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AOTY2024 その1 DIIV - Frog In Boiling Water: ゆでガエルの寓話と現代社会の不安
DIIVが2024年にリリースした『Frog In Boiling Water』は、タイトル通り「ゆでガエル」の寓話を軸にしたコンセプトアルバムである。このアルバムは、資本主義の進行とともに徐々に熱されていく社会の中で、人々が気づかないうちに危機に陥る様子を描いている。ダニエル・クインの小説『The Story of B』で語られる寓話にインスパイアされ、現代社会における危機感の欠如や、それがもたらす破壊的な結果を暗示している。
アルバムのサウンドは、シューゲイザー特有のドリーミーな音像に、グランジの粗削りなエネルギーを加えたものだ。DIIVはこれまでの作品で、透明感あるメロディと重厚なギターサウンドを特徴としてきたが、本作ではさらに深化し、より複雑で力強い構成を見せている。特に、アルバム全体を通して聴こえるリズムの緊張感やギターの層の厚みが、現代社会の不安定さを象徴している。
収録曲「Brown Paper Bag」では、消費社会における個人の疎外感がテーマだ。歌詞では、物質主義に埋もれる日々の空虚さが繊細な言葉で表現されており、そのメロディと相まって深い余韻を残す。一方で、「Soul-net」は、デジタル社会の光と影を描いた楽曲で、ネットワーク化が進む中での孤独感を浮き彫りにしている。この楽曲は、特設ウェブサイト「soul-net.co」と連動しており、視覚的にもアルバムのテーマを補完している。(ページはこちら→https://soul-net.co)
また、アルバム全体を通じて、環境危機や経済の不均衡といった資本主義が生み出す負の側面が、鋭い視点で描かれている。DIIVは、ただの社会批評に留まらず、アートの力でそれを聴き手に実感させる方法を模索しているように感じられる。例えば、アルバムのクライマックスである「Raining On Your Pillow」では、ディストーションのかかったギターと不規則なリズムが混沌とした音世界を作り上げ、社会的な崩壊を音楽で体現している。
本作の意義は、現代社会の問題を描き出すだけでなく、それをアートとして享受できる形に昇華している点にある。DIIVは『Frog In Boiling Water』で、リスナーにただ音楽を聴かせるだけでなく、社会への問いかけを投げかける。それは、現代社会における「危機的状況」を、無意識のうちに受け入れてしまう私たち自身の姿を映し出している。
このアルバムは、単なるサウンドスケープ以上の意味を持つ。DIIVは、音楽を通じて私たちに問いかける。「気づかないうちに茹でられていないか?」と。『Frog In Boiling Water』は、その問いかけに対する私たちの答えを探すためのヒントを提示していると言えるだろう。
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Somber The Drums
Everyone Out