の写真を撮った。そればかり見ていた。

 私が高校生のときに壊れていた何かについて理解したのは、このようにして大人になって美しい揺れる水面を見たときだった。

 今でも私は水が好きだ。水に溶ける自分というのは、他の何かになれているような気がするのかもしれない。

 最近の私もいつも暗闇に沈んでいるようだ。泳いだり沈んだりしてみようか、差し込む光を求めて。

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以下、イシハラダイキさんとのポートレート。

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瑠璃
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