ガーネット #パルプアドベントカレンダー2024

 ――――イン、こっちに来て。ほら、こっちに。あ、走らないで。ゆっくり。ママの所に来て。

 上向いて。大丈夫。目瞑ってみて。……開けてみて。じゃん! どう? とっても綺麗なペンダントでしょ! ママね、内緒でサンタさんにお願いしてたの。ふふっ、ずっとママが帰ってくるまで良い子にしてたから。

 ――――ねぇ、レイン。このままママと、一緒に。遠い所に


 血飛沫がカウチソファの白色を汚す。飛び散った濁った赤色と共にこぼれる脳の一部と、力なく横たわる男の死体。その有様は悪趣味なスプラッタ映画の様にも思える。その死体を無表情で見下ろしながら、赤色の髪の女は拳銃を持つ腕を静かに下ろす。

「おい、音量下げろ」

 女の傍らに立つ革ジャンがそう言うと、煩く鳴り響いているステレオコンポの前に立つ金髪リーゼントが音量のつまみを回す。女は拳銃を死体の片手の指へと器用に絡ませると、着けている黒手袋を外してジーンズのポケットに突っ込み、平坦な口調で革ジャンに言う。

「終わり。金寄こせ」
「いや待てよ。ディヴァインさんに報告してからだ」
「たかが電話するのに後も先もねえだろ。帰りてえんだよ、さっさと寄こせボケ」

 女の怒気を孕んだ言葉に、革ジャンは軽く歯軋りをしつつ、あぁ……ったよとぶつくさ言いながらも懐から厚い封筒を取り出して女へと手渡す。女は即座にそれを受け取ると無言で部屋を出ていこうとする。のを革ジャンが引き留める。

「おい、ガーネット!」

 呼びかけられ、女、ガーネットは鬱陶しそうに足を止めて振り向く。革ジャンはつかつかと歩いてくると。

「ディヴァインさんがそろそろ顔見せろって言ってたぞ。後、ローワンが射殺は後処理が面倒臭いからもうやめ」
「話は終わりか。帰る」

 革ジャンの話を強引に打ち切り、踵を返してガーネットはさっさとドアを開いて部屋を後にする。その背中を呆然と見つめて革ジャンは舌打ちする。そうして居間の方に戻るとリーゼントが恐らく金品などを探っているのだろう、クローゼットを漁っているので後ろから背中を蹴る。

「ベタベタ触るんじゃねえよ、指紋付くだろうが」
「で、でももう俺らのもんだろここの物」
「余計な事すんなってローワンに言われてんだろタコ、大体お前……」


 寒風が一瞬身を過ぎり、ガーネットは羽織っているジャケットのフードを深く被ると、早足で雑踏の中へと紛れていく。ガーネット……とは女の本名ではなく、常に首元にガーネットの、否、恐らくガーネットの宝石を模した、安っぽい光沢を放つ玩具のペンダントをしている故、仲間内から呼ばれているあだ名だ。

 ガーネットの本名を知る者は殆どいない。一応、住まいを借りる為にそれらしい偽名を使っているが、実際彼女がどんな人間で、どんな育ちをしてきたのかは仲間内で知る者はいない。職業は殺し屋。正確に言えば、債務者……借金で首が回らなくなった人間を自殺に見せかけて殺す、そんな仕事をしている。

 手法は様々で一々記載はしないが、ガーネットは一発で終わるから、という理由で射殺をほぼ選んでいる。常に自殺に見える角度から正確に弾丸を撃ち込み、即死させる事から不自然さがないとガーネットのボスであるディヴァインは高く評価している。だが。


「は~……まーたかよ」

 この世の終わりの様に嘆く男が一人。凄惨な現場の様子に、ローワンは額に片手を当てて苦虫を噛み潰す。イラついた顔で革ジャンとリーゼントの方を向いて。

「言っただろ、殺るなら毒にしろって。現場検証で一々小突かれるのは俺なんだぞ!」
「い、いや、ガーネットには度々言ってるんですがあいつ勝手にぶっ放して……」
「お前らが首輪引っ張らねえで誰があの狂犬引っ張んだよ、クソが……」

 彫りの深い顔立ちと長身、だけならばどこか俳優と勘違いされそうながらも、頭の上に分かりやすい円形の禿げ模様を見せつけながらローワンは部下に指示を出し、自殺に見える様に作業に取り掛かる。

 ローワンはディヴァインの飼っている直球に言えば悪徳刑事である。主にガーネットら、ディヴァインの配下である殺し屋による現場を「自殺」として処理する事でその分の分け前を貰い私腹を肥やしている。表では高い検挙率を誇る優秀なベテラン刑事、という事になっているが、これもディヴァインが裏で手回しをしている故のメッキである。目下、刑事としての給与では生活が成り立たない為、ローワン自身はこの悪事には躍起となっている。

