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AOTY2024 その2 Vince Staples - Dark Times: 内面の葛藤と社会の影を描く深淵な旅
Vince Staplesが2024年にリリースした『Dark Times』は、タイトルが示す通り、個人と社会の「暗い時間」に焦点を当てたアルバムだ。これまでの作品で、彼はしばしばコンプトンやロングビーチといったストリートの現実を描いてきたが、本作ではさらに深く、自身の内面や社会の根底にある問題に迫っている。
『Dark Times』の音楽性は、Staplesのこれまでのスタイルを継承しつつも、新たな方向性を示している。プロダクションはミニマルでありながらも緊張感を漂わせ、トラップの影響を受けつつも、ジャズやクラシックの要素が織り込まれている。この独特の音像は、彼が描き出す重厚なテーマと見事に調和している。
収録曲「Étouffée」では、Staplesがストリートライフの矛盾や自身の成功に伴う孤独を語る。この曲では、カリフォルニアの乾いた風景が、彼の歌詞を通じて目に浮かぶように描かれている。一方、「Liars」では、ジェームズ・ボールドウィンとニッキ・ジョヴァンニの対談をサンプリングし、真実と虚偽の曖昧な境界を探求している。この曲の中で彼は、現代社会における情報操作や、個人の信念が試される状況を鋭く批評している。
また、「Radio」では、メディアと消費社会への皮肉を込めつつ、ステイプルズ自身がその一部であることへの複雑な感情を歌う。この曲のキャッチーなメロディラインと対照的な重いテーマは、聴き手に印象的なコントラストを与える。一方、アルバムのハイライトの一つである「Black & Blue」では、DJスクリューの影響を受けたプロダクションが施され、過去の音楽的遺産に対するリスペクトと現在の自分の位置を織り交ぜている。
『Dark Times』の核心は、個人の内面的な苦悩と、それを取り巻く社会の不条理を音楽として昇華している点にある。Staplesは、自身の痛みや葛藤を隠すことなく表現し、同時にリスナーに対して自分自身と向き合うことを求めている。それは、音楽が単なるエンターテインメントではなく、自己と社会を理解するための媒介であることを示している。
このアルバムは、Vince Staplesの音楽的成熟を象徴する作品であり、彼のキャリアにおける新たなマイルストーンと言えるだろう。『Dark Times』は、内なる闇と社会の影を描き出し、リスナーに問いを投げかける深遠な作品である。
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“Radio”
Black&Blue