「そういや見つかったんですか、あの、手帳」
「あぁ?」

 ローワンが現場検証に不利になる証拠品を拾い上げていると、革ジャンが話しかけてきた。ローワンは証拠品をジップザックに放り込みながら。

「下っ端のお前に話してどうする……まだだよ」

 手帳、とはローワンがディヴァインから仕事として探す様に頼まれている、自殺した議員の私物の事だ。様々な裏取引が密かに記載された証拠品で、選挙が近い事もあり最優先事項となっている。

「その……俺がもし見つけたらディヴァインさんに
取り次いでもらえるんですよね、幹部候補になれる様に」
「見つけたらな。まぁ、お前は今のチンピラ仕事の方が性に合ってるよ。つうかいつまでいるんだ、さっさと帰れ」


 雑踏を抜けてしばらく歩いた後、ガーネットは自身が住む区域まで到着する。老朽化が目に見えて激しいアパートが立ち並ぶその住居区域は、壁に書かれた卑猥な落書きや、目つきの悪いストリートキッズらがたむろしておりお世辞にも治安が良いとは言えない。そんな区域でもガーネットは堂々としている。

 自分が住むアパートは255番地、4階建ての塗装が剥がれており至る所で瓦礫が剥き出しの、今にも大地震が来たら倒壊しそうな作りのアパートだ。出入口から入り、錆びている階段を昇っていくと、上段に酒を片手に泥酔している老人が座っている。ガーネットは小さく溜息を吐いてその老人に呟く

「……おい、爺さん。また風邪ひくぞ」
「だ、誰だ……マリアか? 帰ってきて、くれたのか……」
「隣人だよ……」

 やれやれ、とガーネットは老人の隣に座って、ゆっくりと肩を担いで立ち上げさせる。そうして牛歩で廊下を歩いて、やがて老人が住んでいる部屋のドアの前に立つ。ドアノブを触ると鍵をかけていないのか、ドアが開く。全く……とぼやきながら玄関に入り、ガーネットは老人を玄関先へと腰掛けさせた。

「鍵だけは掛けとけよ。ガキどもに……」

 とガーネットが忠告するまでもなく、そのまま老人は寝息を立て始める。馬鹿ジジィがよ……と呟いて勢い良くドアを閉めた。隣の自分の部屋のドアを開けて、ドアノブの鍵と勝手に取り付けた(この事に関しては大家を大金で黙らせている)二重三重の施錠をして、ようやく一息つく。

 ガーネットの部屋には何もない。

 いや、最低限、前の住人が残している冷蔵庫やステレオラジオ、電話などはあるがいわばインテリアと呼ばれる類の物……ポスターやカレンダーや本棚などが無く、簡素というよりも空疎だ。

 ジャケットを脱ぎ捨て、厚く着込んでいる防弾チョッキを取り外し、ベッドの下から古びたアタッシェケースを引きずり出して開くと、金を封筒ごと仕舞って閉じ、元に戻す。素っ気ないTシャツとジーンズなども脱ぎ、ガーネットはシャワーを浴びる。纏わりつく汗を洗い流し、新しい下着に着替えると黙々と日課を始める。

 鉄棒にぶら下がり筋肉が疲れるまで懸垂を淡々とやり続けて、次は腹筋、腕立て伏せを行う。ある程度の疲労が溜まると、もう一度シャワーを浴び、ベッドに横になる。そうして雑に置かれている文庫本を拾い上げて読み出す。

 別に中身は問わない。ただ、眠気を誘ってくれるのを期待しながら文字に目を通している。何やら老人が鯨と戦う話らしいのだが、ガーネットは別に面白くもなんともない。ただ無言で、文字を目で追っている。やがて――――その時が訪れた。柔らかな闇が、ガーネットを包み込んだ。
 

 起床。ガーネットはパチッと、閉じている瞼を開いた。すぐ目の前に見える壁掛け時計は既に正午を回っている。どうやら寝すぎた様だ。とはいえ今日は仕事の予定はなく、大して用事もない。のそりとベッドから起き上がり、眠気覚ましのスクワットをして、ガーネットは口に入れる物を探す為冷蔵庫を開く。

 ……が、ほぼ空だ。最近仕事を終え帰宅し日課をこなしてすぐに寝る……をサイクルとしてし続けていて、食事をするという行為がすっぽ抜けている。と言っても普段から大したものは食べていないが。面倒だが最低限のエネルギーは補給しなければならない。

 アタッシェケースを開き雑に札束を引っ張り出して、ガーネットは着替える。普段は防弾チョッキまで含めて一式として着替えるが、少し遠くのスーパーへと買い出しする位の用事なのでラフなパーカーといつものジーンズ(ロッカーには同じメーカーのジーンズしかない)を着用し部屋を出る。

 バスに揺られて、スーパーまで行く間もガーネットに特に感情はない。ふと、前の座先にいる赤ん坊がこちらに向かって手を振ったりなどしているが、振り返したりもしない。目的地に着き、買い物を済ます。紙袋の中にはパンやウインナーや冷凍食品、果物などが結構どっさりと入っているが、普段から上腕を鍛えているガーネットには小手先のトレーニング程度だ。

 バスを降りてからのいつもの雑踏は、両腕に紙袋を抱き抱えている分若干いつもよりも面倒だ。行き交う人々の波を避けるのが少し嫌気が差す。右へ左へと体を動かしていた、その時だった。

「うわっ!」

 どすん、と何かがガーネットの体にぶつかってきた。一寸、ガーネットのスイッチが入り殺意が出そうに――――なった手前。

「……おい」

 紙袋を少し上げると、尻もちをついている……ボサボサとした短髪や、薄汚れているジャンパーと帽子といった、はっきり言うとみすぼらしい姿の少年が見えた。あ、やべっ! とぶつかったガーネットを気にする事もなく、少年はすぐに立ち上がると脱兎の様な勢いで走り出した。

 何なんだ? と思いながらもガーネットは前を向いて歩き出そうとする、とその目と鼻の先、必死な形相のふくよかな夫人と、中年の制服警官が走ってくる。職業柄一応顔を見られるのは好ましくないため反射的に俯く。走ってきた夫人と警官の会話を盗み聞く。

「ちょっと、あの子供ここ来たわよね! 何で見逃してるの!」
「すみません何分すばしっこく……」

 という会話を聞いているとふと、ガーネットの視線に何かが映る。……財布だ。それも、一つではなく三つも。……なるほど、とガーネットは勘づく。別にだからどうする、と普段ならもう帰宅に足を早めるのだが、その日のガーネットは妙な事に別の事に関心が沸いている。丁度、「何故か」会計時の釣りが無くなっているのもある。

 雑踏から離れた路地裏。あのぶつかった少年が腰掛けて、ジャンパーの深いポケットに両手を突っ込む。まるで手品の様にそのポケットから複数の財布が出てくる。息を整えながら少年はその財布を一つ一つ開こうとした、時。

「おいガキ」

 突然上から降り注ぐ一声に思わず少年はビクッと体を強張らせる。顔を上げると自分を覗き込む、知らない女性――――ガーネットがじっと見下ろしている。少年は口をポカンと開けたまま言う。

「あ、あんた何で……お、俺をつけて……」
「釣銭返せ。ここにサツ呼ぶぞ」

 ガーネットの言葉に少年は歯を食いしばり財布の転がる地面を見つめる。見つめて、振り絞るような声で。

「い……イヤだ。これがなきゃ俺今日は」
「じゃあ呼ぶぞ、おーい」
「分かった返す、返すよ! えっと……」

 慌てた様に少年はポケットを引っ張りだす、とジャラジャラと小銭が散らばる。大した、どころか殆どはした金程度だってのにとガーネットは内心呆れる。そんなガーネットに対し少年はその小銭さえ必死な形相で拾おうとする。普段、他人に対して大して行動も起こさない(あの隣の老人は通行に邪魔だからだが)ガーネットだが……珍しい事にしゃがんでやり、その小銭を、拾い出す。

「あんた……」
「元々私の金だ、クソガキ」

 少年よりも素早く手早く小銭を拾い上げてガーネットは立ち上がる。もう用は済んだ。し、他人の財布に関してはどうでもいい。警察を呼ぶ云々もどんな態度をとるか興味本位でしてみただけだ。もう関心はないとばかり歩き出そうとした時だった。

「お、おい……呼ばない……のか」

 声色から驚いている様子で少年がガーネットの背中にそう言う。歩こうとしたが、ガーネットはつい足を止めてしまう。時間の無駄、だと分かっているのに。

「何をだよ」
「俺がスリだから……警察、呼ぶんじゃないのか」
「金は返ったし、お前がスリだろうが私に関係ねーよ」
「もしかしてあんた……」

 少年はごくん、と息を呑んで、言う。

「良い人……なのか」
「……はぁ?」

 思いがけない、それでいて間抜けな言葉にガーネットは反射的に振り返る。少年は何とも言えない……表情で、ガーネットを見上げている。良い人、な訳がない。あれだけ、債務者を殺し続けているのに。その少年の一種無神経的な言葉に無性に苛立ち。

「いい加減にしねえと……」

 と、何か言いかけた瞬間、少年の腹の虫が更に間抜けな鳴き声を発した。気恥ずかしそうに俯く少年に、ガーネットは沸いていた感情が急に、消沈していく。何をカッカしていたのかと自問してしまう程に。何とも言い難い沈黙の末……ガーネットは深い溜息と共に紙袋に手を突っ込み。

「これ食って消えろ……。下らねえ時間使った」

 そう言いながらガーネットは林檎を少年に差し伸ばす。少年はその変哲もない、どこにでも売られている様な林檎をやけに輝いた眼で見つめて、精一杯両手を伸ばして受け取る。それをじっと見つめると、やがて元気に食べ始めた。子供特有の食欲か、あっという間に林檎はやせ細った。

「お姉ちゃん、ありがとう……。俺、マジで何も、食べれてなくて……」
「お、おう……」

 その反応の良さに、ガーネットは敢えて冷徹な態度をとっていたが、ついその態度を忘れてしまった。少年はつかつかと近くに歩いてきて。

「その……あんたから小銭スって、ごめんなさい」
「あぁ……?」
「俺……どうしても家、帰れなくて……。殴られるんだ……」

 さっきまでの、林檎に元気に食べていた様子から明るさが消える。少年は言おうか、言うまいかを自分で悩む様な素振りを見せながらも、恐らくガーネットに対しては話せると思ったのか、僅かに顔を上げて。

「だからその……俺、みたいなのを匿ってくれる人たちがいてさ。けど、何か出来る事を見つけろって言われたから、学んで……」

 ……ダメだ、とガーネットは内心思う。ダメだ、と。このまま話していては――――情が移る。甘くなる。少年が次に何か言おうとしたのを先に制す。

「ダメだ」
「えっ?」
「……言っただろ。林檎食ったなら消えろって。私はお前に興味はない」

 そう言い切りガーネットは背中を見せて歩き出す。少年が追いかけてくる足音が聞こえてきたのを、鋭い声で。

「来るな。次は殺すぞ」
「お姉ちゃん……」

 振り向かず、声も掛けずにガーネットは歩き出す。もう情けなら掛けた。あの少年がどんな境遇だろうと、酷な目に遭っていようと自分には関係ない。関係がないと、頭の中で思い込む。自分の人生で手一杯だろ、お前は。他人の人生まで背負い込める余裕は、ないだろと。

「……レイン」

 ガーネットの耳が一瞬、反応する。

「俺、レインって名前なんだ、どっか……いつか!」

 少年――――レインの名前を聞きながらも、ガーネットは振り返らない。二度と会う事はないだろう。そう頭の中で決めつけて、ガーネットはいつもの帰路を行く。いつも階段で飲んだくれている老人は珍しくいなかった。自室に入り、日課をこなし……だが、妙な事に今日は何か本を読む気にはなれなかった。目を瞑って眠ろう眠ろうとするがすぐに眠れないのも最悪だった。

「……なん、で」

「何で……私と同じ名前、なんだよ……」


「チッ……クソが……」

 そんな日。常に無傷で仕事をこなすガーネットにしては本当に珍しく、債務者から予期せぬ反撃を受けてしまった。いつもの様に拳銃自殺を装う形で撃ち殺そうとした瞬間、債務者が逃げ出そうと抵抗、目に付いたフォークで肩を刺そうとしてきた。

 咄嗟にガーネットは体勢を低くしてタックルの要領で債務者を押し倒したが、その際フォークが目元を掠り、肌に切り傷を作った。どうにか右腕を押さえつけて横から頭を撃ち抜いたが、ガーネットにとっては一緒に現場に来た革ジャンとリーゼントにこんな無様な殺し方を見られた事が無性に腹立たしい。故に、金を受け取り自分で消毒液を塗り包帯を巻いてさっさと帰っている。

 ようやく自宅近くまで着いたから早く家に帰ろうと足取り早めようとした、時だった。偶然、目に入ってしまった。壁沿い、複数の―———恐らく全員男だ、そんな男達が誰かを囲んでいる。

 治安が最悪な区域な為、そんな光景であっても誰もが素通りするが、つい、ガーネットは目を向けてしまう。いかにもイキった星条旗のジャンパーを着た男が寝転がる誰かを蹴りつける。

「辞めてえってのはどういう意味だぁ? テメェにスリを教えたのは誰なんだよ!」

 男はその後、上から何度も踏みつける。周りの連中はニヤニヤと助けるでも男を止めるでもなく眺めているだけの、胸糞悪い光景。ガーネットは足を止めて、気づいてしまう。その、蹴られているのが……。

「ろくに盗みも出来ねえクソガキが、一丁前にほざいてんじゃねえ!」

 星条旗がきっと顔を踏み付けようと足を高く上げた、瞬間。

「おい」
「あ?」

 宙へとはじけ飛ぶ前歯。片方の鼻から血をブシュっと吹き出しながら、星条旗はグラグラと不格好な千鳥足をすると、豪快に地面に転倒した。ガーネットは力強く握っている拳を開く。目を見開いたり、驚きから固まっている星条旗の仲間達を見据える。

「殴られ役ならなってやるよ。殴れるならな」
「何だテメエ! 誰だよ!」

 その内の一人が携帯ナイフを取り出して威勢よくガーネットへと斬りかかる。だが、ガーネットは開いている左手で、即座にナイフ男の喉仏目がけて突き立てる。カホッ……と咳込む隙を突き全力で股間を蹴り上げる。激痛により、ナイフを落として震えながらナイフ男はその場にうずくまった。

 残りの連中が慌ててその場から逃げ出した。その情けない逃走を見送りつつ、ガーネットは先ほどから動いていない――――レインの元へとしゃがむ。痛ましく顔が腫れており、呼吸も不規則だ。

 クソっ……クソっ、他人の人生に関わる……関わるなって……クソっ! と迷いを振り切って、すぐレインをどうにか両腕で抱き抱え、来た道を戻る。記憶の……記憶の中ではこの先のブロックに夜間でも受け入れてくれる病院がある筈だと思い、疾走する。

 次第に呼吸が浅くなるレインに歯軋りしながら必死にガーネットは走る。――――見つけた。まだ、出入り口が点灯している病院だ。前に立つ警備員がただ事ではないガーネットに呼びかけようとするのを聞かず、兎に角ガーネットは通路で叫ぶ。

「おい誰か、えっと……誰かこいつを、治療してくれ! 死んじまう!」

 その声に反応してか、数人の看護師が慌てて駆け寄ってくる。すぐにレインを乗せる為にストレッチャーが用意され、ゆっくりとレインがその上へと寝かされる。治療の為だろう、運ばれていくのをガーネットは立ち尽くして見つめていると、恐らくベテランらしい看護士が恐る恐る話しかけてきた。

「あの……失礼ですが貴方あの子の……お母さん?」
「私は……」

「私は……あの子の姉だ」

 ――――それから、レインはどうにか息を吹き返し、入院となった。顔や頭への打撲は確かに酷かったが命の危険にまではギリギリ及ばず、また、手足は擦り傷位だったのもあり推定1~2週間程度で退院できるという。

 自分でも何してんだと思いながら、ついガーネットは経過が気になり、休みになると様子を見に行ってしまう。本当の姉でもないし、どころか他人でしかないのだが、構ってしまった手前変な責任感が沸いてしまった。

「おい、元気か」
「ガーネット! うん、順調だよ!」

 レインはガーネットが来るたびに、とても嬉しそうに笑う。ガーネットが見舞いで持ってくる果物やお菓子を残さず綺麗に頬張り、かつただ睡眠の導入の為に使っていた本をどれも初めて読むのか、食い入る様に読んでいる。ついでに、どうにも本物の姉でもないのに姉と呼ばれるのもむず痒いので、ガーネットと呼ばせている。

「ガーネットって読書家なの? 沢山本持ってるよね」
「あ? 寝れねえから薬代わりにしてるだけだ……」
「そうなんだ……勿体ないね」
「ぶん殴るぞお前」

 ……みたいな、軽口の会話もこなせるようになっている。レインとこうして一緒の時間を過ごしているとガーネットは何故だか妙な、安堵を覚える。こんな感覚、久しく忘れていた。人と楽しく、会話するという事を。

 もうそろそろ退院の目処が立ち始める頃、ガーネットはいつもの様に見舞いに来た。

「おい」
「あっ、ガーネット!」

 ふと、レインの手元にとても厚い、黒皮カバーの本、らしき物が開いているのをガーネットは見かける。その視線に気づいたのか、レインが慌ててページを閉じて手で隠そうとする。

「何だそれ」
「これ……これはガーネットにも見せられないよ」
「つうかそんなのどこに隠してたんだよお前……」

 ガーネットの当然の疑問に、近くでにこやかな看護師がレインに断らず説明してしまう。

「運ばれてきた時、服の中に入れてたみたいです。よっぽど大事な物みたいで」
「あっ、あ~……」
「……手帳か?」

 ガーネットの言葉に、レインは観念した様にそれをシーツの上に置く。本当に立派な表紙の、レインの手には余りそうな大きさの手帳だ。それも奇妙な事に裏側から使っている様だ。

「……中身、は見ていいか?」
「ガーネットになら……笑わないでよ」
「笑う訳ねえだろ」

 そう言いながら手帳を紐解く。そこには拙いが、一生懸命な字でアルファベットの綴りや、多分ガーネットが持ってくる文庫本を書き写している文章が書かれている。……表側をひっくり返し、ガーネットは読み出す。そこには、レインではない筆跡でビッシリと何らかの文章が書かれている。どうやら共和党の議員の交流関係や、数多の企業からの献金の詳細が記載されている。ガーネットは感情を抑えながら、レインに聞く。

「……お前、これ、どこで拾った? 買った訳じゃないだろ……?」
「何か橋の近くで落ちてたんだよ。使えそうだから勿体ねえなって。裏側は何にも書いてないから勉強に使ってたんだけど……」

 大して世間のニュースを知りもしないガーネットだが、直感で分かる。これは、レインを確実に危険に晒す物だと。ついでに言えば、自分も。その手帳を閉じると、看護師に聞かれないようにガーネットはレインにそっと近づき、耳打ちする。

「ここを出るぞ」


 数日前。

 車内でローワンは突っ伏している。その俯いている顔に生気が薄く、まるでゾンビの様だ。

「あ~……クソっ!」

 衝動的にハンドルをぶっ叩いて、ローワンは天を仰ぐ。見つからないのだ、例の手帳が。もうそろそろ余裕がない。住宅ローン、子供の進学費用、妻からせびられている別居費用……と、頭を抱えたくなる事が多々あるが、なによりもしディヴァインから制裁が告げられたらと思うと胃液が逆流しそうだ。だが、実際手帳は見つからない。

 ……もういっそ、逃げるか、何もかもから。無意識にホルスターに入れている拳銃に手が掛かりそうになった、その時だった。助手席に放り投げている携帯が振動する。一旦、拳銃に差し伸ばす手を止めて、片方の手で携帯を拾う。根詰まっているからか誰かの電話かも確認せずに出る。

「……ローワンだ」
「ローワンさん俺です、現場で一緒になる……」

 あの革ジャンの声だ。こんな緊急時にふざけんなよと思いつつ、会話をしてしまう。

「……俺はお前のガールフレンドか? 殺すぞチンピラ」
「ちょ、ちょっと冷静に聞いてくださいよ。ガーネットの事なんです」

 ピクリと、ローワンの片眉が動く。まがりなりにも刑事としては経験を積んできたローワンの中で、何かが引っ掛かっている。これは、良い方向での引っ掛かり、刑事としての勘だ。

「話してみろ」
「ありがとうございます。その、あの女いつもだと仕事終わったら不機嫌にすぐ帰るんですけど、最近妙に柔らか」
「俺はお前の雑談聞きたいんじゃないんだよ、要点話せ要点を!」

 怒鳴られて革ジャンの声は分かりやすく弱弱しくなりつつ、その要点について話し出す。

「す、すみません……。なんか変だなって思って俺、バイクでアイツの事尾行したんです。そうしたらあいつ、病院に通ってまして」

 奇妙だ、とローワンは思う。何故ならディヴァインから得たデータではガーネットに身寄りはいない。母親は薬物中毒により自ら命を絶ち、父親は行方知れず、だからこそ、ディヴァインが幼少期から表向き孤児として迎え入れつつ、殺し屋として育て上げてきたからだ。メキメキと、ローワンの刑事の勘が冴えていく。

「それで? ガーネットが誰に会ったかお前見たのか」
「えっと、急いでそこらで帽子とか買って正体隠しながら見に行きました」
「お前やるじゃねえか。で? 誰に会ってた」
「何か……ガキです。けど、髪の毛の色がガーネットと全然違うからガーネットのガキでもなさそうですし、何なんですかね」

 繋がった。はっきりとした確証はない。だが、ローワンは決定づける。あれほど他人に対し関心も無かったガーネットがそれほど入れ込む子供。性格さえ軟化させる程の存在ならば、確実に何らかの理由がある。手帳に繋がる何かを。

「……ローワンさん?」

 急に押し黙ったローワンに革ジャンが怯えていると、ローワンは淀みない口調で言う。

「良かったなお前。出世させてやるよ」


「ガーネット……どういう、事なの」

 医者に外出許可を貰いつつ、ガーネットはレインを連れてアパートへと急ぐ。先ほどから張り詰めた表情をして話そうともしないガーネットに、レインは素直に怯えてさえいる。強引に手を繋がれていて、歩かされているのもある。

「どうしてすぐ……」
「説明してる暇はねえ。早くここから離れねえと」
「もしかして……」

 足が止まる。ガーネットは引っ張ろうとして、つい腕が振りかぶってレインの手が外れる。

「もしかして俺を……戻すの? あの、家に」
「……おい聞けよ」
「嫌だ……やだ!」
「レイン!」

 必死だった。ガーネット自身、こんな自分が信じられない。だが、ガーネットはただ、そうするしかなかった。しゃがんで、レインと同じ目線になる。こんな、らしくない事をする日が来るとは思わなかった。

「……お前を、死なせたくないんだ。私を、信じてくれ」
「……一緒に、いてくれる?」
「……あぁ。お前の事は……私が、守るから」

 そう言って、ガーネットは立ち上がる。自然に、レインの小さい手がガーネットの手を握る。もうすぐ、あのアパートに着く。後は急いで駆けあがり、部屋で逃走する為の準備をこなしここから出来るだけ遠くへと、逃げる。どんな手段を使っても。

 出入口は不気味なくらい静まり返っており、普段たむろしている様なストリートキッズらもいない。周囲を一瞥するが、それらしい殺意も感じられない。ガーネットはレインに顔を向けて言う。

「一緒に階段を昇るぞ、大丈夫か」

 レインはこくんと頷いた。足音を立てずに、ゆっくりと階段を共に昇っていく。……馬鹿に、静かだ。それに変な話だが、いつもならばいる、あの老人もいない。身を屈めながら階段を昇り切り、ようやく自室へと差し掛かる廊下が見えた時――――。

 いた。

 咄嗟にレインの口元を抑えながら壁に背を預ける。ガーネットの部屋のドアの前に3人、立っている。覆面を被り、その手にはどこから調達したのか、散弾銃が握られている。完全に殺しに来た事が伺える。恐らく住人達を脅して部屋から出させないようにしている事も。

 一瞬、このまま階段を降りてレインを連れてそのまま、逃げ出す事も脳裏をよぎった。だが、きっとディヴァインの魔の手は町全体に及んでいる可能性、その中でもはっきりとターゲットにされているのが自分だけだとすれば……と、ガーネットは思案する。もし、一握の希望を掛けるとしたら――――やはり。

 無言で、口を押えられたままのレインが不安げに見上げてくる。ガーネットはそっと腰を下ろすと、小さな、しかししっかりとレインに聞こえる声で、伝える。

「……レイン。良いか。ここで目を閉じて、耳を塞いでしゃがんでいてほしい。私が戻って来るまで、待っていてほしい」

 ガーネットの言葉の意味がよく分からず、ついレインは声を出しそうになる、だがガーネットは両手をレインの頬に当てて、ゆっくりと額を合わせて、言う。

「1分だけ……待っててくれ。すぐ、戻って来るから。良いか?」

 そう、頼むガーネットの目を見、レインは信頼を寄せる様に深く頷いた。そんなレインに頷き返し、音もなくガーネットは立ち上がる。だが状況は最悪である。待ち構えている……ローワン達が持つのは散弾銃。対し、今日仕事の予定がなく、レインの見舞いだけで出かけていたガーネットには、常に携帯している拳銃も仕込んでいる防弾チョッキも無い。おまけに、場所は遮断物の無い廊下。下手に出ただけで撃ち抜かれるのは容易に想像がつく。

 ……だが、ガーネットに不思議と恐れはない。病院を出る際、ドサクサに紛れ盗んできた治療用のメス2本の内、1本を手に持つ。……殺す。必ず、奴らを殺す。呼吸を整え、ガーネットは意識を「仕事」用に切り替え――――瞬間。

 ガーネットは走り出す。

 当然、その足音に気づいた――――リーゼントがガーネットに向けて銃口を向けた。ハンドグリップをスライドさせ終え後は引き金を引く、その動作よりも素早く、ガーネットは一気に体勢を低くして滑り込む様に足からスライディングしながら、メスでリーゼントの足首を切り裂いた。

「ギャッ!」

 耐えがたい激痛に短い悲鳴を上げて、リーゼントの手元が狂う。銃口の矛先が足元に向いて炸裂した弾丸は、右足を見るも無残な姿に変える。その場に立つ事も出来ず、リーゼントは口からごぼっと泡を噴きながら崩れ落ちた。

「テメェ!」

 激情した革ジャンがガーネットへと散弾銃を向けてくる。

「馬鹿! 落ち着け!」

 とローワンが制止するのも構わず革ジャンは乱射する。だが、ガーネットには当たらない。驚異的な反射神経で直撃をひらりとかわす。天井や壁面、床に開いていく乱暴な風穴。パラパラと煙たい粉塵が舞い散る。だが、ガーネットの姿は見えない。

「死ね! 死ねってんだよこのク……」

 革ジャンは気づく。自分の手首が妙に生温かい。まるで水でもこぼしたかのような感覚がして目を向ける。パックリと、手首が切れている。止めどなく流れる赤黒い血が小さな水たまりを作っている。

「は……あ?」

 その光景に驚きながら顔を上げた時、目の前に、ガーネットがいる。次の瞬間、首に真っ直ぐメスが突き刺さる。トドメとばかりにガーネットは掌底でそのメスを全力で貫いた。革ジャンは白目を向いて、意識を失う。否、命もだ。

「ガ……ガーネットォ!」

 残るは一人。ローワンが躊躇なく散弾銃を撃ってくるが、革ジャンの死体を盾にガーネットは突き進む。ボガン、ボゴンと人体から発されているとは思えない破裂音が鈍く響く。粉雪の如く舞う粉塵が次第に晴れてきた――――先に。

「くたばれクソ野郎」

 拾い上げた散弾銃の引き金を、ガーネットはローワンの胴体目がけて引いた。その衝撃でローワンの体は宙を飛び、ゴロゴロと廊下を転がった。仰向けになって動きも無い。……終わった、か。ガーネットは散弾銃を持ち続けたまま、トドメを刺す為に歩き出す。これで―――――――。

「ガーネット!! 危ない!」

 隠れていた筈のレインの声がして、ついガーネットの意識がそちらに向かった、時。腹部に、熱く重い痛みが捻じ込まれる。撃たれた、と気づくまで数秒かかってしまった。倒された筈のローワンが痛がりながらものっそりと起き上がっており、その手には拳銃が握られている。恐らく予備として持っていたのだろう。

 続けざまに、ローワンは二発目をガーネットへと放つ。放たれた弾丸は更に鳩尾近くへとめり込む。立っていられず、ガーネットは両膝をついて散弾銃を床に落とした。体が震えて、視界が定まらない。

「今まで散々よぉ……コケにしてくれたよなぁ、クソガキ!」

 形勢逆転とばかりに立ち上がり、拳銃を向けながらガーネットの前まで歩いてくる。その表情には笑みが浮かんでおり、楽しくて仕方がないという感情がありありと見て取れる。

「やっぱり神様ってのは……正しい人間に微笑むんだな」

 とうとう目の前に、ローワンが近寄る。ガーネットの頭部に銃口を突き立てて、狂喜に震える声で。

「俺の幸せにために死ね」

 万事―――――――と思われたその時だった。

 「ワシの娘を……殴るな!」

 ローワンの後頭部を木製バットがぶっ叩く。はっ? とその全く予期せぬ方向からの攻撃に、ローワンは怒りよりも先に困惑する。反射的に跪きながら後ろに顔を向けると、見知らぬ老人が息を荒げながら木製バットを持っている。誰だ、こいつ、誰だ? 頭の中を困惑と疑問が支配しだすのを横っ面から殴打されて打ち消される。

「……爺さん、酒、飲んでねえのか今日は」

 ガーネットが苦笑しながら、あのいつも飲んだくれている老人にそう呟いた。全く状況が飲み込めていないローワンに、痛みを堪えながら立ち上がったガーネットは散弾銃の銃口をこつんと額にぶつける。

「正しい奴が何だって?」

 ローワンは拳銃を指から滑り落とす。落として両手を上げながらガーネットに命乞いする。

「おっ、おい、待てよ違うって、あれはちょっと、調子乗ったんだよ。つうか俺は刑事だぞ、俺を殺したらお前、お前……大変だぞ。なぁ待て、お前色々前科もあるだろう。お前俺とディヴァインが懇意なの知ってるよな。だから俺が口利きすればおま」
「話がなげえよハゲ」

 
 全てが終わった。地面に散らばるローワンだったものを踏み潰しながら、ガーネットはようやく、レインの元に歩く。とはいえ、もう意識が途切れつつある。

「……よぉ。待たしたな」

 腹部を抑えながらガーネットは微笑む。そんなガーネットにレインは目に涙を浮かべながら、抱きついた。抱きついて。

「ごめん、俺が、俺があの時……」
「お前は……悪くないよ。私が、甘くなっただけだ」

 ガーネットは震える手で、ジャンパーのポケットから自室の鍵を取り出す。摺り足でどうにかドアの前まで歩み、全ての鍵を開けた瞬間、崩れ落ちた。

「ガ……ガーネット!?」

 倒れたガーネットにレインが寄り添う。残った力を振り絞ろうとするが、もうダメらしく、ガーネットは上半身を起こすのがやっとの様だ。

「救急車……救急車!」
「……呼ぶな。分かるんだよ……。すげえ、眠いんだ。もう」

 ガーネットはそっと、レインを抱き寄せる。

「……ベッドの下に、デカいケースがある。12……25で、開く」
「ガーネット……やだよ」
「……そん中に、溜めた金が、ある。持ってけるだけ……持ってけ」

 段々、視界を覆う闇が色濃くなってきた。ガーネットの目にはもう殆ど、レインの顔は映らない。ただ、体温だけは確かに感じる。

「嫌だ……死なないで、一人にしないでよ……」
「お前は……賢い。きっと……大丈夫だよ」

 優しい声で、ガーネットはレインの頭を撫でながら、言う。

「……私も、レイン、なんだ。本当の……名前」
「えっ……」
「やっぱり……好きだなって、この、名前」

「ありがと……な」

 そう、言い残しガーネットは目を閉じた。どれだけレインが泣き叫び、体を揺すり、起こそうとしても、もうガーネットは二度と目を開ける事はなかった。

 翌日、このアパートは強盗団の仲間割れによる銃撃戦、というニュースで大きな騒ぎになった。だが住人達は誰一人、レインについて記者に話さなかった。


 NY。とあるカフェのテラス席に、深く帽子を被った、一人の青年が座っている。どうやら誰かを待っている様だ。と、その向かいの席に慌ただしく男が座った。

「済まない、待たせたね」

 男を見、青年はそちらに向き合う。男は懐のケースから恐らく名刺を取り出して、テーブルの上に置く。

「改めて、ジャーナリストのライナスだ。君が情報提供者の……」
「ガーネット」
「……という偽名でいいんだよな。それで……」

 青年はテーブル下の鞄から分厚いフォルダと、そこに―――――――黒皮の手帳を取り出して置いた。置いて、ライナスに言う。

「あんたを信頼してこれを預けたい」

 青年の首元にかけられた、ガーネットを模したペンダントが太陽に反射して眩く光る。

「―――――――ぶっ倒したい、奴がいる」




~余韻ぶっ壊し後書き~
 くぅ~楽しく書けました!! ここまで読んで頂き大変ありがとうございました、梶原です。去年初めて参加して、その時はちょっとどれ位自由で書いていいかの深度を掴むので必死で、楽しく書きつつもクリスマスという題材を意識し過ぎた感じもあったので……。
 今回はもう弾けて自分の好きな物(殺し屋、クライムアクション、ある意味師弟関係、ゲスいけど強い悪役、散弾銃諸々)をぶち込んだ癖1000%な作品になりました。この時期に読んで貰うには陰惨で血生臭い作品になってしまいましたが、自分の中の理想のパルプ小説を書けた気がするので楽しめて貰えたら幸いです。

参加した企画はこちら。飛び込みまだまだ大歓迎らしいです。
【総合目次】 #パルプアドベントカレンダー2024 |桃之字/犬飼タ伊
明日15日に担当されるのは銀星石|noteさん!お楽しみに!
 


 

 



 

いいなと思ったら応援しよう!